何故だか急に

2013.03.11.Monday




「ほんとにこれっきりか?」
「……終わらせたいのはてめぇの方だろ」

アンダースーツに袖を通し、タバコを加えたバーダックは、ベッドに横たわったままのターレスを振り返り、すこし間を開けて答えた。

「一度くらい、あんたにも言えばよかった」

独り言のような言葉を背中で聞きながらブーツを履き、立ち上がる。吸う気の失せたタバコを揉み消し、バーダックはスカウターを手にして、枕元に立ってターレスを見下ろした。

「てめぇから引き出そうという努力もしなかったからな。自業自得だ。後悔してるなら、その言葉は、これからカカロットにくれてやれ」

裸の上半身からブランケットを滑らせ、体を起こしたターレスの目にも真っ直ぐそれを見つめ返すバーダックの目にも、一晩だけでは割りきれない思いが滲んでいる。だが、同時にそれはもう思いでなどという感傷の似合わない二人の過去になろうとしている思いだということも、どちらもよく分かっていた。

「今夜のこと、カカロットに言うんじゃないぞ」
「分かってる。……そんな直ぐにフラれたくないからな」
「あいつがてめぇをフレるのなら、こんな忠告しない」
「そんなもんかな」

苦笑いしたターレスに背中を向け、バーダックはまるでいつもと変わらない情事の後のように、何も言わずに部屋を出ていった。


扉がしまるまで背中を見送ると、溜め息が漏れそうになる。だが、何となく自分にはその資格がない気がして、グッと飲み込んだ。もう一度寝ようか迷っていると、枕元でスカウターが鳴り響く。

何気なく左耳に装着し、スクリーンに移ったら名前を見たターレスは、一寸さっきまでの出来事を全て見られたかのように背筋に冷たい感覚が走った。

「ターレス、おーい、聞こえてっか」
「あ、ああ、カカロットか」
「そうだよー。まだ寝てたんか?」
「ああ。今、起きた」
「そっか。じゃ、おめぇんち遊びに行ってもいいだろ?」
「……」
「ターレス?」

答えが遅れたのは、昨夜、けじめのためとはいえ、バーダックに抱かれたベッドでカカロットを抱くかもしれないと想像してしまったから。らしくもない罪悪感は、その事実を知ったときのカカロットの顔を想像したせいだ。ターレスは小さく笑って、髪をかきあげた。

「近くにいるのか?」
「うん」
「じゃあ、直ぐにいくから待ってろ。今日は外で会いたい」
「……わかった」

一瞬カカロットの答えに間が空いたのが気になったが、乱れたベッドのシーツの中からスーツを探しだし、身に付ける。スカウターを通信元に合わせ、まだすこし肌寒い空に飛び出すと、10分も経たないうちに、高い建物の屋上に座っているカカロットが見えた。

「ターレスっ」

嬉しそうに手を振り、文字通り飛び付いてきたカカロットを受け止め、髪を撫でながらキスをする。

「ターレス、煙草すってきたんか」
「え?」
「スーツに臭いがついてっから」
「あ、ああ。悪いな、苦手か?」
「この匂い慣れてるから……」

笑顔で答えようとしたカカロットの顔があからさまに強ばっているのに気付き、ターレスは後にも先にも感じたことのないほどの罪悪感に胸が突き刺されるようで、泣き出しそうなカカロットをきつく抱き締めた。

「悪かった。だが、な……カカロット。欲しいのはおまえだけだ。信じられるまで、何度でも言うから、行かないでくれ」
「ターレス……」
「カッコ悪いだろ。おまえが、好きなんだ」

カカロットにくれてやれ

感情を抑えた男の声がターレスの脳裏に甦る。
今度こそ……
斜に構えるのはやめだ。

深く行きをはいてもう一度同じ言葉を囁くと、カカロットがきつく抱きついてきた。

「うん。でも、……もっと聞きてぇ。オラ、今日、泊まってく」
「ああ」

ホッと息をついて答えたターレスを見上げ、カカロットは昨日よりも大人びた目で静かに笑みを浮かべた。



とりあえず、カカたんは当分のあいだ、タレにワガママ言っていいよっ(→.←)




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