ハッピー
2013.03.14.Thursday
「ただいま」
「ああ。遅かったな?」
「ちょっと新人がトラブって、放っておくわけにいかなくなったんだ」
ネクタイを時ながらため息混じりに答えたターレスの顔は、あっさり答えた声以上に疲れて見えた。
風呂にするか、と尋ねてソファから立ち上がったトーマは、近づいてきたターレスに手を伸ばして優しく黒髪を梳くと、薄く微笑んだ唇にキスをした。
「珍しいじゃないか。おまえが世話してやるなんて」
「あまりにもトロくて放っておけないんだ」
「……へぇ」
もう一度唇を重ねてから、細い目を少し開いたトーマを見つめ、ターレスは口角を引き上げた。
「妬けるか?」
「ん?」
「――そんな顔してたから」
片眉を上げて楽しげに問うターレスに苦笑いを返し、トーマは目の前の褐色の頬にキスをして身体を離した。
「野暮なこと聞くな」
「ハハっ、そうだな。――それより、トーマ?」
「なんだ?」
「期待してるわけじゃぁないけど……今日何の日か知ってるか?」
「――今日?」
「やっぱりなぁ」
クスっと笑ったターレスに何だと問い質したが、肩をすくめるばかり。
眉をひそめてカレンダーに目を向けたトーマは、あっと短く声を上げた。
「すまんっ、すっかり忘れていた」
「いいさ。その方がトーマらしい」
「言ってくれれば……」
「早く帰れたら、飯でもとは思ったんだが。まぁ、ゲイには関係ないイベントだし、いいさ。ちょっとからかっただけだ」
フッと笑みを零したターレスの表情は言葉どおりなんでもないことだと言っていたが、意外にイベントごとが好きなのは知っていた。
トーマは頭をかいて暫く考えていたが、何かを思い立ってキッチンに行った。
「トーマ?」
「日付変わるまで15分か。なら、十分だな。ちょっと待ってろ。先月のお返しにしちゃパッとしないが……」
ブツブツ言いながらミルクパンに牛乳を注いで火にかけたトーマを横目に、ターレスは一先ずラフなルームウェアに着替えることにした。
「待たせたな」
「?」
「ホットカルーアだ」
目を合わせず、照れくさそうに渡された耐熱のガラスコップを受け取ると、カルーアの独特の甘い香りが鼻をくすぐる。あまり甘いカクテルは好まないターレスだったが、ホワイトデーをすっかり忘れていた恋人の精一杯の気持ちだと思うと、こそばゆいような嬉しさでカクテルに口をつける前から胸にじんわりと温もりが広がった。
「甘い……」
「ハハ。ホワイトデーってやつは、甘いものをお返しするんだろ?」
「まぁ、確かに、ああ、……そうか」
「どうした?」
ふと言葉を切ったターレスがニヤリと笑ったのを見て、トーマは首を傾げた。
「なあ……」
コップを対面キッチンのカウンターに置き、トーマに一歩近づく。
後ろで束ねた髪を解きながらトーマの耳に唇を寄せ、ターレスはごく小さな声で囁いた。
「はぁ!?」
「いいだろ。……一回くらい」
「うーん、しかし、なぁ……」
「大事な日を忘れた罪滅ぼし」
「痛いところつきやがって……。今夜だけだぞ?」
「――出来るのか?」
「ったく、言いたい放題だな。あんた意外に掘らせたことなんてなかったんだよ、オレは。――癖になっても知らないぞ?」
「とっくになってるさ」
トーマは腰を抱き寄せてきたターレスの腕に逆らわず、近づいてきた唇を受けとめて深いキスを交わしたまま、傍のソファ腰を下ろした。
はいw
トマタレトマーのつもりですが、分かりづらいですよね(;´▽`A``
一応ホワイトデー記念w
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