サイヤンDayまであと2日!(タレカカ妄想付)

2016.03.16.Wednesday

【Family+α】


 「……ったく、辛気臭ぇ」
 口に出したつもりのなかった独り言に自分で驚き、今さらかと自嘲する。
 下級戦士の居住区の中でも、あまり家が密集していない区域に住んでいるせいか、昼間でもかなり日が高くなってからでないと通りは全体的に薄暗い。そろそろ春めいてもいい頃なのに肌寒い気候のせいで余計にそう感じてしまうのかもしれない。
 遠征と遠征の合間のわずかな期間過ごすだけの家にさほど愛着があるわけでもないが、せめてもう少し明るくても良さそうなものだ。そんなことを考えながら、ターレスは閑散とした通りを歩き、一軒の家の前で足を止めた。

 家族持ちに配分される家は開放的な造りをしている。
 いつもながら自宅を出て、薄暗い通りを抜けた先にある一軒の家の前に来ると、いつもつまらなそうな顔をしているなターレスも笑みらしきものが浮かべてしまう。もっとも、この家の日当たりの良さは、つい先日向かいの家が異星人の急襲を受けて半壊したお陰だ。恩恵というと壊れた家の持ち主を怒らせそうだが、どうせ遠征から生きて帰ることが出来る保証などないサイヤ人のこと。主が戻るまで家が修理されることもないのはお互い様だ。そんなわけで、クリーム色の家はそこだけ春が訪れたかのような温かい陽光を浴びていた。

 玄関口から中を覗いたが、見通せる範囲には誰もいない。
 勝手知ったる様子で中に入ろうとした時、奥の部屋の扉が空き、ちょうど出てきたターレスとそっくりな顔の青年がピタリと足を止めた。
「ターレス!!」
 ただ名前を呼ばれただけではない。
 歓喜の色があふれ出た声の主はカカロット。ターレスよりちょうど十歳年下の下級戦士で、この家の次男だ。
 ターレスが何か答えるよりも早く、風のように駆けてきたカカロットは、体当たりに近い勢いでターレスに飛びついて来た。
「ターレス、おかえり!」
 尻尾を振りながら目をキラキラと輝かせ、ターレスにしっかり抱きついたカカロットは、ターレスの浅黒い手が背中を撫でる感触に心地よさそうに目を閉じた。
 頬を紅潮させたカカロットを見ていると、いつもながらどう育てたらこれほど天真爛漫なサイヤ人が出来上がるのかと思うと同時に、自宅からの道中、ふさいでいた気持ちが嘘のように晴れていく。我ながら甘くなったと思いつつ、この温もりを手放す気もないターレスは、カカロットの背中に手を回して穏やか笑みを返した。

「――久しぶりだな、カカロット」
「うん。今朝来るって言ってたから、オラ、ずっと待ってたんだぞ」
「悪かった。おまえに連絡してから、またうっかり眠り込んでたんだ」
「そっか。遠征から帰ぇったばかりだもんな。な、飯まだだろ?兄ちゃんが作ってくれたんだ。一緒に食べよう!」
「ああ、そりゃありがたい。食べ物の乏しい星だったから、ろくなものを食ってなかったんだ。帰ってもうちの食料庫は空だったからな」
 カカロットは眉を下げて、頭半分低い位置からターレスを見上げた。
「そっかぁ。大変だったんだな。あーあ、オラも早くおめぇと同じ遠征に出れるようになんねぇかなぁ」
 ターレスは抱きついたままクルクルと表情を変えて話すカカロットの髪をクシャリと潰し、顔を近づけて静かに唇を重ねた。
「んっ……っ、っ」
「一緒に遠征に出られるようになれば、どこでもこういうことが出来る。確かに待ち遠しいな」
「う、ん……」
 頬を真っ赤に染めていながらもターレスの言葉にしっかり頷き、乞うように顔を上げたカカロットにもう一度唇を重ねようとしたとき、もう一度奥の扉が開く音が聞こえた。

「おまえら、早く来いよ。玄関先で話さなく……っ!ちょっ、何してるんだ!!」
 ラディッツとターレスの視線がカカロットの肩ごしにぶつかり、触れあう寸前の唇が離れる。驚きの声を上げたラディッツを一瞥し、ターレスはカカロットの肩を抱くと、悪童のような笑みを返した。
「騒ぐなよ、ラディ。久々にあったからつい盛り上がったのさ。」
「――っ、オレはなっ、まだ、おまえとカカロットのこと認めた訳じゃないぞ!」
「はいはい。それでも、可愛い弟の頼みでオレの分まで飯作ってくれてるんだろ?」
 クッと喉を鳴らして笑い、片眉を上げて問いかける。
「……それとこれは別だ。おまえは昔からの知り合いだからな」
 ラディッツはややバツの悪そうな表情を見せながらも、いいから早く来いと言って奥の部屋に引っ込んだ。
「行くか。……続きは今夜だ。出て来られるか?」
「うん。行くよ、絶対」
 ターレスに肩を抱かれ、カカロットが恥ずかしそうにうなずく。二人は互いの親密さを隠すことなく、カカロットの家族の待つ食卓へ並んで歩き出した。


