サイヤンDayまであと4日!(タレカカ妄想付)

2016.03.14.Monday

【Turning Point】


 思えばこの日が転機だったのだろう。
 いつものように戦闘ジャケットとスカウターを手にポッドの発着場へと続く通路のゲートをくぐる。ルーティンでしかない質問に淡々と答え、自分のポッドを探していると、管制塔で働く顔馴染みが声をかけてきた。
「ターレス、今回の遠征、おまえのパートナーは変わったみたいだぞ」
「そうなのか?」
 足手まといになる奴でなければ別に誰と組まされようが知ったことじゃない。そんなことを思いつつ、辺りを見回していると、今回のパートナーらしき男がオレのポッドの前に立っていた。 
「ああ、あいつだ。名前は……カカロットだな。少人数の遠征は今回が初めてらしいが、まぁ、大した星でもないから大丈夫だろ」
「死んだら死んだで自業自得だ」
 惑星の遠征に派遣される戦闘員のデータが詰まったコンピューターを確認しながら説明する男に肩をすくめて見せ、子守りはしないぞと言って歩き出す。実際カカロットとかいう奴は遠目にも随分ガキ臭く見えた。

「オッス! おめぇがターレスか? よろしくな。オラ、カカロット」
 ポッドのところまで歩いていくと、オレに気づいたカカロットが人懐こい笑顔で問いかけてくる。外見はオレとよく似た典型的なサイヤ人下級戦士。恐らく十六、七にはなっているだろう。だが、醸し出す空気にほとんど邪気を感じないせいでもう少し幼くも見え、おおおよそ戦闘民族らしくない。もちろんサイヤ人も年がら年中殺気立ってはいないが、それにしても呑気過ぎる。はっきり言って苦手なタイプだ。
 返事をする気にもなれず黙ってうなずき、さっさとポッドの扉を開ける。だが、カカロットはそれにならおうとはせず、ニコニコ笑ってさらに近づいてきた。
「おめぇの噂聞いてっぞ。ガキの時に送られた星から帰ぇってきたばっかりなんだよな? 下級戦士なのにすっごい戦闘力だって」
「……そう思っているなら一人にしてくれて構わないぞ。助けがいるような星でもなさそうだからな」
「そう言うなよぉ。足は引っ張らねぇって」
 なんの根拠もなさそうな答えと能天気な声が癇に障り、舌打ちしそうになった。だが、こんな青臭い奴に感情的になっているなどと思われたくない。皮肉を言ったところで通用するかどうか。何故か隣を離れようとしないカカロットを無視して、ポッドの内部コンピューターに遠征先をインプットする。とにかくさっさと乗り込んでしまえばいい。そう思って作業に集中しているオレの視界の隅でカカロットの尻尾がゆらゆら揺れた。
「何だ?」
「へ?」
 ポッドの中に向けて屈みこんだ体勢のまま尋ねると、カカロットが間抜けな声を上げる。どうしてこんな奴が二人組の遠征にも出られるような戦闘員資格があるんだ。
「いつまでもそんなところに立っていられちゃ気になってしょうがない。さっさと自分の準備をしろ」
 感情的になるまいとしても、浮かんだ疑問のまま口調が刺々しくなる。
「だってまだ時間あるし、それならもうちょっとターレスのことを知りてぇんだ」
「オレのこと?」
 精一杯迷惑そうな顔を作って振り返ると、カカロットは好奇心を隠そうともせずオレを見ていた。
「うん。なぁ、噂になるくれぇ強いのに、どうして小せぇ時に送られた星から帰ぇってくるのに時間かかったんだ?」
「おまえに関係ないだろう」
 ぶっきら棒に答えたが、ヒヤリとしたものを感じる。
 もちろん真実を話す気などさらさらないが、コイツの真っ直ぐすぎる目がオレがひた隠しにしてきたことを見抜きそうな、そんな馬鹿げた考えに囚われたからだ。
「そりゃ関係ねぇけど。ま、いっか。オレ達初対面だもんな。遠征で一緒に戦ってたらもっと仲良くなれっだろうし」
「ふざけるな。誰がおまえなんか……」
「最初そういう奴結構いるんだけど、皆、絶対ぇ仲良くなるぞ」
 人の話を厚かましく遮ったカカロットは、満足そうにうなずきながらそう言った。オレはそれ以上何か言う気にもなれず、黙ってポッドに乗り込み、まだ何か言いそうなカカロットをシャットアウトすべく扉を閉めた。丸く盛り上がった赤いガラスの向こうに立つカカロットは、オレの態度に気を悪くした様子もなく、ひらひら手を振って見せてから自分のポッドへと駈け出していった。


