好きさ好きさっ(タレカカ文付)

2015.12.20.Sunday


【A Prize】

 始業を告げるチャイムが鳴り終えた。
 中庭に近い教室から少し面倒臭そうな起立という号令が聞こえてきたが、立ち上がる気になれず、ベンチで足を組み直した。
 今頃、欠席届を出している訳ではないカカロットが教室にいないのを担任の教師が不審がりながら出欠をとっているだろう。どんなに遅くても1時間目の授業が終わるまでには教室に入るつもりだった。だからと言って遅刻の罪が軽くなるわけではないのだが……。

 浮かない表情でコートのポケットに手を突っ込む。指先で無意味に弄んでいたスマートフォンが前触れなく振動した途端、カカロットはポケットの裏地ごと引き出す勢いでそれを引っ張り出した。

「……サボって返信を待つんじゃない」
 冷えた指先をホームボタンに宛て、もどかしげに指紋認証をしようとしていたカカロットは、後ろから聞こえた声に文字通り飛び上がらんばかりの勢いで立ち上がった。
「タッ、せ、先生!」
 先生と呼ばれたスーツ姿の男は、自分の足元に転がり落ちたカカロットのスマートフォンを拾い上げ、声をかけた時の口調から容易に想像できる呆れ顔でカカロットを見た。
「話っていうのは何だ」
「あ、あの、今……じゃなくて、も」
 不意打ちで声をかけられ、まだバクバク音を立てて跳ねる心臓に押され、しどろもどろになるカカロットに大袈裟な溜め息を吐いて見せ、ターレスは周囲を一瞥すると、大きな褐色の手でカカロットの腕を掴んだ。
「ターレス!?」
「……先生だ」
「ご、ごめん」
 慌てて詫びたカカロットの二の腕を問答無用とばかりに強く引き、誰もいない廊下に繋がる扉を開く。ターレスは一番近い来客用のトイレまで真っすぐ歩き、戸惑うカカロットを強引に中に入れた。
「奥の個室に入れ」
「え?」
「ここで話していたら、誰か通れば筒抜けだ」
「あ、あ、うん。ごめん」
 自分とは正反対に冷静なターレスの声に一瞬チクリと胸を刺した痛みを誤魔化して頷き、カカロットは指示されたとおり広めに作られた個室に入った。

「で?」
「へ?」
「へ、じゃない。オレに話しがあるんだろう?」
 様式便器を挟んで向かい合う奇妙なシチュエーションを気にする風もなく、ターレスは無駄な前置きは一切せずに切り出した。
「あ、ごめ……」
「謝らなくていいから話せ」
 言下に退けられ、カカロットの青い目が辛そうに揺れる。ターレスはもう一度深く溜め息を吐き、カカロットの金髪に手を伸ばした。
「……機嫌がいいかと言われれば答えはNOだが、別に怒る気はない。いいから話せ。あんな早朝にメールを送ってきて、授業にも出られないほどのことなんだろう?」
 ターレスはカカロットのクラスの担任ではない。なのに、どうしてこんな早くホームルームに出ていないことが分かったのだろう。だが、浮かんだ疑問を口にしたところで、相手に迷惑をかけていることに変わりはない。カカロットはグッと拳を握ると、否応なく赤くなる顔を誤魔化すことは諦めてターレスを見上げた。

