だらっと……

2012.11.25.Sunday

 耳元で名前を呼ぶ声と肩を揺する手の動きで重い瞼を開く。天井の照明を覆い隠したカカロットの笑顔で自分の居場所を思い出し、ゆっくり体を起こした。

「おはよう。喉乾いただろ?」

 妙な問いに眉をひそめたが、実際喉の奥が引っ付いてしまうかと思うほどカラカラだった。渡されたコップ一杯に入った水を一気に飲み干し、ベッドの頭のところに置く。並んで腰を下ろしたカカロットの青い瞳がいつになく真っ直ぐオレを見つめているのに違和感を覚えたが、何故だか悪い気はしなかった。

「覚悟はしてたけど、その顔……昨夜のこと覚えてないんだな」
「昨夜?」

 声を出した途端、こめかみがズキリと痛む。胃のムカつきといい、疑いようもなく二日酔いだ。いつもつるんでる連中と遊び半分で酒を飲んだのは覚えているが、恐らく酔っぱらってしまって、家に帰るわけにも行かず、カカロットの家に転がりこんだのだろう。

 よく入れてくれたよな……

 最後に時計を見た時には、確か0時を過ぎていた。
 深夜に突然訪れ、迷惑なのは考えるまでもないだろうに、文句を言われた記憶もなければ、今も不満そうな様子は欠片も見られない。

 カカロットはターレスと同じ高校生だが、家の事情で去年から一人暮らしを始めた。下手をすると溜まり場になりそうなところだが、カカロットがどちらと言うと他人に対して壁を作る性格なこともあって、あまり人が来ることはないようだった。

「立てる?」
「はぁっ?」

 カカロット脈略のない問いに間抜けた声を上げ、何言ってるんだと立ち上がろうとする。だが、その途端、腰に鋭い痛みが走り、ベッドに逆戻りした。

「痛ぇ……な、んだ、これ」
「――手加減できなかったんだ。ターレス、あんまり色っぽいし、男とヤルの初めてとは思えないくらい、感じてたから煽られて……」
「ヤ、ル……?」
「酔ってたとこ手籠めにしたわけじゃないからな」
「手籠め、って古臭い言葉、いや、そういう問題じゃなくて……っ、オイっ、じゃあ、オレ……おまえ、その……」
「うん。夜中に急に好きな奴が来て、酔っぱらった勢いかもしれないけど、半裸でキスされたら止まらないよ」
「オ、オレがっ!?」

 信じなくてもいいけど、と笑ったカカロットをジッと見つめ、必死で昨夜の記憶を辿る。正直自分からキスをしかけた覚えは全くなかったが、前触れなくカカロットを受け入れて喘いでいた時の感覚が蘇った。

「お、おまえ、その……」
「うん。ゲイ、なんだよ。男にしか興味ない」
「だ、だから、って、なんでオレを……」
「好きになるのに理屈ないだろ?」
「まぁ、そうか……」

 納得している場合じゃなかったのかもしれないが、不思議と嫌悪感はなかった。
 それどころか記憶が定かでないのが少々残念な気もしたくらいだ。

「二度と嫌だと思われてもそれは仕方ないけど、無理矢理じゃなかったんだ。これだけは信じてくれよ、ターレス」
「おまえがそんな奴だとは思ってない」
「良かった」

 心底ほっとしたのか、いつもは少し冷たく見えるカカロットの青い瞳がぐっと和らいで見えた。

「覚えてないの、癪だから……来週末は素面で来る」
「え?」
「今、彼女もいないし、おまえなら別に付き合ってもいいからな」

 途中で恥ずかしくなり、顔を背けてぶっきら棒に言うと、カカロットの手が肩にそっと触れてきた。振り返ろうとした途端、強く引き寄せられ、シャワーを浴びたばかりの身体から漂う石鹸の香りに包み込まれる。

 ありがとうと繰り返す吐息が耳を擽り、気恥ずかしくなった。

「ターレス、キスしていい?」
「オレも今思ってたとこ。……ビックリした。男とキスしたいなんて、思うもんなんだな」
「好きなら、ね」
「納得」

 照れ隠しにニヤっと笑い返したオレの唇はカカロットの唇で優しく塞がれ、暫しは二日酔いの鈍い頭痛も吹き飛ぶほど、オレ達は夢中でお互いの濡れた唇の感触に没頭した。





タレ初体験記憶なしとか、ちょっとカカさん可哀想な気もするけど、来週末はたっぷり記憶に残る夜になるかとw

13:06|comment(2)

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