祝☆ゴッドちゃん生誕祭!!(カカゴッド?文)

2016.03.30.Wednesday


【I Had a Dream.】

 
 風変わりな夢だった。
 真っ暗闇の中、不意に金髪の男の姿が浮かび上がり、こちらを振り返る。
 アイスグリーンの瞳を見つめ返したはずなのに、気づいた時にはカカロットの意識がその男に取って代わっていた。いくら夢とはいえ、見知らぬ人間になったのだから、少しくらいは違和感があってもよさそうなもの。だが、カカロットの意識は最初からこうだったと錯覚しそうなほどすんなり男の体に溶け込んでいる。

 ――どうなってんだ。

 声を出すのもはばかれるほどの闇の中、あてもなく視線をさまよわせる。碧眼でも景色が青くなるわけではないのだと至極あたりまえのことを思いつつ前髪を摘まんで引っ張り、目線を上げてみる。やはりさっき闇に包まれていた男と同化しているらしい。少し頭を下げると、明らかに自分のものではない派手なオレンジ色の服を着ていることもわかった。可能な範囲で自分の姿を確認し、それにしてもいつまでこんなところにいるのだろうかと思い始めた時、不意に目の前に見知らぬ男が現れた。

「おめぇ、誰だ?」 
 一寸先も見えない闇の中にいながら、どういうわけか男の赤い髪と赤い瞳、それを引き立てる白い肌はハッキリ認識できる。今体を借りている男と違って赤い髪の男の風貌はどこか自分に似ていた。
 危害を加えられることはないと判断し、男に声をかける。夢だからと言えばそれまでだが、金髪の男の声はカカロットが聞き慣れている自身の声に他ならない。むず痒いような奇妙な感覚がたまらず、もぞもぞ肩を動かしていると、赤い髪の男は不思議そうに首を傾げた。
「……おめぇ、オラだよな?」
「へ?」
 予想外の答えにカカロットは素っ頓狂な声を上げ、負けず劣らず不可解な面持ちで自分を見つめている赤い髪の男に半歩近づいた。
「オラだよなって……オレはカカロっトだけど、おまえもそうなのか?」
 我ながら馬鹿げた質問だと思ったが、他に言うべきことも見つからない。
 赤い髪の男は、一瞬困ったように眉を寄せ、うーんと唸ってからもう一度口を開いた。
「オラは孫悟空だ。――まぁ、そのカカロットちゅうのも間違っちゃいねぇんだけど」
 付け足しながらも、男は明らかに不服そうだ。カカロットは不気味なほど生々しく、それでいて現実味のない男を上から下まで観察していたが、ふとあることに気づいた。
「同じ服だな」
 赤い髪と瞳には少々派手すぎる気もするオレンジの、お世辞にも耐久性が強そうには見えない服を指す。男は一瞬何を言われたのかわからないような顔をしていたが、すぐに大きくうなずいた。
「そりゃそうだろ。おめぇはオラなんだから」
「ありえないだろ。――オレはオレだよ」
 こともなげに答えた男の言葉も全く理屈が通っていなかったが、カカロットの返事も似たり寄ったりだ。このまま話していてもきっと何一つ理解できないのだろうと思うと、早く夢が覚めてくれればいいと思ったが、同時に目の前の男の醸し出す雰囲気に理屈抜きの不思議な心地よさを感じていた。
「……夢だろ?」
 聞くまでもない問いを投げかけると、赤い髪の男は少し首を傾げてから人懐こい笑顔を見せた。
「そうだけど、そうじゃねぇ。――オラは、ちゃんといるんだ」
「でも、おまえはオレなんだろ? だったら、いる……って、オレがいなくなるしかないじゃないか」
「ああ、そういうことじゃねぇよ。大丈夫だ。おめぇはこの世界で楽しく暮らしてんだもんな」
「まぁ、そうかな」
 刹那的な生き方のサイヤ人にとって、楽しく暮らすという表現はしっくりこない気もしたが、何故かこの赤い髪の男の言葉はすんなり受け入れられる。カカロットは触れると泡のように消えてしまうのだろうかと訝りつつ、男の頭に手を伸ばし、燃えたつ色に反して意外に柔らかな赤い髪を指にからめた。
「くすぐってぇ」
「――悪い。でも、なんだろな、すごく安心する」
「そっか?」
「ああ、もっと近づいてもいいか? ソンゴクウ……だっけ?」
「う、うん」
 イントネーションが可笑しかったのだろうか。
 男は少し頬を染めて肯定した。逃げられるかもしれないと思いつつ伸ばしたカカロットの腕をアッサリ受け入れ、なすがままに腕の中に納まる。この無防備さはどうだと思ったが、カカロット自身、なんとも言えない安心感を感じていた。
「あったけぇな、おめぇ」
「おまえもだよ。――なぁ、おまえもオレだとしたら、……どこか、オレの知らないところで生きてるのか?」
 緩く腕を回したまま尋ねると、男はコクリとうなずく。カカロットは続けて浮かんだ疑問を口にしようかためらったが、好奇心は抑えきれず、乾いた唇をペロリと舐めた。