「あ、あの、さ……ほ、放課後とかで良かったんだ、話すの。でも、その……っ、昨晩、自分で勝手に盛り上がって、あんまり良く眠れなくて」
 決意をした割にはなかなか本題に入れないことに自分でも苛立ちながら、カカロットは懸命に言葉を押しだした。
「この前、雑誌の懸賞に応募……してたらっ、クッ、クリスマスディナーとホテルの宿泊券がセットで当たって、オレっ、いや、じゃなくて、そのっ、ターレスがひ、暇だったら……っ」
 そこまで言い終えると、カカロットはゆで蛸のように赤くなっていた。
「授業をサボるほどそれを言いたかったのか?」
 眉をひそめたターレスの言葉に、緊張が解けた反動でカッとカカロットは、話す間中金髪を軽く梳いてくれていたターレスの手を払いのけた。
「ど、どうせっ、ガキだよ!!」
「シッ」
「――っ」
 確かに学校内では危険すぎる大声を上げてしまっていた。
 だが、諌められると、余計に羞恥が押し寄せてくる。カカロットは堪らず個室の鍵を開けようとしたが、褐色の手がアッサリそれを阻み、気づいた時には窮屈な空間でターレスの広い胸に抱き寄せられていた。
「何だよ……」
 怒りをぶつけたかったが、微かな煙草の香に混ざったターレスの匂いを感じて、それ以上何も言えなくなる。そもそも意味深な行動をしたのは自分だ。偶然教室の前を通ったターレスは、カカロットがいないことに知って何かを察して探してくれたのだろう。
 カカロットは鼻の奥がツンと痛むのを感じながら、ターレスの体に手を回した。
「ごめん。早く言いたかったっていうより、なんて切り出せばいいかが分からなくて。――旅行なんて、まだ無理かなとも思ってるし」
「常識のある大人なら、せめて卒業まで待てというだろうな」
「そう、だよね」
 ポツリと答えて離れようとするカカロットをもう一度抱き締め直し、ターレスは顎を擽る金髪にキスをした。
「ターレス?」
「……ホテルは近いのか?」
「ううん。あの、クリスマス前に新しくオープンするってニュースにもなってた……」
「ああ、あれか。なら、そうそう知り合いに会うこともないだろう。予約がかなり先まで埋まっているらしいからな」
「うん。だから、その、さ。ラッキーだろ? ――いつも許されないことしてるって思ってたけど、その、何となく祝福されえてるような気になって。ターレスと行けたら……って思ったんだ」
「そうだな」
 フッと笑って答えたターレスの顔を抱き締められた体勢のまま見上げ、カカロットは青い目を大きく見開いた。
「いいの?」
「ああ。恋人同士の真似事をしたいのはオレも同じだ」
「真似?」
「拗ねるな。まだその言葉でおまえを縛るのは早すぎるかと思って言ってるだけだ」
「オレは、いつだってそうなりたいよ、先生」
「ま、体はとっくに恋人同士だしな」
 若く真っ直ぐな思いを内心心地よく受け止めながらも、からかうように答え、ターレスはカカロットの形のいい顎を軽くすくって顔を上げさせ、文句を言いかけけていた唇をキスで塞いだ。

「詳しいことはまた今度だ」
「うん。……今夜電話してもいい?」
「そうだな。あまり引き延ばして、おまえに他に誘いたい奴が出来たら大変だ」
「有り得ないよ」
 照れくさそうに答えて俯いたカカロットを背中から抱いたまま個室の扉を開け、ターレスはカカロットを軽く押しだすようにしつつ、白いうなじにキスをして、囁いた。
「そうでなくちゃ困る」
 名残惜しそうにターレスの手を離れたカカロットは、廊下に人の気配がしないのを確認すると、去りかけた足を止めてターレスを振り返った。
「どうした?」
「何でもない」
 わざわざ自分を探してくれたことに感謝を伝えたかったが、いつ誰が来るかも分からない危険を冒して慌ただしく言うようなことではない。思い直したカカロットは整った顔に幼さも覗かせる笑顔を浮かべ、軽く手を振ってから小走りにトイレから出て行った。
 
「……おまえが来てるかは、ちゃんと毎朝確認してるさ」
 カカロットの足音が聞こえなくなってから、ターレスは黒髪を片手でかき上げ小さく呟くと、シニカルな笑みを浮かべた。



ここまで(;´▽`A``
原稿終わったら仕上げ隊!けど、だいたいそう言いながらblogに吐きだした奴は仕上がらない罠(笑)

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