過ぎちゃった(;´▽`A``(+タレカカ文付)

2016.05.10.Tuesday


【Sunny Honey Sunshine】

 
 間近で人の気配を感じ、目を開けると、目の前にカカロットの顔があった。
「あ、起きた」
「……何か用か?」
 欠伸で一呼吸置き、背もたれにしていた樹から体を離して尋ねる。
 チラチラと踊る初夏の木漏れ日もコイツの笑顔の前では霞んでしまいそうだ。
 らしくもない殊勝な考えに自嘲気味な笑みが浮かぶ。オレの表情の変化が気になったのか、カカロットは開きかけていた口を閉じ、小首を傾げた。
「どうした?」
「なんでもねぇ」
 問い質すようなことでもないと思ったのだろう。
 カカロットは少し照れくさそうな顔で答え、オレの隣に腰を下ろした。
「――おめぇもあんな顔で昼寝すんだなぁ」
「あんな顔?」
 オレに、というよりも限りなく独り言に近いカカロットの言葉が引っかかり、問い返す。カカロットは間抜け面でヘヘっと笑い、右手の人差し指で頬をかきながら言葉を探すように視線を上げた。
「なんちゅうか、すっげぇ気持ち良さそうに寝てたぞ。悟飯が昼寝してっときくれぇ子どもっぽいちゅうか……」
 おまえにだけは言われたくないと思ったが、コメントを返さず肩をすくめる。カカロットはオレのリアクションを予想していたのか、気を悪くした様子もなく空を見上げた。

「気持ちいぃなぁ」
「……そうだな」
 吹き抜けた風に乗って、夏に向けてのエネルギーを蓄えている木々の青く、瑞々しい香りが鼻をくすぐる。オレの方は見ずに呟いたカカロットの言葉に淡々と相槌をうつと、横目でチラッとオレを見たのがわかった。
 新緑の季節はカカロットによく似合う。いや、今がもし真冬なら雪の白さに頬を紅潮させたカカロットの笑顔がよく映えると思うのかもしれない。夏の太陽なら言うまでないだろうし、秋の遠い空にもやはりカカロットの笑顔はマッチするはずだ。

「――骨抜きだな」
「ターレス?」
 不思議そうに名前を呼ばれ、頭で考えていたことを口に出していたことに気づいた。
「独り言だ」
「そっか。なぁ、ターレス。起きたんなら組手しねぇか?」
 今日は他の相手を見つけられなかったのだろう。
 柔らかな下草に手をつき、身を乗り出してきたカカロットの目はこれが本題だと言わんばかりにキラキラ輝いていた。
「まぁ、わざわざおまえがオレを探しに来るのに他に理由はないだろうな」
「へへっ。いいじゃねぇか」
 悪びれもせずペロリと舌を出したカカロットの頬に片手をあてて反対の頬にキスをすると、わっと色気のない声を上げ、尻餅をついた。
「なるほど。もうまともに闘ったらおまえに勝つのは難しいだろうが、まだこの手があったようだな」
「何言ってんだよ。ビックリすっだろ」
 ブツブツ文句を言うカカロットを無視して立ち上がり、無言で手を差しだすと、不満げに口を尖らせながらも素直にオレの手を握った。
「で? ここでやるのか?」
「ううん。ここはおめぇの特等席だろ。組み手で勢いあまって折っちまったらいけねぇからな」
 さっきまでオレがもたれていた樹の幹を手の平で叩き、カカロットは他の誰も真似できない笑顔で答えた。
「よく知ってるな」
「うん。オラ、いつも一人で修業すっとき、ここ通るんだ」
「そうか」
 他の特別な理由があってくれればと期待していた自分を胸の内で笑い、同じ視線の高さまで浮き上がる。
「じゃ、行くか? あっちにいいところがあんだ」
 カカロットが指差した丘の麓には蜂蜜色の花畑。陽射しを受けて揺れる花の波の中に沈めてしまえば、太陽以外の誰にも知られずコイツを自分のモノにできないだろうか。
「無理だな」
「へ?」
 頭の中で自問し、すぐ声に出して打ち消す。きょとんとしているカカロットに行くぞと言い残し、甘い香りを漂わせている自然の花畑の上を突っ切っていく。
「あ、待てよ!」
 慌てて追いかけてくるカカロットの気配を背中で感じながら、太陽に負われるのも悪くないと、オレはまた不似合いな感傷を抱いていた。




end

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