「ターレスも一緒か?」
「ターレス?」
 赤い髪の、もう一人の自分だと名乗る男の声に初めて戸惑いと、恐らく気のせいではない棘が混ざる。カカロットは男の両肩に手をおいて腕の長さだけ距離をとると、赤い瞳を見据えた。
「……おまえの世界にはいないのか?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
 カカロットを真っ直ぐ見つめる男の瞳の赤が警戒するように濃くなった。
「その反応はターレスを知ってるってことだよな?」
 改めて問い質すと、男は赤い目を逸らし、邪気のないオーラに初めて影が差した。
「知ってる」
「そうか」
「……どうなってるか、聞かねぇんか?」
「どうでもいい。ターレスは、……いや、いい。悪かったよ、変なこと聞いて」
「うん」
 カカロットの言葉にホッとした様子でうなずき、男はそろそろ行かなきゃなと呟いた。
「どこへ?」
「――またいつか会えっかもな。おめぇがどんどん強くなったら」
 孫悟空と名乗った男は、カカロットを媒体に森羅万象を見通すかのような目で感慨深げに言った。
 答えになっているとも思えないが、何故かそれ以上は追及できない。無言で男から離れようとした時、カカロットの意識が夢の始まりと同じ場所に引き上げられる。視線の下ではさっきまでカカロットが入り込んでいた金髪の男が赤い男の肩を抱き、寄り添う格好でこちらを見上げていた。

「あれが、……オレ?」
 そんな馬鹿なと笑いかけた直後、視界が完全な闇に包まれる。夢から覚めるのだと悟り、薄く目を開けると、ターレスの顔が視界いっぱいに広がっていた。
「――な、何!?」
 驚いて目を丸くしたカカロットの頬をペチっと叩き、ターレスが顔を離す。
「起きたのか。帰ってきてみたら、おまえが一人でブツブツ言いながら寝てたから、うなされてるのかと思ったんだが、大丈夫そうだな」
「うん」
「いい夢か?」
「……わからない。でも、オレはターレスが帰ってくる家がある今の世界が一番いいな」
 起き上がりながら答えたカカロットと並んでベッドに腰を下ろし、ターレスは訝しげに眉を上げた。
「なぁ、ターレス」
「何だ?」
「オレの髪が急に金髪になったり赤くなったりしても、オレのこと好きだと思う?」
「何の話だ」

 金に赤……?

 一瞬、古い書物で読んだ惑星ベジータの伝説がかすめたが、カカロットがそんな眉つばものの話を知っているとも思えない。ターレスは浮かんだ疑問はおくびにも出さず、問い返した。
「いいから答えてくれよ」
「――おまえの見た目がどうなろうと、オレの気持ちは変わらない。これでいいか?」
「へへ」
 少しシニカルな口調にも関わらずターレスの答えに満足したのか、カカロットは嬉しそうに微笑み、伸び上がってターレスの頬にキスをした。
「……今度はオレの夢でも見ろ」
「うん」
 カカロットの黒髪に指を通しながら体重をかけ、ベッドの上に折り重なる。ターレスは鼻と鼻を触れ合わせ、二度目のキスをする前に小さく笑って囁いた。



end

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