目がっ、目がぁぁぁ・・・・(+タレカカ空妄想付)

2016.03.01.Tuesday


【e-mail from Cats】

 時計を確認すると、十一時を過ぎていた。

 自宅マンションはもう目の前だが、いつもより随分遅い帰宅というだけでつい早足になる。まだ起きて待ってくれていることはわかっていても一分一秒でも早く悟空の笑顔が見たい。
 整った顔と綺麗なアイスグリーンの瞳のせいで、同僚たちからはどちらかというと冷たい印象を持たれているのもわかっていたが、カカロット自身笑顔は悟空のためにとっておくものだと思っていたから、気にしていなかった。もっとも、今日のように普段あまりつきあわない宴席では、日頃からお互い牽制しあいつつも虎視眈々とカカロットを狙っている女子社員たちに囲まれることもあった。だが、本人にその気がない以上、どうにもなりようがない。ある意味潔いほどカカロットの生活は悟空中心に回っていた。

「ただいまー」
 少し息を切らしながら玄関の鍵を開け、靴も脱がずに声をかける。
 待ちくたびれてうたた寝しているかもしれないと思ったが、リビングからすぐおかえりという返事と足音が聞こえた。玄関からは居住スペースまでは、廊下といっても奥まで簡単に見通せる程度の短いものだから、リビングのドアが開けばすぐ悟空の笑顔に会える。外したネクタイと鞄を手にいそいそ近づいていくと、悟空も嬉しそうにカカロットを見上げた。
「あ、ちょっと酒くせぇ」
「ごめん。一応オレが初めて提案したプロジェクトの打ち上げだったから、思ったより飲まされたんだ」
「そっか。皆でお祝してくれたんだ。良かったな」
 悟空といて何が一番心地よいかというと、たとえ些細なことでもカカロットが嬉しいと感じることをいとも簡単に自分の喜びとして受け入れることだ。もちろん悟空にもエゴがないわけではないのだろうが、少なくともカカロットのことに関しては、いつも目を輝かせて一緒に喜んでくれた。

「カカ、それ何?」
 一緒にリビングに向かい、スーツのジャケットと鞄をソファに置いて着替え始めていると、コーヒーを点てる準備をして戻ってきた悟空が鞄の横の紙袋を覗き込む。
「ああ、ごめん。残念ながらお土産じゃないよ」
 片手を顔の前にかざして謝るポーズをとると、悟空はそんなこと言ってねぇよと笑った。
「よくわからないけど、なんか同じプロジェクトチームにいた人たちが最後の方で猫のダンスとかいうの披露してて……。で、何故かオレが小道具持って帰ることになったんだよなぁ」
 なかなかシュールだった余興を思い出し、呆れ顔で説明しながらカカロットがとり出したものは、黒と白のカチューシャ。それも、フェイクファーで出来た猫の耳がついている。
「カカもそれつけたんか?」
 悟空は予想外のものを見て目を丸くしていた。
「いや、さすがに……」
 苦笑して答えかけたカカロットがふっと言葉を切る。悟空は不思議そうに首を傾げ、カカロットを見つめ返した。
「カカ?」
「ん? いや、悟空なら似合いそうだなって思って」
「ええっ!?」
 驚いて叫んだが、カカロットの目が全く笑っていないことに気づいて、顔を引きつらせて後ずさりする。
「オラ、イヤだかんな」
「――絶対可愛いから、ちょっとだけ」
 じりじり近づいてくるカカロットを避けて後退し続けていたが、当然すぐ壁に阻まれてしまう。酔った上での悪ふざけに過ぎないとはわかっていても、こういうモードに入った時のカカロットは、ちょっとやそっとのことでは引かない。悟空は深々と溜め息を吐き、最後の望みをかけてカカもつけるならと言った。
「え? いいよ、悟空とおそろいなら、別に」
 一番よくないパターンの予想と同じ答えを返され、悟空がガクッと肩を落とす。カカロットは大して迷うこともなく白い毛の猫耳を金髪の間に滑り込ませ、もう一つの黒猫仕様のカチューシャのC字の先端を広げながら笑顔で悟空に近づいた。
「約束だからな」
「わかったよ!」
 悟空は真っ赤な顔でやけ気味に叫ぶと、カカロットにされるがまま黒猫の耳をつける。
「やっぱり可愛い」
「――そんなの嬉しくねぇしっ。そ、それにっ、カカだって結構可愛い!!」
 言い返したつもりだったが、実際、カカロットには不思議なほど白い耳が似合っていた。もういいだろうと言ってカチューシャを外そうとした悟空の手をカカロットがさっと握る。眉をひそめた悟空にニッコリ笑って見せ、カカロットはいつの間にという素早さでポケットからスマートフォンを取り出したかと思うと、自撮りカメラを起動させて迷うことなくシャッターを切った。
「カカ!!」
「いいだろ。別に」
 おかしな格好を記録された恥ずかしさに耐え切れず、悟空が大声を上げる。だが、カカロットは一切気にすることなく、満足そうに写真を眺め、待ち受けにしようかなと言って笑い、耳まで赤くなっている悟空を不意打ちでギュッと抱きしめた。


 電気が半分消えた深夜のオフィス。
 軽やかにキーボードを打つ音に混ざって、テーブルの上に伏せてあったスマートフォンが震える。
 あと少しで資料が完成すると言うところだったが、一旦手を止め、机上のスマートフォンに手を伸ばす。ひっくり返してみると、アプリからのトーク通知が表示されていた。

 ――猫たちがお腹を空かせています。余所の餌を探しにいかないうちに帰ってきた方がいいにゃん♪

 何だと思わせる文言に眉を寄せ、添付ファイルをクリックする。すると、件の猫耳カチューシャをつけたカカロットと悟空のツーショットが現れた。

「何をやってるんだ」
 思わず声に出して、つっこんでしまった。
 そういえばカカロットは今日飲み会だと言っていたから、おおかた酔っぱらって悟空にも無理矢理こんな格好をさせたのだろう。ふぅっと息を吐いて苦笑いし、一寸迷ってから返信欄に指を滑らせる。
 このところ確かに帰りは遅くなってばかりで、二人を構う間もなかったから、いつカカロットと悟空に自分達二人だけでもいいと言いだされてもおかしくない状況だったが。

 餌はともかく、オレ以上に上手くおまえらを撫でられる奴はいないから、いい子で待ってろ。

 悪ノリにつき合ってやっている自分に呆れてしまうが、悪い気はしない。
 大きなハートマークのスタンプが返ってきたのを見て小さく笑い、ターレスは残りのい事を急ピッチで終えるべく、メガネのブリッジを片手で軽く持ち上げてから、また滑るようにキーボードを叩き始めた。



end


このターレスの素晴らしくとってつけた感じの存在感よ!ww
カカ空だけじゃあかんかったんかい!と自らにツッコんでおきますw
やっぱり浅黒い人もいて欲しいのぉぉ/////  

22:16|comment(0)

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