トマタレ劇場其の一
2013.01.15.Tuesday
インターフォンの音で目を覚まし、気だるさの残った体を起こす。
ベッドサイドのミニチェストに手を伸ばす。寝起きの掠れた声でインカムに答えると、スピーカーの向こうからやや遠慮がちな声が先生と呼び掛けてきた。
「すぐ行く」
そう答えて受話器を置いてから、しまったと呟く。この街の学校に赴任して3ヶ月。休日に自分を訪ねてくる生徒がいるとは思えない。そうなると訪ねてきたのはトーマの学校の生徒だろう。
答えた以上は出ないわけにも行かず、ターレスは適当な服に着替え、玄関に急いだ。
「お待たせ」
「い、いえっ、あの、休みの日に……っ」
「トーマなら留守だ」
ペコッと頭を下げ、ターレスの顔も見ずに話し始めた青年の言葉に割り込み、驚いて顔を上げた青年に穏やかに微笑んでみせる。ずれた眼鏡を片手で直し、もう一度頭を下げた青年は、どうしたものか困った様子でターレスを見上げた。
「ジョギングに行ったんだ。早くても30分は戻らないけど、中で待つか?」
ターレスの問いに首を左右にブンブン振り、青年は学校で話しますと言った。
「そうか?」
「はい。お邪魔しました」
「いや、……名前は?」
「え?」
「来たことを伝えておくよ」
「いえ、いいんです。ありがとうございます」
「そうか?」
ターレスの問いに無言で頷き、青年は頭を下げた。
「あの……」
「?」
「あなたは……」
「え?ああ、トーマの友人だ。昨夜は終電逃して泊めてもらったのさ」
「そうですか」
それ以上根掘り葉掘り聞くタイプでもないのだろう。青年は律儀にもう一度頭を下げてから帰って行った。
「ターレス?」
「ああ、起きたんのか、おはよう」
寝室に戻ってすぐ、トーマに声をかけられ、ベッドに近づく。手招きされるまま顔を寄せると、大きな手がターレスの頬に触れ、二人の唇が重なった。
「生徒が来てたぞ」
「え?」
「名前を聞いたけど、学校で話すと言って言わずに帰った」
「誰だろうなぁ」
首を傾げるトーマから離れ、本棚に並べた本の間から学級写真を引き出す。ターレスは暫く黙ってそれを見ていたが、落ち着いた顔立ちの眼鏡の青年を見つけると、ベッドに腰を下ろしてこいつだと指差した。
「悟飯か……」
「問題児には見えなかったけどな」
「ああ、学年トップだからな。だが、ちょっと……」
「どうした?」
「いや、受験のストレスかもしれないんだが、この前、深夜徘徊で補導されたんだ。そのとき。住所も名前も言わずに学校とオレの名前だけ話したらしくて……」
トーマはそう言って暫く考え込んでいたが、ターレスに後ろから手を回し、明日話を聞いてみると言った。
「話……だけにしろよ」
「は?」
「こっちの話。朝飯にしよう」
ターレスははぐらかすように笑い、玄関先で言葉を交わした青年の目を思いだし、溜め息を噛み殺した。
続くかは、不明(笑)
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