夏コミ受かりました!(+タレ空妄想付)

2016.06.12.Sunday



【Naughty Pet】


 パオズ山から空中散歩気分で二十分も飛んだところにその洞窟はあった。

 広く開いた入口から五、六メートルの辺りまでは遮るものがないおかげで太陽の光が差し込み、洞窟という言葉から連想される薄暗さも湿っぽさもない。幾重にも重なり合った細い鍾乳石はつらら状に垂れ下がり、天井に自然の装飾を施している。もう少し交通の便のいいところならすぐにでも観光地になりそうな美しい空間だったが、サイヤ人のように空でも飛べない限り簡単に来られない場所にあるから当分人に荒らされることもなさそうだ。

 もっとも、この数日間、洞窟には二人、いや、正確には一人と一匹の住人がいる。先住していたのは小さなドラゴンの方で、後から来たサイヤ人、――突然地球を襲撃したターレスを歓迎しているとは言い難かったが、一度殺されかけているのだから無理もない。半死半生でターレスが運びこまれてきた時、ハイヤードラゴンは今にもターレスの喉笛に噛みつきそうな勢いで飛びかかってきた。

「ちょっ、待ってくれ、ハイヤードラゴン!! ターレスは今オラ達に何もできないから! な? こいつが元気になって、もし、悪さするようなら、またオラがやっつける。それでいいだろ?」
 アーっと答えたハイヤードラゴンの声は決して納得している類のものではなかったが、悟空の必死の説得をなんとか理解し、不承不承ながら男が回復するまで同居することに同意してくれたようだ。もっとも、ハイヤードラゴンが案じるまでもなく、悟空が神精樹から得たエネルギーで作った元気玉をまともに喰らったターレスは、生きるか死ぬかの瀬戸際だったから、数日間ほとんど眠りっぱなしだった。
 ターレスを生かしておくことに賛成した者は誰もいなかったが、だからといって悟空には今にも死にそうな男にトドメを刺すことはできなかった。雨露をしのぐ場所を与え、それで生きながらえれば助けてやる。自分の甘さを自覚しつつ、悟空はその言葉で周囲を納得させ、ターレスをこの洞窟に運んできた。
 朝と夕方、食料を持って訪れてはいたが、実際寝てばかりのターレスに与えることが出来たのは、果物の果汁と飲み水、ブルマから預かってきた栄養剤程度だ。
 この日も夕方の修業を終え、洞窟に立ち寄った悟空は、洞窟の入り口でいつものように呑気に声をかけた。

「おーい、来たぞ〜。……ん?」
 どうやらハイヤードラゴンは遊びに行っているらしく、出てくる気配はない。だが、ターレスの気が明らかに昨日までよりしっかりしていることに気づき、悟空は半ばホッとしつつも気を引き締め、肩に担いでいた段ボールを持ち直して洞窟の奥へ足を進めた。

「ターレス?」
 呼びかけて見たがまだ眠っているようで答えは返ってこない。
 それでも寝息は規則正しく、寝顔も穏やかだ。安堵の息を吐いてターレスの枕元にしゃがみ込み、段ボールを脇に置く。なかから小さな瓶に入った白い錠剤を取り出し、ターレスの顎を引いて唇に隙間を作って滑り込ませる。それから悟空はターレスの背中に手を回して体を持ち上げると、銀色のボトルから水を一口ふくんでターレスと唇を重ね、唾液で溶けかけている錠剤が水と一緒に喉の奥まで流れ込むように舌を使って押し込んだ。
「ん、……っ」
 少し苦しげに眉を寄せたターレスと悟空の短い呻きが口内で重なり合う。悟空にとっては朝晩恒例の薬の時間で当然他意はないが、他に誰かいればこんな飲ませ方をするなと全力で止められていただろう。幸か不幸か洞窟の中では、いたとしてもギャラリーはハイヤードラゴンだけだから、このやり方はターレスがここに運ばれてからずっと続いていた。
 ぷはっと息を吐きだし、もう一口水を含んで顔を近づけようとした時、重たげに瞼を開いたターレスと目があった。

