もうすぐメリクリですね(タレカカ文付)

2015.12.23.Wednesday


 白、赤、緑、金、銀。
 華やかに彩られたショーウィンドウが連なる通りを歩いていると、街全体に流れるクリスマスソングと、ドアが開いた店から漏れ聞こえるクリスマスソングの断片が混ざり合い、少し興ざめしてしまう。十数メートルおきに出会うサンタクロースの衣装を着た店員たちの呼び込みを横目で見つつ、ターレスは歩調を早めて買い物を楽しむ人々を追い越していった。
「メリークリスマス!」
 角を曲がってすぐ聞こえてきた大きな声に驚き、思わず足を止める。作戦成功とばかりにお決まりのサンタクロースの衣装を着た男が満面の笑みでターレスに近づいてきて、赤と金のリボンで口を絞った透明の袋を差し出した。
 中身はクッキーらしいが、可愛くラッピングされたそれを持って家まで帰るのも煩わしい。若い女でも子連れの家族でも、欲しい人間はいくらでもいるはずだ。そう思ったターレスは、コートのポケットから左手を出し、押し返す仕草をして見せたが、赤い帽子の下から薄い金髪を覗かせたサンタクロース姿の青年はなおもターレスに包みを押しつけようとした。
「甘いものは……」
 黙って受け取ればいいかもしれなかったが、その男の奇妙な厚かましさに苛立ってしまい、キッパリ断ってやろうと思った。だが、ターレスは拒否しかけた言葉を途中で切り、眉間に一寸皺を寄せ、まさかといった表情で目の前の男を見た。
「やっと気づいた!」
「カカロット……か?」
「そうだよ」
 耳からひっかけている付け髭を引っ張ってニッコリ笑った男は、紛れもなくターレスが春まで家庭教師をしてやっていたカカロットだ。最後に会った時よりずっと大人びて見えたが、大学生になって半年も経てば成長するのも当然だろう。
「さっきはそこ曲がったとこで配ってたんだ。でも、ターレス先生が歩いてくるのが見えたから、ここに回って待ってた。驚かせようと思って」
「大成功だな」
 嬉しそうに話すカカロットに苦笑いを返し、視線を落とすと、カカロットが持っている白い袋にさっきターレスに渡そうとしていたクッキーがまだいくつか残っていた。
「アルバイトか」
「うん。友達の代理だけど。引き受けた時は面倒だと思ったけど、こんな偶然があるならラッキーだったかな」
「まぁ、な」
 曖昧に答え、それ以上言葉が続かなくなる。合格の挨拶に来た時のどこか思いつめたカカロットの青い目と、目の前で笑うカカロットの青い目がオーバーラップし、ターレスは溜め息を噛み殺した。
「先生、これからデートとか?」
「それはこんな綺麗な夕暮れ時に一人で歩いているオレへの嫌味か?」
「ち、違うよ! 先生なら相手いない訳ないからっ」
「おまえも同じだろ」
「それこそ嫌味かよ」
 ムッと口を尖らせたカカロットを見てターレスの顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「世の中、見る目の無い奴が多いということだな」
 ターレスは可笑しそうにそう言って、さっき引っ張ったせいで少しずれていた付け髭を直してやろうと、カカロットの耳に手を伸ばした。
「なっ、何!?」
「いや、髭がずれているから」
「あ、ごめんっ。だ、大丈夫、自分で出来るからっ」
 カカロットは反射的としか言いようのない早さでターレスの手を払ってしまってから、慌てて謝り、耳を真っ赤にしてずれた付け髭を直した。
「驚かせて悪かったな」
 ターレスは束の間目を丸くしていたが、すぐに落ち着いた声でそう言うと、カカロットの肩をポンと叩いた。
「じゃあな。しっかり働けよ」
「あ……」
 片手を上げて歩き出そうとしたターレスは、カカロットが何か言いかけたのに気づいて足を止めた。
「何だ?」
「――っ、あ、の……さっ。先生、も、予定ない……ならっ、ひ、久しぶりだし、その、ご、ご飯でもっ、奢ってよ!」
カカロットは明らかに迷いながらもグッと拳を固め、赤い顔でターレスを見上げ、詰まりながら言った。ターレスは無言でカカロットを見ていたが、自嘲するような笑みを浮かべた。
「……バイトが終わったら連絡しろ」
「え?」
 ターレスの表情を見て、半ばあきらめかけていたカカロットはやや間抜けた相槌を打った。
「飯だろう? 合格祝いもしてやってなかったしな。電話番号は変わってないのか?」
「あ、う、うん!」
 慌てて頷いたカカロットにターレスはコールをしておくから、かけ直してこいと言った。
「分かった。8時には終わるから絶対連絡する!」
「ああ」
「他の約束入れないでよ、先生!」
 ターレスは念押しするカカロットに頷いて見せ、さっき受け取らなかったクッキーを一つとった。
「先生?」
「おまえが少しでも早く上がれるようにな」
 クスっと笑ってそう言い残し、シックな装いには不釣り合いな包みをコートのポケットに押しこむ。カカロットはまた耳まで赤くなりながらも嬉しそうに笑い、歩き出したターレスに手を振った。




ほんと中途半端。
二人のデートが書けたらいいのだけど><

17:58|comment(0)

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