色々

2013.01.12.Saturday


「ただい……」
「あああっ!!」

 皆が集まっているであろうリビングのドアを開けながら、声をかけようとしたターレスの言葉を大きな声が遮る。
 一瞬ぎょっとしたものの、そのまま中に入ったターレスは目に入った光景に溜め息を吐いた。

「おお、帰ったか、ターレス」
「帰ったか、じゃないよ、トーマさん!!悟空から離れてっ!!」
「ん―?」

 呑気に片手を上げて挨拶するパートナーの前に置かれた酒のボトルと、隣に座らせた黒髪の青年の肩を抱いた手を見て溜息を吐く。反対隣りに炬燵の角を挟んで並んでいた金髪の青年は、噛みつかんばかりの勢いでトーマに食ってかかっているが、どうやらターレスが買い物に出た間に酒でいい心地になっているトーマは一向に堪えた様子はない。

 一方、突然トーマに肩を抱かれた悟空は両手で甘酒を持ったまま俯き、頬を染めている。そのリアクションが甘酒のせいか恥ずかしさのせいかは分からなかったが、このままでは悟空を溺愛と言っていいほど大事にしているカカロットの怒りが本物に変わるだろう。

「悟空、こっちに来い」

 ターレスは買ってきたファーストフードのチキンのパックを少し乱暴に炬燵に置くと、悟空の傍に立って腕をつかむと半ば無理矢理立ち上がらせた。

「なんだ、ターレス、ヤキモチか?」
「いい加減にしろ、トーマ。ったく、相変わらず酒が入ったらただのセクハラオヤジだな」

 ターレスは心底呆れた様子で溜息を吐くと、カカロットの向かい側の席に腰を下ろし、さっきまでトーマに肩を抱かれていたカカロットが置きっぱなしにしていた甘酒のコップを渡してやった。

「カカ、怒ってんのか?」

 隣にちょこんと座り、遠慮がちに問いかけた悟空の言葉にカカロットはもう一度トーマを睨んでから首を振った。

「別に悟空が悪いわけじゃないから」
「トーマさんにはオラなんか子ども過ぎっから、心配ぇいらねぇよ」

 ホッと息を吐いて笑顔を見せた悟空の邪気のない言葉にカカロットのこめかみが僅かに引きつる。炬燵に肘をつき、開いたコップに酒を注いでやっていたターレスは、カカロットと目が合うと軽く肩をすくめた。

「無邪気過ぎるのも罪だな」
「へ?」
「悟空はこれでいいんだから、ほっといてくれよ」
「カカ、どうしたんだ?」

 ターレスの冷めた口調が勘に触ったのか、カカロットがまた語気を強める。二人のやりとりに驚き、目を丸くした悟空は、カカロットの袢纏の裾を掴んでクイクイ引いた。

「何でもない。もう帰ろうか、悟空?」
「え?まだ来たばっかだし、せっかくターレスがフライドチキン買ってきてくれてっし……」
「そんなの買って帰れば……」

 そう言った途端、美味しそうなチキンの匂いを意識したのか、カカロットのお腹が派手に音を立てる。あまりのタイミングに珍しく赤面したカカロットを見て悟空が楽しそうに笑うと、部屋に流れていた微妙な緊張感が緩んだ。

「おまえらが来るから買ってきたんだ。遠慮なく食え」
「うん!ターレス、さんきゅー。カカも食べよう?」
「うん……」

 早くも箱からチキンを取り出し、嬉しそうにこちらを向いた悟空の笑顔を見ていると、結局文句もどこかへ引っ込んでしまう。カカロットはフッと眉を下げ、少し困ったように笑って頷くと、温かいチキンに齧りついた。



 そうして小一時間ほど経った頃。
 用意した軽食と酒があらかたなくなったのを見て、珈琲を淹れに席を立っていたターレスがリビングに戻って見ると、さっきまで仲良く並んでテレビを見ていた悟空とカカロットが、見事なシンクロ加減で一緒に寝息を立てていた。

「なんだ、寝たのか?」
「ん?ああ、急に静かになったと思ったら……」

 どうやらテレビのニュースに気を取られていたトーマは、二人が眠ったことに気づいていなかったようだ。二人の肩口まで隠れるように炬燵布団を引き上げてやっているターレスを見て、トーマは軽く笑い声を立てた。

「こうして見ると、大学生なんてまだガキだなぁ」
「ん?そうか?」
「そう思わないのか?」

 席に戻りながら問い返したターレスが座るのを待って、トーマは片手をターレスの跳ねた黒髪に伸ばした。

「オレたちの初めては、あいつらより若いくらいの歳だったが、おまえは十分エロかったぞ?」
「あんたはストライクゾーンが広いからな」

 うなじから頬に滑ってきた手の動きがキスへの誘いだとは分かっていたが、わざと少し皮肉な口調でかわし、片眉を上げる。だが、トーマは口端で小さな笑みを浮かべただけで、ターレスの褐色の頬に手の平をあてたまま、耳の下を擽るように中指の腹を動かした。

「んっ……」
「言葉は可愛げがなくても、敏感なところは変わらないな」
「っ、止め、ろっ、トーマ……っ」

 ターレスの身体を知り尽くしたトーマの指は僅かな動きでもより深いものを予感させ、身体の芯に小さく火が点くのが分かる。悪戯な動きを止めないトーマの手首を掴み、離させようとした途端、隙を突かれて力強く引き寄せられたかと思うと、気づいた時にはトーマと深く唇が重なり合っていた。

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