ヘロヘロ・・・・

2012.11.19.Monday


 扉が開く音に振り返ってみると、ターレスが立っていた。

「ご迷惑をおかけしました」

 硬いパイプ椅子に腰かけた悟空をチラっと見て、向かいの席で立ちあがった警官に頭を下げる。
 
「いや、良かった、お兄さんと連絡がついて。ご心配されたでしょう?」
「はい。申し訳ありません」
「いえいえ。捜索願いを出していただいていたから、大事になる前に見つけられてよかったです。――君も黙って家を飛び出しちゃいけないぞ?」
「はい」

 場の緊張をほぐそうと人懐っこい笑顔を見せた警官に素直に頷き、悟空はターレスが差しだされた書類に記入する様子をぼんやり見ていた。

「じゃ、気をつけて」
「はい、ありがとうございました」

 もう一度丁寧に頭を下げたターレスを見て、悟空の胸がズキリと痛む。
 いつも自信に溢れ、プライドに見合うだけの能力と魅力を兼ね備えたターレスが、兄弟どころか、何の縁もゆかりもない自分のために詫びているかと思うと、堪らない気持ちになってくる。

 警官に見送られ、交番を出たターレスから数歩離れて着いていく。何も言わずに駅への近道になる路地に入ったターレスを慌てて追いかけ、謝ろうと口を開いた直後、頬に焼けるような熱い痺れを感じた。

「――っ、タ、ターレス……っ」

 平手で殴られたのだと気づいた時には、バランスを崩してビルの壁に背中をぶつけていた。痛みで自然と涙が滲んだ目でターレスを見上げ、悟空は自分を見下ろす男の見たこともないほど厳しい表情に声を震わせた。

「分かったか!?おまえがどれだけ大人だと主張したところで、家を飛び出せばすぐに保護されるガキなんだ」
「ご、ごめ……、んっ。オラ……っ、だって、……っ」

 話す度溢れる涙を必死で抑えようとしていた悟空は、苛立ちを露わにしたターレスに何とか自分の気持ちを伝えようと必死で言葉を続けた。

「くそっ、大人しく……ガキのままで、いれば、――こんな……」
「ターレス?」

 まだ何も言えずにいるうちに、低い声で苦々しげに吐き捨てたターレスに前触れなく抱き締められた。呼吸もままならないほど強い腕の力に驚き、ターレスの名前を呼んだが、答えは返ってこない。暫くなすがままに抱き締められていた悟空は、遠慮がちにターレスの背中に手を回すと、広い肩がピクリと跳ねた。

「――ッ、ん、っ……ぅん……っ」

 突然腕の力が緩んだかと思うと、悟空の腰を抱いていたターレスの手が頬に触れ、深く口づけられる。

「……オレに惚れるな」

 矛盾した言葉に首を振り、ターレスのセーターを掴んで顔を上げる。

「無理だよ、ターレス。……もう、ずっと前からおめぇしか見えてないのに。――好きになるなって言うんなら、オラの家出……止めねぇでくれよ」
「おまえの……ために言ってるんだ。オレみたいな男でなくても、おまえなら……いくらでも大事にしてくれる奴に出会える。オレはそれまでの保護者に過ぎないんだ」
「オラ、他の奴とキスして、こんなに……ドキドキできるって思えねぇ。ターレスが何言っても、おめぇの腕ん中はあったけぇし、……キスもすごく熱くて、優しかった。なぁ、ターレス、おめぇは……何とも思ってねぇ奴にこんなキス、できるんか?」
「――止めろ」

 言葉とは裏腹に悟空を強く抱きしめたターレスの声が低く、耳の傍で響く。

「――ッ、ターレスっ、止め、ねぇっ。オラ、ターレスが好きだっ」

 悟空もまたターレスの胸に顔を押し当てて抱きつき、抱え続けた思いのたけをぶつけるように叫んだ。

「オレは、おまえの笑顔を守る自信がない。おまえを泣かせて、……それでも、離さないと言うような奴だ」
「ターレスは……そんなことしねぇよ」
「今までずっとそうだったんだ。誰といても……自分しか、愛せない」
「じゃあ、どうして捜索願いまで出したんだ?おめぇの言うとおりなら、オラが消えても……気にしねぇはずじゃねぇか」

 顔を見られたくないのか、身長差のある悟空の肩に顎を乗せるような格好のターレスの黒髪を悟空はあやす様に撫でて、静かに話した。

「……おまえが帰ってこないと思ったら、パニックしたんだ」
「ターレス……」
「悟空。――オレは、おまえを幸せに出来ると思うか?」
「うん。ターレスにしかできねぇよ。だから、おめぇを……幸せに出来んのも、オラだけだって思って、傍にいてぇ」
「高校生は、大人……じゃないよなぁ」

 悟空を抱き締めていた手を離し、脈略のないことを呟いたターレスをポカンと見上げる。
 いつもは冷やかに光る黒い瞳に突如溢れた生々しい感情の名前を見つけられないまま、悟空は再びターレスの腕の中にいた。

「おまえはオレが大人にする」
「ターレス……」
「オレと一緒に帰る気があるのなら、……覚悟を決めろ、悟空。泣いても止めないぞ」
「――っ、オラっ、……怖いけど、一人じゃねぇ、から」
「そうだな」

 拳を握って答える悟空を見るターレスの口許がフッと緩み、今夜初めて穏やかな笑顔を浮かべる。驚いている悟空の手をとって指を絡め、ターレスはごく穏やかな声で行くぞと言って歩き出した。

「ターレス?」
「……拒絶されなくて浮かれているんだ。このくらいいいだろう」

 駅に着いても繋いだ手を離そうとしないターレスを見上げた悟空は、思いがけない答えに頬を染めた。

「じゃ、家まで離さねぇでくれよ?」
「……多分一生だな」

 ターレスは悟空の頭のてっぺんにキスを落とし、悪戯な笑みを浮かべた。




なんかもう黒ちゃんに癒され隊過ぎてグダグダ(笑)
ちなみにお巡りさんはトーマさん(聞いてねぇっΣ!)

22:23|comment(0)

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