相互記念・天京


京介の手は綺麗だ。サッカーで手は使わないとは言え、練習のときとかボールを持ったり磨いたりいつも天馬の手は泥んこで、それにまるっこい形をしていることもあり、かっこいいとか綺麗だなんて到底思えない。
指が細く長い京介の手は神童のように楽器にも適していそうなしなやかな手だ。そんなものが視界にチラチラしてみろ、ただでさえ白い肌が更に強調され、天馬は目を輝かせるしかない。


掴みたい。
最初はそう思った。掴んで、よく見てみたいと。
次は握りたいと思った。細く伸びる指がどれほどか、知りたかったからだ。
そして、繋げばいい、という結論に漸く達する。京介の手も感じられるし、その後じっくりよく見られるではないか。


「今日の練習でさ、おれのシュートどうだった?前よりキレがよくなったと思うんだけど」

「調子に乗るな。まだまだだ。GKがいないときにどれだけ決めてもしょうがない」

「そうだけど!前京介が指摘してくれた利き足の踏み込みだってよくなってるって監督も言ってくれたよ。京介に追い付くのも時間の問題…なんちゃって」

「…その減らず口、きけないように明日叩きのめしてやるよ」

「お手柔らかにー…」


勝ち気に笑んだ京介が、小突くように指で天馬の額を軽く押した。目の前を通りすぎていく白い手から、目線を離すことができなかった。

手を繋ぐなんて恋人の進展段階で言ったら初歩の初歩じゃない、と狩屋が言っていたことを思い出す。今なら小学生だって普通にしてるよ、となぜだか自慢げに話しているのを鮮やかに聞き流したが、付き合って暫く経つのに手も繋がないのはいかがなものかと考えていたところだったので、天馬は手を繋ぐ光景をシミュレートしてみた。
緊張と喜びで汗が滲む手を互いの手のひらに合わせ、指一本一本、神経ひとつひとつが京介のものと繋がり一体化していく様子。別々の体なのに、繋がった二つの手だけは一つになっていく。
なんて幸せ、なんて充足感。
それだけで天馬の心は舞い上がった。



しかし実行するまでの勇気が少し足りなくて、伸ばそうとしては引っ込め、腕に余分な力が入ってしまいぎくしゃくしてしまう。固まった腕と手で、はたして京介の美しい手のひらをとれるだろうか。
そんなことに一生懸命になっていた天馬は、京介が意味深な視線を寄越していたことには気づけなかった。













正直なところ京介は苛立っていた。練習が終わり兄の見舞いに行き、学校から病院まで、病院から別れ道まで、距離、歩数、時間共々たっぷりあったはずだった。しかし隣の恋人ときたらチラチラこちらに視線を送るだけで、手を伸ばしたと思っても少し迷ってまた引っ込めてしまう。意気地無し、と内心悪態をついた。動くのはその話題を切らさない口だけか、と。

実のところ京介も、自分のことを棚上げにした意見ではある。なにせ京介も天馬と同じように思っていたからだ。
恋人らしいことを今まで出来ずにいた自分を悔いていたし、天馬と手を繋いでいる夢を見てその日は天馬の手を見ることすら出来なかったときだってある。
だから、天馬からしてくれるときを待っていた。一方的に抱きつきはするくせに、二人っきりでとなるとどうも天馬は変に緊張してしまうらしく、いっそいつものノリで来てくれたらと今日も思いながら分かれ道の手前まで来てしまった。
これではいつもと同じだ。
今日の天馬はやけに口数だけ多く、けれど話に脈絡がない。他の考えに気を取られているんだろう。
京介の手のひらはじんわり汗が滲んでいる。京介も緊張してしまっているようだった。


天馬の手を取って握るだけの、余計な考えなんて必要ない、ただそれだけの行為。
無意識に唇が震えた。拒否の言葉なんて天馬から出てくるはずがないとわかっている。言ってしまえば後は流れに任せればいいのだから。後一押しが足りないだけ。発せられる吐息に、言葉を乗せるだけ。それだけ。


「(…なんとかなる)」


京介は歩を止めた。




「天馬」




立ち止まった京介に気づいて振り返る。あんなに動いていた口もパタリと閉じた。



「天馬」

もう一度名前を呼んで見つめると、天馬は京介より一歩前に出ていた足を元に戻してまた横に並んだ。
天馬はようやく京介の様子が変だと気がついたが、京介が何をしようとしているのかわからなかった。目の前に見える分かれ道まで、あと少しの距離だった。



「どうしたの京介」

「…じれったいんだよ、お前」

「え」

「いつでもオレの手ばっか見て、そのくせアクションは起こす気ないみたいだし、半端にも程がある」

「…、それは」

「ほら」

「っ…!」


ば、と勢いに任せて叩くように手を握りしめると、天馬は全身で驚いて硬直した後、顔を真っ赤にしてうつ向いた。


「京介…」

「あぁ」

「…ごめん」

「全くだ」


内心、直接的な意味で言葉には出せなかったことに対して自分も大概意気地無しだと思ったが、握りしめた天馬の手は熱くて汗でベタベタしていて、ああやっぱり天馬も緊張していたということが確認できた途端、恥ずかしさが込み上げて京介も天馬を直視できなくなってしまった。


「…京介、」

「…」

「おれ、京介と手繋ぎたいってずっと思ってて」

「あぁ」

「でも、京介の手すごく綺麗だから、おれの手なんかと繋いで大丈夫かなって不安になっちゃって」

「…はぁ?」

「うん、でも、大丈夫だった。京介の手、綺麗なだけじゃなくて大きくて、あったかいや。怖がってたのがバカみたいだな」

「意味、わかんね」

「京介の手が大好きってこと!もちろん京介の本体もね」

「取って付けたみたいな言い方だな」

「そんなことない、おれ京介大好きだから!」




調子を取り戻したのか赤い顔のまま京介が握っていた手を持ち直して指と指を絡めた。二人の触れる面積が多くなる。京介も絡めた指を更に深く繋ぎ返した。















【僕らの果てしない世界は僕らしかいない】














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〜言い訳〜

ほのぼの系で帰り道さりげなく手を繋ごうとしたけど勇気が持てない天馬に気づいた剣城が繋ぐ的なリクでしたが、
全然さりげなくできてませんね!バレバレです!京ちゃんならもっと男前に繋いでくれそうですが男前な攻め京介を見すぎた反動であやふや京介になりました。なんということでしょう。

咲威様、こんな感じで大丈夫でしょうか…?
返品交換受け付けますのでどうぞお申し付けください!
相互ありがとうございました!これからもよろしくお願いします(*´`*)!!

文は咲威様のみお持ち帰り可です。

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