鬼不 (あきおの怖いもの)





なぁ鬼道ちゃん、この世が平等だなんて言ったやつがいるんだってな。


「相当なクソ野郎だ」


蹴りあげたボールはコントロール良く鬼道の腕の中に落ちた。
不動はニヒルな笑みと同時に自虐的な歪みを称える。

「所詮俺は欠陥持ちの二流品なんだよ、鬼道ちゃん」

「…」

「おっと、同情なんていう生温いこと考えんじゃねぇぞ。俺は後悔なんぞしてないし、俺には俺の生き方がある」

親が最低なやつらだったのも、俺たち家族が破滅へと向かったのも、勝利にしがみつこうとしたのも、その勝利が敗北に代わることが容易かったのも、すべて運命なんていう目に見えない胡散臭い言葉で片付けられるほど、俺は出来た人間じゃねぇ。
ま、あんたにはわかんないことだろうさ。なぁ、鬼道ちゃん?

「…なぜそう決めつける」

「なぜ?なぜ、ねぇ。そこで理由を求めることこそ、それが理由だろうが。あんたに俺の気持ちなんてわからない。勿論、わかってほしいなんて女々しいことも考えてないぜ」

「じゃあ何を求める?」

「あ?」

「お前は今、何を望んでいるんだ」

意表を付かれたのか不動は一瞬目を見開いた。しかしすぐにぎゅうと眉間に皺を寄せる。
鬼道は手を伸ばした。

反射的に不動の体が身構え硬直したのがわかった。無意識に萎縮し緊張するのは怖れからなのか、だとしたら、何に。


「っ触んな!」

「…ッ」

振り払われた手に衝撃が走る。思わず顔をしかめると、不動の表情が刹那、不安に揺れた。

「何をそんなに怖がっている」

「…あんたには関係ないことだ」

「わかっているさ」

「は、わかってて教えてくれって?さすが、高慢だな」

「お前には俺がそう見えるのか?」

「見えるから、言ってるんだろ」

「嘘だな」

「てめ…ふざけてんのかよ」

「至って真面目だ。俺に嘘をつく必要はない、不動」

「っ…」


権力、統制、傲慢、強い力は人を惑わし拘束する。それに身を委ねてしまえば、それまで。
錯綜する不動の気持ちが全てわかるわけがないし、全て知る必要はないと鬼道は思っていた。だから鬼道は問うのだ。

「お前が望むものはなんだ」

それが俺に叶えられるものなら喜んで。力ではなく、おれのこの貧弱な身一つで努力しよう。

「…怖いのは、お前だよ」

「?」

「おれの中に入ってくるから…」

嫌いだ。

絞り出した声のあまりの悲痛さに、鬼道は苦笑して不動の手を引いた。この場にマントがあったなら、すべて覆い隠してやれたのに。代わりに両手をしっかり不動の背中に回し彼の温もりを確かめた。


「俺に嘘をつく必要はないと、言っただろうが」












【魔法なぞいらないから】

(代わりに、あなたがほしい)













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不動が求めていたのは心を許せる人で、でも許してしまうのは怖いよ、っていう話


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