キスの日ですって^^(+タレ空妄想文付)

2016.05.23.Monday


【キスの日タレカカ妄想】


 ベッドの足元にポツリと置かれたボールランプが満月のように光る部屋に生唾を飲む音が響いた。

 微かな寝息以外何も聞こえなかった空間では、それが自分の体から出た音とは思えないほど大きく聞こえ、益々緊張してしまう。だが、舞うほどもなくまた口の中に溜まり始めた唾液を飲みこまざるを得ず、悟空は息を詰めてもう一度ゴクリと喉を鳴らした。

 音を立てないようにドアを開けるだけでもたっぷり五分は使ったと思う。正直精も根も尽き果てた思いだったが、ここまで来て引き返しては意味がない。悟空は慎重に息を吸い込み、裸足の足をそっと前に出した。
 一歩、また一歩。息を潜めてセミダブルのベッドに近づいていく。
 濃い青のブランケットから覗く浅黒い肩が覗く距離まで来ると、ホッとするあまり大きく息を吐きたい衝動に駆られたが、何とか堪えて静かに膝をついた。そのままベッドのすぐそばまで膝をすりながら進み、シーツの端にそっと手をかける。指が触れそうな距離にあるターレスの寝顔を無言で見つめ、息を止めて顔を近づけていくと、やがて、穏やかな寝息が悟空の鼻先をくすぐった。
 
 一瞬、本当に一瞬だけだから。

 頭の中で誰に対してかもわからない言い訳をし、ギュッと目を閉じて、ターレスの唇に触れたかもわからないほど素早くキスをする。さっと顔を離してターレスの様子を窺ったが、起きる気配はない。これならもう少し大胆になっても大丈夫だろうかと思い、今度はごく薄く開いた唇を近づけ、鼻同士がぶつからないように気をつけつつ、さっきよりもほんの少しだけ長く唇を重ね合わせた。
 少し乾いたターレスの唇から伝わる温もりを感じ、途端に心臓が五月蠅く騒ぎ出す。緊張と興奮で自然と荒くなる息を抑えようとしたが、唇からは湿った吐息が漏れてしまった。
 悟空は焦る気持ちをなんとか抑え、ベッドについた手に力を込めて立ち上がろうとしたが、体を起こすよりも早く浅黒い手で手首を掴まれていた。

「ターレスっ」
 いつから気づいていたのか、真っ直ぐこちらを見ているターレスの黒い瞳に射すくめられ、ぺたりとその場に座り込んでしまう。ターレスは半裸の体を起こすと同時に、ベッドの上の空いたスペースに悟空を引き倒した。
「……夜這いにしちゃ、随分遠慮深いな」
 笑いを含んだ声が悟空の胸をざわつかせる。もちろんターレスもそのことは十分承知の上だろう。
 いくらまだ見た目に幼さは残していても悟空も子どもではない。こんな時間に寝室に忍び込み、眠っている相手にキスをした上で、何の意図もなかったと言えないことくらいはわかっていた。
「ご、ごめ、ん」
「別に。安眠妨害されたのは、まぁ、確かに嬉しくもないが、――おまえがしたことそのものは不快でもないぞ?」
 ターレスはそう言って、上半身を捻った体勢で悟空の顔の両脇に手をつき、口端を引き上げて笑った。
「まさかおまえがこんな大胆なことをするとは思わなかったが」
「――オ、オラっ」
「当然何かわけがあるんだろうなぁ?」
 震え声で何か言いかけた悟空の言葉を遮るように問いかけ、ターレスは紅潮した悟空の頬を褐色の指でなぞった。
「オラ、……オラ、も。子どもじゃねぇっ」
 羞恥、期待、恐怖。
 一気に押し寄せた感情が喉の奥につっかえ、上手く言葉を紡ぐことが出来ない。目の端に浮かんだ涙を零すまいと拳を握り、悟空は早鐘のようにうつ鼓動を感じながらターレスをジッと見つめた。
「なるほど。で? 一気に大人にして欲しいのか?」
「――ッ、違っ!?」
 突然冷やかにも思えるほど低い声で問い質され、悟空の顔から血の気が引く。慌てて起き上がろうとしたが、ターレスは片手で悟空の顎を掴んで、強引に顔を持ち上げた。
「違う? こんな時間に部屋に来て、自分からキスをして、誘ってないとでも言うつもりか。子どもじゃないと言う割には随分おめでたいじゃないか」
 フンと鼻を鳴らしたターレスの目は、悟空が見慣れた大人の男の落ち着きではなく、数日前、偶然目の当たりにすることになった雄の色がハッキリと表れていた。
「オラっ、――でも、……オラは、いいけ、ど。きっと、カカが嫌な、思いすんだろ?」
「何?」
 片眉をピクリと上げ、鋭い目で問い質され、悟空の目から耐え切れず涙が零れた。
「見たん、だ。……ターレスとカカが、ふっ、風呂場でっ」
 そこまで言うと、瞼の裏に焼きついた光景が思い出され、言葉が続かなくなる。ターレスはしばらく黙って悟空を見ていたが、顎を掴んでいた手を離すと、ベッドに沈んだ悟空を見て肩をすくめた。

「悟空」
 実際にはせいぜい三十秒程度だったろう。だが、悟空にとっては果てしなく長く感じられた沈黙の後、ターレスは表情のない声で呼びかけてきた。
「な、何……っ?」
 もしかしたら、出て行けと言われるのかもしれない。
 自分に遠慮して、ターレスとカカロットは二人の関係を隠していたのだろうから、もう知られているとわかったら、悟空は邪魔者になるだけだ。声の震えを隠しきれないまま問い返すと、ターレスは短く息を吐き、珍しく迷うような動きで悟空の黒髪に指を絡めた。
「カカロットとのことは、別に隠そうと思ったわけでもない。ただ、――もし、おまえに話したら、おまえも義務のように巻き込まれるんじゃないかと思ったから、話さなかっただけだ」
「オラっ、義務なんて思わねぇよっ。ただ、見ちまってから、ずっと、オラが邪魔者、なんだろうって……ッ、ぅっ、くっ」
 口にすると本当のことになるようで、堪らず込み上げた熱い涙の元を抑えるため声を詰まらせる。ターレスは黙って悟空を見つめていたが、皮肉にも見える笑みを浮かべると、悟空の腕を引いてしっかり抱き寄せた。
「――もう、引き返せないぞ。オレはおまえを捕まえたんだからな、悟空。きっと、カカロットにも異論はないだろうが、明日からは三人で益々仲良くできそうじゃないか」
「オラっ、でもっ」
「ああ、心配するな。大して経験がないのはさっきのキスで十分伝わった」
「ターレス!!」
「怒るな」
「――んっ、ぅ!?」 
「目を閉じろ。力を抜いてれば、キスだけでも感じられるようになるまでじっくり手ほどきしてやる。……まぁ、今夜は特別サービスだ」
 目をつむる余裕もなくターレスの不意打ちのキスを受け止めていた悟空は、甘く耳をくすぐる深い声音に操られるように目を閉じ、おずおずとターレスの広い背中に腕を回した。





中途半端(*´∇`*)

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