Happy 57 Day♪(悟チチ妄想付)

2016.05.07.Saturday


【Again and Again】


 寝返りをうってすぐ、人の気配に驚き、飛び起きそうになった。 

 そうだった。

 薄く射しこむ月明かりに浮かんだ悟空の顔。口を薄く開き、すやすや眠る姿はとても二児の父には見えなかったが、次男の存在を知ったのはほんの二日前のこと。
 うつ伏せの体勢で体を少し起こし、起こさないように注意しながら悟空の前髪に触れる。くすぐったそうに眉を寄せたのを見て慌てて手を引き、悟空に寄り添って布団にもぐりこんだ。

 目を閉じ、片側の温もりに意識を集中させると、瞼の裏に懐かしい光景が浮かんでくる。


 第23回天下一武道会前夜。
 ホテルの一室に落ち着いたチチは、鏡の前で長い髪をほどき、微かに紅潮している自身の顔をジッと見つめていた。

 やっと会える……。
 悟空は自分に気づくだろうか。自分は悟空を見つけられるだろうか。
 喜びと不安が同時に込み上げ、悟空と一緒に不思議な雲に乗った時のようなフワフワした気持ちになる。

「オラ、掃除も洗濯も料理も上手くなっただ。悟空さのいいお嫁さんになれるだよ」
 鏡の中の自分に語りかける。
 幼い頃からチチの決意は変わっていない。だが、悟空はどうだろう。自分を見てガッカリされたら……。
 
 展開一武道会に出場して悟空と会う。
 前年の天下一武道会結果で悟空の名前を見つけてから、チチは武道の修行に身を入れ始めた。父親の牛魔王は嫁ぐ娘への寂しさというよりも愛娘の夢が破れはしないかと危ぶんでいたに違いない。無理するなと何度も言われた。

 だが、幼い頃の他愛ない約束だと打ち消すことはできなかった。
 不思議な雲に乗って現れた悟空の姿は何年たっても鮮やかにチチの脳裏に蘇り、長いブランクを経ての再会だということすら嘘のように思えることもある。

 明日になれば、思い出の中だけだった笑顔が上書きされるはず。
 初恋、――性格にはヤムチャだったのかもしれないが、ともかく悟空との約束の成就を信じて疑っていないチチは自分を励ますように鏡に笑顔を向けた。

「悟空の奴ちゃんと来られるのかな」
 お世辞にも高級とは言えないホテルの薄いドア越しに聞こえてきた名前に目を見開く。チチの心臓が突然跳ね上がり、明日の空想から現実に引き戻された。

 ――ゴクウ……?悟、空……って言ったのけ??

 脳内で絶叫しながら慌ててドアへ突進する
 急いでロックを解除しようとしたが、でのところでピタリと手を止める。
 さっきの会話からすると、ここに悟空がいるわけではない。いきなり飛び出して人違いだったり、本当にあの孫悟空のことだとしても何ごとかと怪しまれるだけだ。
 深呼吸をしてチェーンロックから手を離す。

「明日だべな、悟空さ」

 ごく小さな声で呟いたチチの顔に自然と笑みが零れた。
 ただの偶然でも、たとえ人違いだとしても、悟空の名前が勇気をくれる。いつもそうだ。厳しい修行も、悟空に向かって一歩一歩近づいているのだと思うと、耐えられた。意識の向こうにはいつも金の雲に乗って笑う少年の姿があった。


 あれから二十年近くが経とうとしている。
 いつもやきもきさせられることばかりだったが、長い不在の時を思えば、またこうして寄り添って眠ることができることをしみじみ有難いと思う。
「……おかえり」
 チチの声に夢の中で反応し、枕の上で頭を動かした悟空を見つめ、ニッコリ笑った。
 またいつどこに飛び立ってしまうかわからない。それでも、悟空が戻る場所はこの家だと信じている。あの世からさえ帰って来たのだから、自惚れではないはずだ。
 重なり合う心音に耳を傾けているうちに、また眠くなってくる。
「たまにはオラともデートしてくんろ」
 半ば眠りに落ちながら、チチは悟空の腕に腕を絡め、優しい声で囁いた。

 どこに行ってもいい。必ず帰ってきてくれると約束して。
 また二人で何度でも恋をしよう。


end

Hapy 57 Day♪

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