めっちゃ途中・・・・(タレカカ妄想文付)

2016.02.09.Tuesday


【お肉の後は?】

 中央改札を抜けながら、黒みがかったシルバーの腕時計に目を落とす。
丸いケースの右下に二回りほど小さい円形の文字盤とムーブメントがあり、左側にもう一つ別の時間が表示できるデザインの時計は、海外出張が多いパートナーからの贈り物だ。出発の前の日には必ずカカロットのために片方の時間表示を出張先の時刻に合わせてくれ、仕事が終わっていることが明らかな時間ならいつ連絡をしても大丈夫だと請け負ってくれた。実際、仕事が忙しいことは十分分かっていたから、しょっちゅう連絡をするというわけではなかったが、ちょっとしたことに思える気遣いが離れている時間の長さを不安に変えないために大切だと知ってくれているのだろう。
だが、今日はもう右側の文字盤だけ気にしていればいいのだ。
改札の外は長方形の空間の両側が出口になっていて、冷たい風がさっと吹き抜けてきたが、もうすぐ会えるパートナーのことばかり考えていたから、全く気にならなかった。
待ち合わせスポットになりやすい中央改札正面を避け、信号を挟んだ向かいのファッションビルに向かう人たちの邪魔にならないよう、緩いカーブを描いた壁に背をつけて立つ。時間に遅れるわけでない限り、もうすぐ着くとメールしてくるようなタイプではない。逆に言うと、連絡がなければ予定どおり到着するということだ。
直帰できるのならもちろん空港で出迎えたかったが、今日はどうしても一度会社に寄ってから帰らなければいけないらしい。十日も帰りを待っていられたのに、いざ、会えるとなるとあと十分がひどく長く感じられるから、恋心というのは勝手なものだ。
 時計に目を落としたい気持ちを抑え、改札口から流れてくる人の波を見つめる。
 ほどなくして、寒さのせいで背を丸めた人々の間から待ち焦がれた男の顔が覗いた。

 人ごみから頭一つ飛び出た長身と、特徴的な浅黒い肌は、カカロットのパートナーであるターレスに違いない。
「ターレス、おかえり」
 すぐこちらに気づき、真っ直ぐ近づいてくるターレスに駆け寄りたかったが、少しでも落ち着いた大人の自分を演出しようと我慢する。ようやくカカロットのそばまで来たターレスを笑顔で出迎えると、当のターレスは周囲の目を気にする様子もなく、ただいまと答えながらカカロットの頬に口づけた。
「ずいぶん待ったのか?」
 浅黒い手でカカロットの手をとり、ターレスが少し眉を寄せる。カカロットは静かに首を振り、風が冷たかっただけだと答えた。
「とりあえず上手いものでも食いにいくか」
 カカロットのものとよく似たデザインの時計を確認し、ターレスはカカロットの腰を抱くような仕草で促した。
「久しぶりにちゃんと食べたい」
 カカロットは嬉しそうに頷くと、ターレスと並んで歩き出す。
「また不摂生してたのか」
 眉を寄せて問うターレスを見上げ、カカロットは答えの代わりに青い目で悪戯っぽく笑った。
「いつかみたいにぶっ倒れたらどうするんだ」
「大丈夫。ターレスといるようになってからは一度もないだろ?」
「そうそうあってあまるか」
 溜め息交じりに答え、ターレスは少し思案するように視線を巡らせてから、あっちだと言った。
「どこいくの?」
「焼肉」
「珍しいね」
 あまり賑やかな場所で食事をすることを好まないターレスの、滅多にないチョイスにカカロットは本気で目を丸くした。
「しっかり食わせて、栄養補給してからじゃないとおまえを食えないからな」
 タイミングよく人通りの少ない路地に入ったところで、ターレスはカカロットの耳に唇を寄せ、からかうように囁いた。
「……今すぐでもいいのに」
 微かに頬を染めながらも、カカロットはターレスの腕に腕を絡め、甘えるように答えた。
「慌てるな。後でいくらでも積極的になっていいからな」
 カカロットの金髪を指先で軽くすき、ターレスは数メートル先に見える小さな店を指差した。
「あそこだ。味は保証するから、しっかり食べろ」
「分かったよ。でも、家まで我慢できないから」
「そう言うだろうと思って、ホテルも予約しておいたさ。明日は休みだからな」
「ならたっぷり食べようっと」
 カカロットはポンと一歩前に飛び出し、ターレスに手を伸ばした。
「誰もいないし、店まで繋いでいいよな?」
「別に誰がいても関係ない」
 ターレスは軽く肩をすくめ、カカロットの手を握ると、落ち着いたたたずまいの店に向かって歩き出した。

「いらっしゃいませ」
 上下黒の制服を着た若い女性の店員に出迎えられた店は、完全個室の炭火焼肉の店だった。大小いくつかの部屋があるようだが、二人だというと奥のこじんまりしたスペースに案内される。もちろん狭いということはなく、心地よく寛いで食事を楽しめるよう計算された空間だ。ターレスは先に立って部屋に入ると、掘りごたつに腰を下ろす。ネクタイを緩めながらビールを注文し、お酒の飲めないカカロットのためにはお気に入りの炭酸水を頼んだ。

「おつかれさま」
 適当に注文を済ませた後、運ばれてきた飲み物を手に乾杯する。美味しそうに生ビールを喉に通すターレスをジッと見つめていると、なんだと目で訊かれた。
「見惚れてるだけ」
「おだてても何もでないぞ」
 皮肉にも見える笑顔で答えたターレスの方に身を乗り出そうと、両手をテーブルにかけた直後、注文していた肉が運ばれてきた。
「……やっぱりここじゃ何もできないね」
「当たり前だ」
「ターレスは平気なんだ?」
 不満げに口を尖らせたカカロットを一瞥し、ターレスはわざと冷静な表情のまま焼けた網に肉を乗せ始めた。
「ターレス!」
「怒るな。平気じゃない、もちろん。だが、そうやって拗ねるおまえの顔も悪くないし、楽しそうに飯を食うところもみたい。どうせ今日はこの後、ベッドの中にいる方が長いんだ」
 ターレスはそう言ってから、肉を挟んでいたトングを皿に戻し、手のひらを上にして人差し指を軽く曲げ、カカロットに来いと合図した。
「何?」
「顔だ、顔」 
 楽しげに促され、カカロットはさっきしようとしたと同じ体勢でテーブル越しに身を乗り出すと、クッと笑って軽く目を閉じたターレスと唇を触れ合わせた。
「これでいいか?」
「うん。肉食べる間だけは、我慢するよ」
「本当に欲張りだな、おまえは」
 すまして答えたカカロットの頬を親指と人差し指で優しくつまんで引っ張り、ターレスは焼け始めた肉をひっくり返した。
 腹八分目のその後は、きっとデザートよりも甘い時間。



to be continued…

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