時々……
2013.02.14.Thursday
オープン直後のショッピングモールを目的の店へ足早に歩きながら、悟空はまだまばらな客の視線が全部自分に集まっているような気がしていた。
シックな赤と金をメインにした特設売り場は、客足が少ないであろう平日の朝を狙ってきたものの、バレンタインデー当日ということもあり、滑り込みで義理チョコを買いに来たらしいOLの姿が見られる。男一人には明らかに入りづらい売り場を横目に同じところを三週したとき、誰かが悟空の前に立った。
「このチョコ、気に入ったか?」
「へ?」
「いや、失礼。さっきから何度も前を通ってるけど、ここでは特にゆっくり歩いてたからね」
自分より軽く頭1つ分背の高い男のそつのない笑顔に自然と顔が赤くなったが、悟空はどうやら店の人間らしい男の言葉にコクリと頷いた。
「シ、シンプルだけど、一番美味しそうだなって思って……」
「嬉しいこと言ってくれるな。まぁ、確かに今年のは自信作だ」
「え?こ、これ、おめぇが?」
「ああ」
浅黒い肌が特徴的な男を目を丸くして見上げていた悟空は、客相手とは思えない男の不敵な笑みに気圧され、視線を逸らした。
「あ……」
視線を向けた先にディスプレイされたチョコレートの向こうのガラス張りのスペースの片隅に貼られた写真に気づいて、思わず声が漏れる。軽く振り向いた男は悟空の呟きの理由が分かると、フッと笑みを零した。
「ショコラティエは男の方が多いぞ?」
「ショコ……?」
「チョコレート専門の菓子職人だ」
男はそう答えると、悟空の見ていたチョコレートを渡し、一緒に名刺を渡した。
「ターレ、ス?」
「ああ。良かったら店にも来てくれ。ぜひおまえの恋人にも会いたいからな」
「こ、ここっ……」
「わざわざ人の少なそうな時間に男一人で買いに来たってことは、恋人も同性だろう?」
「なっ……」
否定できずに真っ赤になった悟空見て、ターレスは軽く肩をすくめると、ガラスの向こうにしつらえられた小さなキッチンスペースに立った。
「名前を入れてやる」
「え?」
「パートナーの名前だ」
「……で、でも……オラ……」
「いつもならアシスタントがする仕事だが、世界に一つだけのチョコレートにしてやる。遠慮するな」
「うん」
悟空は小さく頷いて、ターレスの手招きに答えてキッチンスペースに近づき、ごく小さな声で恋人の名前を告げた。
「……カカロット?」
「あ、うん」
「ふぅん……」
「知ってんのか?」
「いや、珍しい名前だと思っただけだ。直ぐに作る、待ってろ」
黒い目を一寸細めたターレスの表情に何かを感じて問い返すも、直ぐにそつのない笑顔を返されてしまう。悟空は手早く恋人の名前が描かれていく様をジッと見つめていたが、キレイにラッピングされた箱を差しだされ、慌てて財布を取り出した。
「ありがとう」
「いや。……店で会えるのを楽しみにしている」
「う、ん……」
含みのある声とは対照的な静かなターレスの表情を見上げ、悟空は戸惑いながら頷いた。
カカ空さんじゃねーーー><
でも、カカ空さんなのよ♪
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