サイヤンDayまであと1日!(タレカカ妄想付)

2016.03.17.Thursday


【朧月と蜜月】


 翌朝の雨を予感させる湿った夜だった。
 雲の切れ間から時折覗く月光が、明かりの消えた部屋に頼りなく射しこむ。さほど広くもない部屋の窓の下の壁にくっつけられたセミダブルのベッドで眠っていたカカロットは、寝返りをうった瞬間、左肩が何かにぶつかったことに驚いて目を開けた。

 ……ああ、そっか。

 うつ伏せになって顔だけをこちらに向け、グッスリと眠っている男を見てホッと息を吐く。寝ぼけて一瞬混乱していたが、元々今夜は一人寝ではなかった。まだ寝ぼけ眼のままフッと笑顔になり、隣の男の浅黒い頬に指先だけで触れてみる。一瞬うるさげに眉を寄せたものの、目を覚ますことはなかった。

 ターレス、おかえり……。
 長期の遠征から戻ったばかりで疲れ切っているはずなのに、こうしてカカロットを訪ねてくれた。自宅に帰るより近いからなと笑っていたが、少々ひねくれた言い回しだろうとなんだろうと、自分を選んでくれていることが素直に嬉しい。
 心の中で呼びかけ、起こさないようにごくごく軽く黒髪にキスをする。起きている時はどちらかといえば冷たく見える顔も、無防備な今は意外なあどけなさを覗かせている。こうしてみると、確かによく似た顔だちなのかもしれれないと思う。もっとも、周囲の人間に言わせると、カカロットといる時のターレスは常に別人かと見紛うほど穏やだそうだ。

「贅沢なんかな、オラ」
「……なんだ?」
 心の中で自問したつもりが声に出てしまったらしい。
 眉間に皺を寄せ、やや億劫そうに目を開けたターレスが、少し掠れた声で問いかけてくる。
「――あっ、ごめん。なんでも、ねぇ」
 別に隠すことでもないのだが、真っ直ぐ見つめられると妙にドギマギしてしまい、カカロットは慌てて首を振った。
「眠れないのか?」
 ターレスはそれ以上追及することなく、体勢を変えて体を半分起こし、カカロットの髪を撫でながら静かに問いかけた。
「いや、寝てたんだけど、おめぇがいるの忘れて寝返り打ったからビックリしちまったんだ」
「なるほど」
 ターレスはクスっと笑い、ターレスは照れ臭そうに頭をかくカカロットの前髪を長い尻尾で器用にかき上げ、露わになった額にキスをした。

「すぐに当たり前になる」
「え?」
 額で受け止めた温もりに一瞬意識を奪われ、何を言われたのか理解できず少し間の抜けた声を出してしまう。
「……何だ、その反応は」
 ポカンと口を開けたカカロットにターレスは少し渋い顔を見せた。
「え、だって、当たり前に……って、それって……っ、オラ……っ」
 耳が捉えた言葉を頭の中で反芻しているうちにカカロットの顔がどんどん紅潮し、言い訳がしどろもどろになってしまう。ターレスは堪えきれず噴き出し、耳まで赤くなったカカロットの額、――さっきキスした辺りを人さし指でグッと押した。
「からかったんか?? 酷ぇぞ、ターレスっ!!」
「そう怒るな」
 真っ赤な顔で抗議するカカロットをお構いなしに抱き寄せ、耳元で楽しげに囁く。カカロットはしばらくブツブツ文句を言っていたが、やがてターレスの胸に頭をあずけ、気持ちよさそうに目を閉じた。
「……なぁ、さっきの、当たり前になるってどういう意味だ?」
 聞くまでもないと言われるかもしれない。それでも、どうしても答えが聞きたかった。
「おまえの思ってるとおりさ」
 当たらずと言えど遠からずな答えに大げなさ溜め息を吐き、カカロットはしっかり抱きついたまま顔だけ上げてターレスを見つめた。
「――また、そんな言い方」
 ぼやいたところでストレートな言葉はもらえないだろう。それでも、時々でいいから自分への思い、――それがあるなら、言葉にして欲しかった。
「……カカロット」
 少し考え込むようにカカロットを見返していたターレスが不意に口を開く。カカロットは答える代わりにさらに顔を上げ、ターレスの黒い瞳を覗き込んだ。
「不安を感じるのは自分だけだと思ってないか?」
「だって、別に……ターレスがオラとのことで、心配なんてするようなこと……ねぇだろ?」
「オレが見た目ほど自信満々なら遠回しな言い方もしないさ。真っ直ぐな言葉を口にして、おまえに何勘違いしてるんだと言われるのが怖い。それだけだ」
 眉根に力の入ったなんとも言えない笑顔は今まで見たことのないものだ。カカロットはゴクっと音を立てて唾を飲み、後ろに腰に巻いていた尾を解いて、ターレスの尾に絡めた。
「ターレス、そんな風にいわれたらオラ単純だから期待しちまうよ」
「おまえに期待されなくなる人生はさぞつまらないだろうな」
 シニカルな口調と対照的に、ターレスの笑みは降参だと言っているようだ。カカロットはもしかして夢でも見ているのだろうかと訝りつつ、ターレスの頬にキスをした。
「あったけぇ」
「当然だろ」
「うん。オラ、ターレスが好きだ」
 悟空は今度は満面の笑みでそう言うと、ターレスの顔を両手で挟んで自ら唇を重ねた。

「ターレス」
「……何だ?」
「あのな、オラ、こう見えても環境が変わると眠れなくなっちまうんだ」
 悪戯な笑みを含んだカカロットの目を見つめ、ターレスは満足げにニヤっと笑った。
「――なら、オレがここにいることを辺り前にしてやらなくちゃいけないな」
「うん」
 カカロットは弾むような声で答えると、もう一度ターレスに顔を近づけた。
「眠れそうか?」
 互いの吐息が鼻先に触れるほどの距離で明らかにキスを乞うているカカロットの頬に浅黒い手をあて、ターレスが意味ありげに問う。
「……眠らなくていいから」
 どれほど無邪気に見えてもサイヤ人はサイヤ人。幾ばくかの幼さを残したカカロットの黒い瞳は、一方でこの先の行為への期待に濡れている。ターレスは真っ直ぐ自分に向けられた好意にわざとおどけた笑みを返し、不得手な甘い言葉よりも饒舌に思いを伝えられる唇を、カカロットの白い肌へ落とし始めた。



end

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