どうせ
2012.12.29.Saturday
終業式の後の大掃除も終わり、明日からいよいよ冬休み。まだ教室であれこれ話しをしているクラスメイトたちに手を振り、校舎を出る。吹き付けてきた風の冷たさに首をすくめ、正門を一歩出たところで、ターレスはポカンと口を開けた。
「早いな」
「早いな、じゃねーよ。何してるんだ、こんなところでっ」
平日の昼間にどう見てもサラリーマンな男が学校の前で待ち構えていたら、下手すると不審者扱いだ。いや、そうは思われなくてもこんなところで、妙に親しげにしていると、誰に見られるか分かったものではない。ターレスは自分の焦りを余所にダークスーツのポケットに片手を突っ込んで、からかうような笑みを浮かべているトーマの手を掴み、校舎や正門からは死角になっている樹の影に引っ張りこんだ。
「今日は積極的だなぁ」
ニヤッと笑ってそう言ったトーマを睨み付け、ふざけんなと吐き捨てる。いっこうに堪えた様子のないトーマを見ていると、腹を立てているのが自分だけなことに益々苛立った。
「サラリーマンがこんな時間にウロウロして、クビになるぞ」
「あー、そうなるとおまえを養えないからまずいな」
「なっ、なんでオレを……」
「そりゃ、うちに嫁にくるからだろ?」
「はぁっ?オレは男だっ。誰が嫁だ、バカじゃね……ッ、ト、マ……離せよっ」
「男なのはよーく知ってるぞ?……男同士がイヤって反応じゃなかった気がするがな?」
「止めろっ、こんな、とこ……で、ん、ぅ……っ」
真っ昼間の、それも学校のすぐそばだから完全に油断していた。口端を引き上げて笑ったトーマの顔が間近に迫ったかと思うと、両手首を捕まれ、樹の幹に押し付けられてしまう。当然抵抗しようとしたが、膝で下半身を擦られ、首筋に舌が這う感触に堪えきれず短い声が漏れて体の力が脱けてしまった。
「トーマ、いい加減、に……、あっ……」
「大人しく車に乗るならな」
徐々にエスカレートする行為に堪らず、要求を受け入れようと頷きかけたターレスは、二人に真っ直ぐ近づいてきた男に気づいて目を見張った。
「ターレス、誰、こいつ?」
「ん?なんだ、坊や?ターレスなら取り込み中だぞ」
「五月蝿いよ、おっさん。ターレス、一緒に帰る約束だろ?」
青い目を怒らせ、トーマを睨み付けているのは隣のクラスのカカロットだ。成績は中の下程度だが、容姿端麗、スポーツ万能、しかも、気どらない真っ直ぐな性格で男女を問わず人気がある。だが、カカロットの方は周囲の支線などお構いなしに、入学間もない頃からやたらとターレスに絡んできた。
別に嫌っているわけではない……
というのは、今、目の前にいるトーマにも言えることだ。ターレス自身の嗜好はさておき、同性愛にも偏見はなかった。
っていうか、男に触られて感じたのは、事実だしな……
鉢合わせた二人を見て、ターレスは深く溜め息を吐いた。
「邪魔が入って、悲しいのか?」
「邪魔なのはあんただろ、おっさん!」
「やめろよ、カカロット。……とにかく、オレは帰るから。あとは二人で話すなり殴りあうなり好きにしろよ」
匙を投げて肩をすくめたターレスの腕を掴み、カカロットは一緒に帰るんだと言った。
「なんなら二人とも送ってやるぞ?」
「はあっ?オレはターレスと二人で……」
「いや、トーマ、送ってくれよ。どっちと二人きりになっても、ろくなことにならない。カカロット、イヤなら一人で帰ればいいだろ」
「……分かったよ」
ターレスの有無を言わせない口調とうんざりした顔が堪えたのか、カカロットは少し意気消沈して頷いた。
「決まりだな、いくぞ?」
ポケットからキーを取りだし、たのしげに促すトーマに仏頂面で頷いて見せ、ターレスは不機嫌そうにトーマを睨んでいるカカロットの肘を小突いた。
「飯くらいは奢ってやってもいいんだろ?」
「三人で?」
訝るターレスのために後部座席のドアを開けてやり、トーマはもちろんだと笑った。
「美人を二人も連れていられるなんぞ、滅多にないからな」
おどけたトーマの言葉に隠れた悪戯な思いに、まだ若い二人は気づいていなかった。
これちょっと完成させたいかも(*´∇`*)
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