一人称のコツって何…?(タレ空妄想付)
2016.02.15.Monday
【揺れる】
頬に触れた手は冷たい目からは想像ができないほど温かかった。
「どうだ、覚悟は決まったか?」
オラの答えを待っているはずなのに、ターレスの声は確信に満ちている。口を開こうとしたけど、言葉が見つからなくて結局黙り込んだ。
負けたくねぇ。負けらんねぇ、負けちゃいけぇねんだ。オラには大事なものがいっぺぇあって、全部簡単に手離しちゃいけねぇものばかりなんだから。
奥歯に力を入れて、ターレスを見返す。
口を閉じたまま笑みを浮かべたターレスの手がオラの頬を離れた途端、なんだかわかんねぇけど、顔が熱くなっちまった。
「決められるはずないな」
「え?」
一瞬皮肉を言われたのかと思ったが、ターレスの目は別人みてぇに穏やかだった。
「決め、らんねぇよ」
でも……
ふざけんなっと怒鳴りつけらんねぇ時点で、オラの気持ちが揺れてんのはもうバレちまってるんだよな。
「決めらんねぇ」
ターレスの顔を見ているのが苦しくなって、俯いて答えた。頭の上でフッと笑う気配がしたけど、やっぱり顔は上げらんねぇ。嵐が過ぎてくんをただ待ってるだけみてぇな変な気分だったけど、……乱れてるんはオラの胸ん中だけ。
ジッと歯を食いしばっていると、不意に頭のてっぺんになにかが優しく触れた。
顔を上げようとしたら、ターレスが楽しそうにおっと、と言って笑ってる。いってぇなんだと戸惑ってると、今度は両手で頭を挟まれちまった。
「ターレス、何してんだ?」
「さぁな」
笑って答えるだけで、オラの頭から手を離してくんねぇ。
ちょっとイライラしちまったけど、さっきより長く頭のてっぺんに触れたもんが、もしかしてターレスの唇なんじゃねぇかと気付いたら、どうしようもなく恥ずかしくなっちまった。
「なっ、何してんだよ!」
「いいだろう、このくらい」
「よくねぇよっ。チュ、チュウとかっ、誰にでもしていいんじゃねぇんだぞ!」
自分でも何を言ってんだと思ったけど、恥ずかしさを誤魔化すには怒るしかなかった。どうしてこんなに恥ずかしいんかもよくわかんねぇし、そのせいでなんちゅうか胸が雑巾みてぇにぎゅうぎゅう絞られてるみてぇだ。
何もかも、何もかも全部ターレスのせぇだっ。
ターレスが地球に来たから。悪さしようとしたから。オラの仲間たちを傷つけてっ、挙句の果てにオラに無茶苦茶な要求をする。
なんでオラが……っ
頭ん中ぐちゃぐちゃになりながらそこまで考ぇたところで、スッと熱が引いた気がした。
そうだ。
酷ぇ奴から無茶苦茶な要求されたってわかってんなら、それを跳ねつけちまえばいいのに、なんでオラは迷ってんだ。
迷ってるってことは、オラはこいつを殺したくねぇんだ。
でも、もちろん地球は……いやっ、そんなでっけぇ話じゃねぇ。家族を守りてぇし、オラの周りで笑ってくれる奴らみんな守りてぇ。
だからっ、だから、だから、だからっ!!
「おめぇと、なんて……行けるわけねぇだろ」
もう震えてる声を隠す気なんてねぇ。
オラは揺れてる。
ついて行きてぇからじゃねぇ。突然現れて、地球の何もかも無茶苦茶にされたくなかったら、オレについて来いなんて要求、飲めるはずもねぇのにっ。誰に呼ばれても、自分の名前だと思ったことは一度もなかったのに、コイツが、ターレスが『カカロット』って言った瞬間、体に電気が走ったみてぇだった。
残酷な行動とは全く釣り合わねぇ。長ぇ旅が終わって、やっと会えたみてぇな、そんな……なんちゅうんだったっけか。ああ、感無量、だ。血が血を感じたみてぇな、そんな不思議な感覚。
でも、ついて行けるわけねぇ。
たとえターレスの目に映る圧倒的な孤独に押しつぶされそうになっても、たとえ、こいつにはオラが必要なのかもしれねぇって思っても。
「ついて、行けねぇ。おめぇが、そのなんとかっちゅう樹を植えるちゅうなら、オラは全力で阻止するしかねぇっ!!」
怒りでもねぇし、悲しみでもねぇ。
目の前のターレスと敵対する以外方法がねぇことへの歯がゆさをエネルギーに変えて、気を高める。
オラは今泣いてねぇだろうか。
ふと浮かんだ疑問もかなぐり捨てて、さらに気を集中させようとした直後、声を上げて笑うターレスと目があった。
「何が面白れぇんだっ!!」
怒鳴ったオラを見るターレスの目は、……見間違ぇだと思うけど、嬉しそうだった。
「別に。そう言うと思ったからさ」
「――っ、来ねぇんなら、オラから行くぞ!」
「無駄だ」
冷やかなターレスの言葉に思わず動きを止めてしまった。
隙を見せていい相手ではないのにっ。慌ててもう一度戦闘態勢をとろうとしたオラをじっと見つめ、ターレスは戦う気はないって感じで両手を胸の前で開いた。
「ターレス?」
「……安心しろ。気は済んだ。出て行ってやる」
「へ?」
間抜けな声が出ちまったけど、そんなこと気にしてらんねぇ。
後で考えたら危ねぇ話だけど、オラは罠かもなんて思ぇもしなかった。足を一歩前に出そうとしたら、なんだか綿の上でも歩いてるみてぇな感じがして、体が傾いた。
「何をしてるんだ」
少し厳しい声でオラを抱きとめたターレスを真っ直ぐ見つめて、オラは、出て行かなくてもいいだろうと言っていた。
「いいのか? オレは気まぐれだから、……またいつ気が変わって、おまえを連れ去りたくなるかわからないし、もっと困らせる可能性もあるぞ」
鼻で笑うみてぇな話し方なのに、なんだかターレスがホッとしてるって思っちまった。全部オラの勘違ぇかもしれねぇ。でも、今、引き止められんなら、いいと思った。
「そん時は、オラ、今よりずっと強くなってっから、おめぇに負けたりしねぇ」
「なるほど」
やっぱり何が可笑しいんかわかんねぇけど、ターレスはクッて喉を鳴らしてた。
本当はもう助けなんていらなかったけど、オラはしばらくの間、ターレスの温けぇ腕ん中から動かなかった。
こうしてたら、揺れてたことも忘れられそうだったから。
中途半端にend☆
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