不鬼 (体調が悪い鬼道さん)







空に浮かぶ雲が赤のグラデーションに染まり、頭上を支配し始めるころ。
その会話はごく自然に不動の耳へたどり着いた。














「鬼道…顔色が優れないぞ。今日は早く休んだ方がいいんじゃないか?」

「だが、今日はこのあとポジショニングを考えようと…」

「…俺が代わりにやっておく。だから今日ぐらい、早めに寝てくれ」

「そうか………わかった。頼むぞ、佐久間」

「あぁ。作戦ノート、夕食の後取りにいくよ」

「いや、それなら食事の前に持っていこう。先に食堂に行っていてくれ」













佐久間は当然しぶったが、鬼道はそれくらいやらせてくれと強引に納得させ自室の方へと歩いていった。


ふわふわと風になびくマントは風のせいだけでない要因でも揺れていて、どことなく危なっかしい歩き方をする鬼道が見るに耐えなくなった…例えそんな理由だったとしても、不動は認めないだろうが。























「…いつまでついてくる気だ不動」

「あんたが部屋入ってぶっ倒れるまで」







気配を消すなんてどっかの忍者じゃあるまい、普通についていったら鬱陶しかったようで不機嫌そうに顔をしかめた鬼道は傍目から見ても真っ青だった。
これでまた深夜遅くまで仕事をしようとしていたのだから、責任感が強すぎるのも考えものだと不動は頭を抱えたくなった。






「鬼道くんさ…もう少し人に頼るってこと覚えた方がいいじゃねぇ?」

「…今日の分は佐久間に頼んである。それに、お前が言えたことか?」

「うっせぇよ、いっつもいっつも、嫌みしか返せないのか」

「…またそっくりそのまま返そう」







ふと、鬼道の足が止まったと思ったらもうそこは鬼道に割り当てられた部屋。そそくさと入ろうとする鬼道に不動はあわてた様子でマントを引っ張った。




「おい、何のつも」

「ノート」

「…は?」

「佐久間に渡すっつったやつ。寄越せ」

「な、何を言って…」

「俺が渡してきてやるって言ってんだ。察しろバカ」

「それくらい自分でや…」









鬼道の体がぐらりと揺れた。それを不動は難なく受け止め、にやりと不敵に笑ってみせた。




「それみろ、強がんなって鬼道ちゃん。体は正直なんだからさ」





一方、受け止められて不覚にも不動の腕の中に収まってしまった鬼道は情けなさと羞恥で赤らんだ顔を見せたくないのか勢いよく跳ね起きた。
しかし反動で再度ぐらついてしまい、不動がせせら笑う。






病人は大人しく寝てればいいんだよ、と部屋に押し込みベッド目掛けて突飛ばしす。よろけて尻餅をついた鬼道が不動に文句を言おうと口を開いた瞬間に、顎を掴まれた。










ひやりとした指の感触と、月光で照らし出された間近の青白い肌に魅せられ言葉が出なくなる。
それをわかってやっているのだから、厄介だ。












「なーに、俺に見とれてた?」

「…まぁな」

「なんだ、やけに素直じゃん。不調だから?」

「知らん。それより、寝かせてくれるんじゃないのか」

「モチロン。けど、一回だけ」

「お、おい、ふど…!ん、…ッ」








不動のキスはその性格に反してひどく甘ったるい。
押し付けて離れてまた短く重ねる。
離れるたびいちいち目を合わせてくるのは嫌がらせだろうかとどんどん微睡む己の思考回路に叱咤する気もなれず、唇との間をなぞるように横を這った舌に合わせて自然と口を開いた。



見計らったようにねっとりと浸入してくる舌の感触に全身が震える。


暖かい。
合間合間に熱い吐息が漏れた。






「結構乗り気じゃねぇの」

「そ、んなことは…」

「ふん、今日の鬼道ちゃん素直すぎてつまんねぇな」











不動はきょろりと部屋を見渡し、整理した机の上に置かれている一冊のノートを取り上げた。
中身をざっと確認してからそのノートを小脇にかかえ、ベットに座る鬼道の耳元に顔を近づけてうっすら笑う。












「せいぜいゆっくり休めよ、鬼道」

















耳に心地よい音色をもたらした後、鬼道の意識は唐突に流されていった。
刹那、視界の端に写った見たこともないような優しさを孕む吊り気味の瞳を脳裏に残して。






























「遅いな…鬼道」


そんなに体調は悪かったのか、まさか途中で倒れてしまったのでは、向かえに行きたい、しかし鬼道には待てと言われた。
食堂に残っているのは佐久間一人、皆はとっくに食事を終わらせて自室に引き上げている。
ムズムズと苦しい胸の内で攻撃してくるものは佐久間の脳内を侵食していった。




「ああ、もう!」



辛抱も限界寸前に陥り堪らず勢いよく立ち上がったその瞬間、人の気配を感じて思わずそちらに頭を振った。




「なんだ、まだ居たのかよ。健気だねぇ」


「ふ、不動!?鬼道は…?」


「寝たよ。俺の子守唄でコロリ、だ」









ニヤ、と半ば勝ち誇ったように口の端を上げた不動に佐久間は次の瞬間、足を振り上げていた。





「てめぇえええ!鬼道に何しやがったああああああああ!!」













【完全には程遠い】









(ちょ、落ち着け佐久間!お前の蹴り洒落になんねぇからな!仮にもFWだし)

(お前と鬼道の仲は鬼道が決めたことだ。俺が口を出すことじゃないがもし鬼道に変なことしてみろ、お前の大事なとこ再起不能になるまで蹴り倒してやるよ)

(完全目ぇ据わってるし…)


 back 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -