染吹染 (雪の日の二人)
しんしん、とよく表現される雪は、その擬音がとてもよく合っていると染岡は改めて思った。
音もなく降り注がれる空からの贈り物のおかげで歩道、屋根、街路樹、電線まで今日は白い。
ただ除雪された車道がいつもより黒っぽく見えた。
人が踏みしだいた足跡を頼りに前に進んで、色とりどりの傘を視界に入れながら、この銀世界がきれいだと柄にもなく思ってしまう。
純白の雪が何もかもの汚れを隠してくれるような気がして。
染岡は息を吐き出した。
ぼは、と白く上がる煙のような息の先に、小さな後ろ姿が見えた。
「吹雪」
思わず声を出してしまい少し慌てる。
呼び止めるつもりはなかったのだ。
「…染岡くん?」
耳ざとく聞き分けた声に反応して吹雪が振り向く。
その表情が染岡を認識した途端、花を散らしたような満面の笑みに変わり、かけよってくる。
「偶然だね!いつもは染岡くんと一緒になれないから」
わざと時間をずらしてるんだ、と言いたいのを喉の手前で飲み込んでふぅとため息をついた。
吹雪は雪の結晶がモチーフの白いイヤーマフに、アイボリーのショートダッフル、水色がかった暖かそうなマフラーと左右繋がった紐のついた手袋をしていた。
そこで、違和感。
「………お前、傘は?」
「傘?…あぁ、僕雪の日は傘ささないんだ」
「寒く、ないのか?」
自然に口から出た疑問だった。
吹雪はちょっとびっくりした顔をして、それから含みのある笑みを浮かべて染岡を見た。
「心配してくれるんだ、染岡くん」
「…あ?」
吹雪は震えていたわけでも、寒いと口に出していたわけでもない。
ただ、吹雪の銀のかかった白い髪に落ちた雪を見て、なんとなくそう思った。
友達を気遣うのは当然のことだろう。
そう、当然のことだ。
「別に、心配したわけじゃねぇよ」
口調はぶっきらぼうになってしまって、少しバツが悪くなった。
しかし吹雪は特に気にしなかったようで、とと、と染岡の隣に並んだ。
「な、何だよ」
「学校まで入れてってよ」
「寒いの、平気なんじゃないのか?」
「ふふ、染岡くんが嫌ならいいよ」
「いや……じゃねぇ、けど」
促されて歩きだす。
サクサク、と吹雪の足音は軽快に鳴った。
隣でくせのついた髪が歩くリズムに合わせて跳ねるのが少し面白い。
それに傘は二人が入るには小さくて、そのせいか、吹雪がやけに体を密着させてくる。
小さくて、華奢な体。
くっつけているだけなのにどうしようもなくドキドキしてしまって、だからといってどうすることもできないのが恨めしい。
「あったかいね」
頬を染めた吹雪がはにかむように言うものだから、つられて染岡も口元を緩めた。
(いつまでも、この時間を甘受できたら)
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自覚しかけてるけどまだ完全に認めることができない岡さんと
自覚してて一歩進んでしまうのを躊躇ってる吹雪
とか燃えるなぁと(^^)
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