間に合わないっ<●><●>(タレ空妄想付)
2015.02.22.Sunday
【Like a Selfish Cat】
「修行ですか?」
ドアノブを回そうとした瞬間、声をかけられ、悟空はビクッと手を止めた。
まるで悪戯の現場を押さえられた子どものようだ。
浮かびそうになる苦笑いを押さえ、何食わぬ顔で振り返る。十冊以上も分厚い本を抱えた悟飯は、いつもの穏やかな笑顔を見せていたが、心なしか目が笑っていないように思えた。
「おお。おめぇも行くか?」
いつからこんな風に本心を隠す術を覚えたのか。
自信の言葉が胸の奥に押し殺した罪悪感を鮮やかに浮かび上がらせる。
黒縁の眼鏡越しにじっと悟空を見ていた悟飯は、ニッコリ笑って見せた。
「たまにはいいかもしれないですね」
「あ、ああ」
「最近、本当に身体もなまってきてるし」
「おめぇが来てくれたら、オラも……組手の相手がいて、助かるぞ」
――自分は今本当に笑顔を作れているだろうか。
ほんの数ヶ月前なら、大歓迎だったはずの悟飯の申し出。それに苛立ちを感じるなど、考えたこともなかった。いや、全てが一度たりとも想像したことのなかった感情ばかりで、悟空は自分が自分でないような感覚に混乱していた。
「……行きたいところではあるんですけど、今、論文の追い込みなんです。また今度」
「そ、そっか」
「ホッとしてるみたいですね。実際、最近修行も全然できていな僕じゃ練習相手にならないかな?」
「そんなことねぇ!!」
馬鹿馬鹿しいほど大きな声で言い返し、ハッとして口を閉じる。
悟飯の黒い瞳が全てを見透かすように、僅かな痛みを感じさせるのは何故なのか。
考えないようにしているだけ、自分はずるい父親だと思った。
「じゃ、オラ、行ってくっから」
「はい。あまり……没頭し過ぎないでくださいね」
「お、おう」
今度は上手く笑顔を作れず、悟空は慌てて悟飯に背を向けた。
玄関のドアを後ろ手で閉め、罪悪感を振り切るように一気に青い空に飛び立つ。白日の下、全てが曝け出されたら、これまで大事にしてきたものを全て傷つけると分かっていながら、何故自分は進路を変えないのか。悟空は感じたことのない胸の痛みが、背徳と呼ばれるべきものであることさえ知らない、まだ無垢な知識と相容れない行為に向かって青い空を切り裂いて飛んでいった。
数分もすると、眼下にこんもりと深い森が広がってくる。
速度を落として降り立った一角には、自然に作られた深い洞窟の入り口。夏でも涼しく感じる洞窟の中は、僅かな湿度を感じさせる以外、かなり冷え込んでいる。
闇の奥に僅かに見える灯りを追って歩いていくと、何か柔らかなものが悟空の足にまとわりついた。
「痛ぇっ。――おっでれぇた。おめぇ、どっから来たんだ?」
不意打ちに驚いて飛び上がった拍子に、洞窟の天井でしたたかに頭を打ちつけてしまう。ごつごつした岩で作られた不安定な地面に尻もちをついた悟空は、胸にピョンと飛び乗ってきた悪戯者が見たことのない猫だと分かり、頭を撫でながら話しかけた。
「――苛めるなよ、オレのペットだ」
「ターレス!」
片手にランタンを持って現れた男を尻もちをついたまま見上げ、悟空は目を丸くした。
「なかなか入ってこないと思ったら、何をやってるんだ? そんな小動物と浮気か?」
「うわ……って、おめぇこそ何言ってんだ。そっち行こうと思ったら、こいつが急にまとわりついてきて、ビックリしちまったんだ」
「ふん。――オレに飼われることをよしとするくらいだから、気まぐれなのさ。一ヶ月ほど姿を見なかったんだが、急に戻ってきてな。コイツはペットというより同居人くらいのつもりだろう」
ニャーァと長く鳴いた猫は、ターレスが片手を伸ばすと、迷うことなく太い腕を駆け上がり、ターレスの肩に乗った。
「そっか。おめぇもここで一人って訳じゃねぇんだな」
「はぁ?」
「いや、オラは……来てもそう長くはいらんねぇし、気になってたんだ」
「別に軟禁されてる訳でもない。夜には結構好き勝手に出掛けてるぞ?」
「うん。分かってんだけど……その……おめぇも、いいかげん別にもう隠れてなくてもいいし、そもそもオラが、勝手に死んじまってた間に好きにもできた、よな。なんかそういうこと考えてたら、何ちゅーか……」
ターレスは目を伏せてごにょごにょ話す悟空の腕を掴んで立ち上がらせ、耳元に唇を寄せた。
「オレとセックスしてから、罪悪感でいっぱいって顔だな?」
「――っ、だって!! そりゃっ」
「仕方ない、か? 確かにそうだな。多少強引だろうと生き返ってのこのこ挨拶にきたおまえを誘ったのはオレだから、気にするなと言いたいが……。正直おまえはこの手のことに相当疎いと思っていたから、罪悪感も感じないかと思っていたんだ。そこだけはオレの計算違いだったな」
「別に、おめぇだけのせいじゃねぇから……」
悟空はぐっと唇を噛むと、ほとんど体格差のない相手に少し窮屈そうに抱きついた。
「おまえが、……生き返ってきたりするからだぞ、カカロット。下らんゲームに巻き込まれて死んだままなら、オレも自分の欲望に気づかず、ただ、おまえを忌々しいと思っていられたんだ」
「うん」
ふぎゅっと抗議の声を上げた猫を互いの胸の間から解放すると、ターレスは言葉とは裏腹に悟空を抱き締めた手に力を込めた。
たぶん完成させる。多分!ww
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