松半 (病み半田)
ネタは
BUM/P O/F CHICK/EN
『イ/ノ/セ/ント』から
俺は豪炎寺みたいに才能があるわけでもないし、鬼道みたいに天才なわけでもない。
円堂みたいに努力ができるわけでもないし、素直なわけでも勇敢なわけでも人を惹き付ける魅力があるわけでもない。
所詮俺は今この時間、この地球上に立っている人間というカテゴリーに属されたただの凡人で、たとえ今俺の存在がここからなくなったとしても気にかける人間なんてそういないんだろう。
狡い。
妬ましい。
俺だって。
俺だって、そういうもんを持ってたら。
小さいころからサッカーが好きだった。ボールを蹴ってることがただ楽しかった。
それだけのことがなんでこんなねじ曲がってしまったのか。
結局は逆恨みさ、わかってる。
豪炎寺がシュートを決めるたびに。
鬼道が的確な合図や、パスをだすたびに。
円堂が、諦めずに立ち上がって信頼できる仲間が増えていくたびに。
猫に小判、豚に真珠、馬の耳に念仏。
あっても俺が扱いきれるものか?
解ってる。
わかってる。
なのにまたこんなこと考えて。
馬鹿だな。俺。
「そうだね」
空気が微かに震えた。
特徴的なフードの垂れ下がった先端部が、つられて踊る。
「君は馬鹿だよ」
ずどん、と鉄砲玉を内臓に打ち込まれた感じ。
自分で自嘲したくせに、他人に言われてショックを受けるなんて。
「だって、君は半田だろう?」
「…え?」
「今さら、君が豪炎寺みたいにファイヤートルネードとかばんばん打ってエースストライカー?笑っちゃうね」
けたけたと腹を抱えた友人はぽかんと阿呆のように突っ立っている俺の手からペットボトルを引ったくって口をつけた。
「あ、俺のコーラ!」
「ぼーっとしてる君が悪いんでしょ?ぐずぐず悩んでる暇あったら、僕から大事なコーラ取られないように特訓するんだね」
飄々と飲み干したペットボトルを踏み潰す松野に湧いてきたのは怒りではなかった。
だからといって喜びでも悲しみでもない。
もやもや、暗雲が蠢いてる。
「お前に何がわかるんだよ…。お前だって、スポーツならなんでもできるだろ。なんでサッカーやってんだ」
俺より器用で、なんでもできて、俺はサッカーしかないのに。
嘲ってるのか、同情してんのか。
「わかってないんだね、まだ」
松野は近くのガードレールに軽く腰かけた。
「君は凡人だ。でもそれは皆に言えることさ。僕らは雷門中サッカー部。それだけのことだよ」
「…っそんなこと」
「僕らは人間だよ。それ以上でもそれ以下でもない。感情と心臓がある、それだけだ」
「そんなこと!ただの戯言だ!おれは、誰からも」
「僕はそんな君だから、友達になったんじゃない」
松野の、真ん丸の目が閉じられた。
「君だから、半田だから好きになったんだ」
理解できなかった。
理解できるわけがない。
松野の頭がおかしくなったのかと疑った。
けれど松野は目を開けずに、微笑んでいた。
意味、わかんないけど。
声が震えてた。
それでも松野は笑って
そうだね、と呟いた。
【気後れメランコリー】
(僕が側にいるだけじゃダメかな?)
← back →