 ――こんな、馬鹿な。

 瓦礫の山と化した大地の真ん中に立つカカロットを呆然と見つめる。

 星に着いてすぐ二手に分かれた訳は、慣れ合うのはごめんだと思ったからだ。だが、オレが担当した区域はほとんど女子ども、――らしき形態の異星人ばかりで、追う気にもなれない勢いで逃げ惑うばかり。面倒だと巨大なエネルギー弾を一発投げつけ、辺り一面を焼け野原に変える。その一撃で視界に入る範囲の生き物は死に絶えただろうが、当然戦うことに餓えているサイヤ人の血はこの程度で満たされない。スカウターを操作し、カカロットがいるエリアをサーチすると、比較的大きな戦闘力が赤いスクリーン上に点在し、猛スピードで移動している。
 今回はハズレだったか。
 あんなガキに戦い甲斐のありそうな場所を譲ってしまったとは、勘が鈍ったものだ。今度は隠すことなく舌打ちし、地面を強く蹴る。まだ、このエリアにも幾人かの生き残りはいたが、こんな奴らを相手にしたところでカタルシスにすらならない。オレは地面に這いつくばった異星人どもの呻きをBGMに、迷わずカカロットのいるエリアを指して飛び立った。

 そして、到着から数分間。オレは眼前で繰り広げられる戦いが現実とは思えず、ただただ立ち尽くしていた。
 数人でいっぺんに攻撃をしかける敵の合間をすばしっこく飛び回り、次々エネルギー弾を繰り出す。スカウターで測るまでもなく、それなりの戦闘力を持った異星人たちがカカロットの手で倒されていく光景はオレが全く予想していなかったものだ。恐らく目に見える範囲の人間が倒されるのに十分もかからなかっただろう。
 周囲で息づいていたものは瞬く間に塵芥となり、その中で一人、カカロットは近づきがたいほどのオーラを纏って立っている。凛とした立ち姿と見た目の幼さが手伝って、さながら天誅を下しにきた神の使いのようだ。もっとも、この星の連中には幼い悪魔にしか見えていないだろう。
「あれ? ターレスも来たんか?」
 生き残りがいないか周囲を見渡していたカカロットの目がオレをとらえ、瞬間、鋭い目がふわりと笑顔に変わった。
「あ、ああ……」
 まだ驚きから回復していなかったオレは、カカロットの笑顔に引きつった笑みを返すとしかできない。だが、カカロットは何故か嬉しそうに尻尾をクルクルさせ、オレの前まですっ飛んできた。
「何だ?」
「初めて笑ってくれたからっ! な? オレも強いだろ?」
「ああ……正直驚いたな」
 情けない話だが、カカロットの笑顔にホッとするあまり、オレはいつになく素直に答えていた。
「へへっ。じゃあさっ、また次もオレと組んでくれよ」
「……何故だ?」
 話しに脈絡があるようには思えず眉を寄せる。カカロットはオレの目の前に立つと、頬に散った返り血が不釣り合いな照れ笑いを浮かべた。
「だって、ターレスはすっげぇ強いって聞いたから戦ってるとこも見てぇし、遠征で組めばトレーニングも一緒にできっだろ」
 目を輝かせて話すカカロットをじっと見つめているうちに説明のつかない温かいものが胸に広がる。ほとんど無意識に頬についた血を親指で拭うと、カカロットはきょとんとオレを見上げた。
「ターレス?」
「おまえと組んでやってもいい」
「ほんとか! やった!!」
 首を傾げていたカカロットが明るい声を上げる。
 戦闘中の本能をほとばしらせた表情と花が咲いたような笑顔の対比は、本当に同一人物なのかと呆れるほどだったが、コイツの他の表情も見たいと思っている自分を否定できなかった。
「じゃ、あとは一緒に片付けっか?」
 現実的な提案にうなずいたが、回れ右して歩き出そうとするカカロットの腕を引き、不意をついて首筋にキスをした。血の味がする頸動脈に触れた唇にカカロットの驚きが伝わってくる。これ以上どうこうしようと思っていたわけでもなく、すぐに解放してやると、今度はカカロットがオレの腕に手をかけた。
「キスすんならちゃんとしてくれよ」
 思いがけない大胆な誘いに腹の底がドクリと疼く。
「――仕事が終わってからだ」
 自身の感情ごとはぐらかすような答えを返し、鼻の先に唇を落とすと、カカロットは不満げに口を尖らせた。まだあどけなさを残した表情を小さく笑い、頬を軽く摘まんで引っ張る。
「行くぞ」
「わかったよ」
 まだ不服そうだったが、カカロットはオレに続いて空に浮かんだ。
「よろしく頼むぞ、相棒」
「うん」
 気恥ずかしさを隠してニヤリと笑い、カカロットの肩を叩く。カカロットはまたパッと明るい笑顔を見せ、目指す場所をスカウターで確認した。
「じゃ、先に着いた方が勝ちな!」
 目標が定まったところで突然の提案をし、カカロットが猛スピードで飛び去って行く。見る間に小さくなっていく影を見つめ、ハハっと声を出して笑った。
「甘く見るな。――ハンデ付きで負けたら、後でたっぷり罰を受けてもらうぞ」
 我ながら楽しげな声でそう言うと、オレは久しくないほど意識を集中させた。

 ――コイツになら、話してもいい。
 
 ふと浮かんだ考えは、一人で事を成し遂げようとしたオレにとって甘く危険な誘惑。だが、リスクを冒す価値はありそうだ。

 良くも悪くも運命ってやつは悪戯なものだからな。

 もはや追い付けないだろうと思わせたところで必ず捕まえてやる。オレは一つ大きく息を吐いてから、空気を切り裂いて空に飛び出した。




end

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