「へぇ、バダも帰ってたのか?」
 四人で座るには少し狭いテーブルの一角で、煙草をくわえた男に気づき、ターレスが可笑しそうに声をかける。バーダックはターレスと並んで座ったカカロットを交互に見て、白い煙を天井に向けて吐きだした。
「……まだガキ同士のままごとが続いていたのか」
 ターレスの問いを無視してバーダックがひとりごつ。
「なんだよ、父ちゃん!!オラとターレスはっ!」
 机に両手をついて立ち上がりかけたカカロットの腕を掴み、ターレスが座れと促す。カカロットは渋々腰を下ろし、少し悔しそうに唇を噛んだ。
「カカロット、ムキになるな。どう見えようと構わないだろう」
「うん……」
 ターレスの落ち着いた声に素直にうなずき、カカロットは兄に頼まれて人数分の料理をテーブルに並べる手伝いを始めた。

「遊び相手にしてるだけなら、ほどほどにしておけ。あいつは他のサイヤ人とはタイプが違うぞ」
 バーダックはラディッツとカカロットがテーブルを離れたのを確認し、ターレスをジッと見据えた。
「……意外に親バカなんだな」
わざと鼻で笑ってみせたが、バーダックがその程度で挑発されるはずもない
「カカロットじゃない。てめぇのための忠告だ。――適当に遊んで捨てようとしても、あいつはそう簡単に離れないだろうからな」
「なぁ、バダ」
「何だ」
「――あんたにバカにされても気にならないくらい、オレの方がカカロットにハマってるって言ったら、信じるか?」
 ターレスは沈黙したバーダックの視線を受け止め、薄い笑みを浮かべてテーブルに頬杖をついた。こちらに背を向けラディッツの手伝いをしているカカロットを見つめたまま、ターレスは独り言のように呟いた。
「ま、今までのオレを見てれば、冗談にしか聞こえないのも無理はないよな」
「……カカロットがそう思ってないなら、別にオレやラディッツがどう思おうと関係ないだろう」
 少し間を空けて答えたバーダックの方に視線を移し、ターレスは片眉を上げて見せた。
「そうだな。そのとおりだよ、バダ。……それにしても、あんたの息子と思えないくらい二人とも可愛いよなぁ」
「大きなお世話だ」
「ハハッ。まぁ、オレを信じろって言う気はないけど、オレといたいと思ってるカカロットの……勘なら信じてもいいだろ」
 ターレスは気恥ずかしさを誤魔化すように肘をついていた手を少し動かし、指先で言いすぎたとばかりにゆっくりと口元を隠した。

「ターレス、父ちゃんと何話してんだ?」
 ほどなくして戻ってきたカカロットが少し心配そうに二人を交互に見て尋ねる。ターレスは横目でバーダックを見てから、カカロットにニヤっと笑って見せた。
「息子さんをオレに下さいって言ってたんだ」
「タ、ターレス!!」
「冗談だ。それにおまえん家はバダよりラディの方が過保護だからな。――説得するならあっちからだ」
 クイッと顎を動かしたターレスの視線を追って振り返ったカカロットは、フライ返しを片手にこちらを睨んでいるラディッツを見てペロリと舌を出した。
「兄ちゃんは、オラが笑っていられることには、最後には絶対反対しねぇもん」
 カカロットは手にしていた料理の皿をテーブルに置くと、ターレスの頬に触れるだけのキスを落として恥ずかしそうに言った。
「……おまえら、飯食ったら、とっとと出かけろ」
 鬱陶しいといわんばかりのバーダックにウィンクし、
「ああ、悪いな、バダ。ギネがいない日に見せつけ過ぎたか?」と言った。
「母ちゃんがいたら父ちゃんもラブラブできたのにな!」
「それこそ大きなお世話だ」
 バーダックは悪意のない言葉に苦笑いし、気が気でない様子のラディッツと目が合うと、ひょいっと肩をすくめた。

 親子三人と一緒の食卓に着いたターレスは、テーブルを挟んで賑やかに笑い合う兄弟と、黙々と食事をするバーダックを眺めつつ、自分がこの光景の中にいる幸福を一人胸の内で噛みしめていた。




end

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