やっぱり

2013.01.13.Sunday


ロッカールムのドアが開く音に、ハッと顔を上げると、スーツのポケットに手を突っ込んだターレスが火をけたばかりらしいタバコを手に立っていた。

「なんだ、その顔は」
「ちょっと、転んだんです」

備え付けの救急箱を開きながら、内心舌打ちしたい気持ちを堪えてぶっきらぼうに答え、シャツのボタンを外す。一見スラリと華奢に見えるトランクスだが、タンクトップに隠れた胸元にはバランスよく筋肉がついている。タバコの煙を1つ吐いて近づいてきたターレスが、まだほとんど吸っていないたばこを灰皿に押し付けるまでの動きを、腕の擦り傷に薬をつけながら目で追っていると、思いがけないタイミングで伸びてきた褐色の手に顎をすくわれた。

「何ですか?」
「……商売道具に傷つけやがって。治るまで店には顔を出すなよ」
「見えるところは最低限にしてるだろ?」

ムッと口を尖らせ、顔を大きく右に動かし、ターレスの手を振り払う。治療を続けようとしたトランクスより早く、ターレスがパンどエイドを手にし、左目のすぐ下の傷に貼りつけた。

「ーーっ」
「自業自得だ。うちの店は傷物を並べる気はないからな。さっさと治せ」

フンと鼻を鳴らしてそう言ったターレスは、肩の痣に湿布をあててやり、トランクスが断る間もない手際の良さで包帯をまいた。

「……変な特技があるんですね」
「医学部だからな」
「え?」
「意外な経歴か?ホストの方が天職だろう?」

片眉を上げて笑うターレスを青い目で胡散臭そうに見返し、肩をすくめる。一通り応急処置を終えたターレスが、新しいタバコに火を点けるのを見て、トランクスは軽く頭を下げて立ち上がった。

「いいか、少なくとも顔の傷が消えるまでくるなよ」
「この方が女の子のウケがいいかもしれませんよ」
「知ったような口をきいて、ナイト気取りも結構だが、うちの店をその辺のヤクザな店と一緒にするな」
「……分かりました」

口調はいつもと変わらないが、目が笑っていないターレスを見て、トランクスはまだ少し負けん気をかんじさせながらも素直に頷いた。

「どうせ守るのなら、次からはどいつが下心抱いてるかくらい、事前に観察しておけ」
「なっ」
「……悟天は女ウケがいいだけじゃないぞ?むしろ……ゲイの方が狙うだろうな。開発しがいがありそうだから」
「あの客が何かするって分かってたのか?」

まだ本人にすら気づかれていない可能性もある気持ちを言い当てられ、トランクスの形のいい、眉がぐっと釣り上がる。だが、ターレスはその反応を意に介した様子もなく、下心は丸見えだったな、と答えた。

「なら、忠告くらいしろよ!」
「オレにキューピッドが似合うと思うのか?惚れたと言いながら、見たいところだけ見ていたおまえと、呑気なあいつの自己責任だ」

怒りをはぐらかす言葉に続いて、核心をつかれ、トランクスが言葉につまってしまう。ターレスは肩をすくめていいから帰れと言った。

「客で来るなら、怪我は問題ないよな?」
「従業員割引はないぞ?」
「金には困ってないから。失礼します」

整った顔に怒りを滲ませてそういい残し、トランクスはやや乱暴にロッカールムのドアを開けて振り返らずに出ていった。

「……若いのを苛めてやるな」
「なんだ、聞いてたのか。悪趣味だな」

トランクスと入れ違いに入ってきた焦げ茶色のダウンコートの男をみて、ターレスが苦笑いする。どう見てもホストという風情ではない男の名はトーマ。繁華街の一角で深夜営業をしている整体院のオーナーだ。

「おまえが呼んだんだろう」

楽しげに答えたトーマにまぁなと小さく笑って答え、ターレスはエアコンの調節をしてからスーツの上着を脱いだ。

「右肩が張っててな」
「くせになってるんだろうな。美人の恋人の腕枕でもし過ぎたか?」
「一言多いんだよ」

軽口を叩くトーマを呆れ顔で見返し、脱いだダウンを受け取ってハンガーにかけてやる。半袖の整体師用の白衣姿になったトーマを見て、ターレスはふと思い立った疑問を口にした。

「出張の施術でもその格好は必要なのか?」
「いや、ジャージで行くことも多い」
「オレは見たことないぞ」
「おまえの施術をするときは、これが仕事だと忘れないようにしてるんだ」

悪戯な口調で答えたトーマをターレスが無言で見据える。長い付き合いから、なにか言いたいことがあるときづいたトーマは、一旦ソファーベッドに並んで腰かけた。

「どうした?」
「それは、オレが失恋したら、慰めてくれるくらいの仲だとおもつていいのか?」
「……なにかあったのか?」
「オレじゃなくて、相手に……だな。オレとは正反対のいい奴が現れてなぁ。いっそ、あんたと今夜浮気でもすれば、あと腐れなく嫌われてやれるかもな」
「止めろ。……そんな中途半端に惚れた相手じゃないはずだ。ちゃんと話し合え」
「言うと思った」

トーマはクッと喉を鳴らして笑ったターレスの前髪を片手でクシャッと潰し、次の予約があるからやるぞ、と言った。

「ターレス……」
「ン?」
「オレでいいのなら、ほんとにフラれた時には、心も体も面倒みてやる」
「ああ、頼む」

ほどよい力加減で背中を押すトーマの掌の温もりを感じながら、ターレスは抑揚のない声で静かに答えた。






結構長くなった(;A´▽`A
あー、でも、ホストさん。まんせーーー♪ヽ(´▽`)/


そして、まさに部外者が勝手に便乗全力土下座m(__)m


13:15|comment(0)

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