「ぶはっ!!」
「――っ、くっ、そ。なん……だっ」
 予想していなかったタイミングに驚き、口の中の水を見事に噴き出してしまう。当然それは全てターレスの顔面にかかり、かなり強制的に目覚めさせることになったようだ。久しぶりに声を出したのでなければ酷い悪態をつかれていたところだろうが、ターレスの声はかすれ、短い舌打ちが精一杯だった。
「気がついたんか。やっぱすげぇ生命力だな」
「……カカロットか」
 答とも言えない言葉を返し、周囲に視線を走らせたターレスは状況を察して溜め息を吐いた。
「ああ。おめぇ一週間くれぇ寝てたんだぞ」
 そう言いながらターレスを起き上がらせ、洞窟の壁に寄りかからせて水のボトルを差し出す。ターレスは無言でそれを受けとり、口端から零れ落ちるのも構わず、喉ぼとけを上下させて一気に水を飲み干した。
「なるほど。その間におまえから口移しで餌を与えられるペットに成り下がっていたという訳か」
 まだ少し声はかすれていたが、どうにかまともに話せるようになったターレスが空のボトルを適当に転がし、浅黒い腕で口元を拭って皮肉な笑みを浮かべる。だが、独特の言い回しが通じなかったのか、悟空はきょとんとしてターレスを見た。
「ハイヤードラゴンはペットかもしんねぇけど、おめぇは人間だろ?」
「……呑気に寝てる間にすっかり毒気を抜かれたんだから、ペットみたいなものさ」
「変な奴」
 悟空は目をぱちくりさせたが、よくわからない会話を続ける気もなく、段ボールから適当に選んだ果物をとり出した。
「目ぇ覚めたんならなんか食った方がいいぞ」
「オレを助けてどうする、カカロット」
 ターレスは渡された赤黒く熟れた果実の滑らかな表皮に歯を立てながら、悟空を鋭く見据えて問い質した。
「助けてぇっていうより、……死にかけてるおめぇには攻撃できなかったんだ。オラ、いっつもそういうとこが甘ぇって言われっけど、出来ねぇもんはしょうがねぇよな」
「それでもサイヤ人、か」
 ターレスは揶揄するというよりは独り言のようにそう言った。
「オラ……っ」
「サイヤ人じゃない、か? 否定をするのは勝手だが、おまえはサイヤ人だ。自分が認めなければ人間じゃなくなるわけじゃない。それと同じことだ」
「そりゃ……」
 至極冷静なターレスの言葉に言い返すことができず、悟空はムッと口を尖らせた。
「もっと食わせろ」
「へ? あ、ああ」
 突然話題が変わったことに戸惑いつつ、ろくに箱の中も見ず最初に手に触れたものを取り出す。ターレスは目の前に突き付けられた緑の葉っぱの塊を見て眉をひそめた。
「なんだこれは」
「知らねぇんか? レタスっちゅうんだ。オラんちの畑で採れたんだぞ」
「……こんなものが美味いのか?」
 疑わしげなターレスに満面の笑みでうなずき、悟空は
「美味ぇって。ほら、食ってみろよ」
 と言って、外側から一枚瑞々しい葉をとり、ひょいっと差し出した。
 ターレスは警戒心の欠片もない悟空の行動に一瞬面食らったが、フッと笑みを浮かべ、悟空の手首を掴んで引き寄せた。
「ターレス?」
「なんだ? 食って欲しいんだろう?」
 目を見張る悟空をジッと見つめたまま、ターレスは殊更ゆっくり薄黄緑の葉をかじり、残りが少なくなると悟空の指ごと口に含んだ。
「わぁっ、何すんだよっ!!」
 慌てて手を引こうとしたが、ガッチリ掴まれていて動かすことが出来ない。ターレスは楽しげに目を光らせて悟空の反応を観察しながら、レタスを全て口に入れると、舌を伸ばして悟空の指をペロリと舐めた。

「ご馳走さん」
 咀嚼し終えてから涼しい顔でそう言ったターレスを赤い顔で睨み、悟空はなんなんだよとブツブツ文句を言った。
「諦めろ。ペットっていうのはたまにオイタもするもんだ」
 楽しげに答えたターレスは、まだ体力の回復が十分ではないのか、寝床として設えられたスペースにゴロリと寝転がった。
「……大丈夫そうだから、オラ今日はもう帰ぇるぞ。これ、適当に食っていいからな」
 段ボールを指差す悟空にうなずいて見せ、ターレスは
「ああ。おまえにとっていいか悪いかはさておき、礼を言っておく」と言った。
「お、おおっ」
 予想外の素直な言葉に目を丸くしつつ、慌てて答える。
「カカロット」
 ターレスが目を閉じたのを見て、立ち上りかけていた悟空は、思いがけず呼び止められて驚きながらも体勢を戻した。
「今日もということは明日も来るんだな?」
「そりゃ……」
「ならいい」
 戸惑う悟空の言葉をそれ以上聞く必要はないとばかりに、ターレスは自分の腕を枕にして悟空に背を向けた。
「朝、また来っから」
 悟空は聞いているのかいないのかわからない相手に向かってそう言うと、背を向けて歩き出した。
 洞窟の入り口まで来て足を止め、もう見えるはずのない空間を振り返る。視線が絡みついてくるような未知の感覚にゴクリと唾を飲み、悟空は気づいてはいけない何かを振り払うようにすっかり暗くなった空へ勢いよく飛び立った。



end

超の実況からタレカカ妄想膨らみまくり、なんか今日はほんとにどうしてもタレカカせずにいられませんでした。次はタレブラックだな(*´∇`*)

23:52|comment(0)

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