豆はまかぬが恵方は食べた(タレカカ空妄想付)

2016.02.04.Thursday

 真っ黒なベルベットに大小のビーズをぶちまけたような満天の星空が広がる夜。惑星ベジータの下級戦士居住区にある一軒の家の窓から小さな影が滑り出た。
 月光を浴びて闇の中にぽっかり浮かんだシルエットは、間もなく日付が変わろうとする時刻には相応しくない少年の姿をしている。両手で自分の体の三分の二ほどもある包みを抱え込んだ少年の名はカカロット。ごく一般的な幼い下級戦士だ。
 いや、どちらかというといつも能天気で大雑把な性格を窺わせる行動をすることが多いから、用心深く左右に視線を走らせる様は、カカロットらしいとは言えない。眠くなっているのか、一つ欠伸をしてから息を殺して夜の中にゆっくり飛び出していく。人目につきたくないのか不用意に速度を上げようとせず、時折後ろを振り返りながら飛んでいくカカロットは、わざわざスカウターの照準を自分に合わせて行先を突きとめようとしている人間がいるとは想像もしていなかった。

 はやる気持ちを抑え、十分ばかり飛んだところで目的地が近づいてくる。ここまでくれば無事に届けられる。そう思うと、カカロットの頬は嬉しさで紅潮した。
 尻尾でバランスを取りながら下降し、裸足のまま柔らかな草の上に降り立つ。この季節に靴を履いていないのは少々寒かったが、ここまで誰にも見つからずに来たという達成感の方が勝っていて気にならなかった。
 数歩進んで扉の前に立つ。
 数ヶ月前までは若いサイヤ人が住んでいた家だが、遠征で命を落とし、今は空き家になっていた。当然、許可もなく子どもが一人で入るところを見咎められれば事情を聞かれる。周囲の家も全て寝静まっているようだったが、カカロットは両手で抱えていた包みをなんとか片手に移し、慎重に扉を開けた。

「こんなところで逢引か?」
 それは本当に不意打ちだった。
 背後から声をかけられ、カカロットの心臓は飛び出さんばかりに跳ね、大事に運んできた包みも取り落としてしまう。
「あ――っ、んぐっ」
 思わず絶叫しかけたカカロットの口を一瞬で真後ろに飛んできた男の大きな手が塞ぐ。男は、目を白黒させているカカロットを後ろからしっかり抱きしめ、厳しい表情でカカロットの顔を覗き込んだ。
「大声を出して困るのはおまえの方じゃないのか?」
 冷静に問われ、少し落ち着きを取り戻したカカロットが口をふさがれたまま頷く。男はフッと表情を緩め、カカロットを押さえつけるように抱き寄せていた手を離した。
「……ターレス」
「痛くなかったか?」
「うん。平気。なんで……」
 ここに?と目で問いかける。
 ターレスはカカロットの問いには堪えず、二人の足もとに散乱している食べ物に視線を落とした。
「動物でも飼ってるのか?」
「ちっ、違うよっ」
 薄い月明かりでもハッキリわかるほど動揺したカカロットを溜め息交じりに見下ろし、ターレスは両手を膝にあててカカロットと同じ目線になるように軽く膝を曲げた。
「説教しにきたわけじゃない。こんなところでコソコソしているを見つかったんだ。少なくともオレに理由を離さずには帰れないぞ」
「……だって」
 シュンと項垂れたカカロットの尻尾の先が足の間から覗く。ターレスはカカロットの頭をクシャクシャになるのも構わず勢いよく撫で、大きな黒い瞳に彼にしては穏やかな部類の笑顔を返した。
「怒ってないんか?」
「ああ。過保護なラディッツが、このところおまえが夕食を半分も食べないうちに自室に引きこもってしまうと言ってたから気になったんだ。食ってないわけじゃなく、翌日には空の皿を持って起きてくるなんてどう考えても不自然だろう」
 カカロットを可愛がるあまり、隠しごとなどしないと信じきっている兄への罪悪感はあった。それでも、ここに来ずにいられないわけがカカロットにはあるのだ。大人に知られれば大ごとになるだろうから眠いのも我慢して一人で通っていたというのに。
「そんなのほっといてくれればいいのに……」
 さすがにもう子どもじゃないと言い切るには自分が幼すぎると分かっていた。だが、一生懸命考えた計画が、たった数日でとん挫しようとしていることは、幼いカカロットの胸にはかなり堪える。堪えきれず涙が滲んできた目を見られたくなくて、目を逸らそうとしたカカロットの頬を外気で少し冷えたターレスの浅黒い両手が包み込んでくれた。
「――中に何かいるんだろう? とにかく案内しろ。悪いようにしない」
「オレがいいって言うまで絶対誰にも言わない?」
「約束してやるよ」
 請け合ったターレスの言葉で、カカロットの顔がぱぁっと明るくなった。
「じゃあ入っていいよ」
 尻尾を振り、いそいそと先に立って空き家に入っていくカカロットを苦笑しつつ追う。奥までというほど広くもない家の真ん中まで行くと、ターレスはぎょっとして立ちすくんだ。

「なんだそいつは?」
 カカロットが駆け寄った先にいたものは、飽きて捨てられた愛玩動物の類ではなく、立派な人間だった。背格好はカカロットとほとんど変わらないところを見ると、まだ幼いことは間違いない。手を繋いで並び、ターレスを真っ直ぐ見ている二人の尻尾がシンクロするように揺れ、時折、ハートの形になって先端が触れ合う。言葉にすれば愛らしい光景だが、幼いカカロットが自分と同じ年頃の子どもに食べ物を運んでいたとなると、そう楽観できる自体ではなさそうだ。
 
 ――とはいえ生身の人間、ましてやガキじゃないか。

 冷静な考えが浮かび、いつもの余裕を取戻し始めたターレスは、思案するように軽く曲げた指を唇にあてた。

「で、誰なんだ」
 最初に確認することはそれしかない。
 カカロットと名も知らぬ少年、――逆立った金髪と印象的な青い瞳をしている、に声をかける。だが、少年は言葉を探すように視線をカカロットに移した。
「えっと、こいつ……多分オラなんだ」
「何?」
 困ったように眉を下げ、黒髪をかきながら悟空が答える。
 二人の少年は顔を見合わせ、理解が追い付かず問い返したターレスをジッと見つめた。

 どうやらこの謎が解けるのはそう容易くないらしい。
 お互いの尻尾を仲良く絡ませた二人に近づきながら、ターレスは自分が予想以上の厄介ごとに巻き込まれたらしいと悟り始めていた。



end

続き書けたらいいかもしれないけど、これでもいいかもしれないw
テールはテールでも尻尾です★サイヤンでテールといえばやっぱりこれかなぁって♪

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