バレンタインTKTKさんPart.1(タレ空)

2015.02.14.Saturday


「ターレス、ターレス?」
 遠慮がちに肩をゆする手の平の感触と、聞き慣れた声をまだ半分夢の中のようなぼんやりした意識で受け止める。
「大丈夫なんか? 眠ぃだけなら、オラ、帰ぇるけど」
「大丈夫だ」
 思いの外、はっきりした声が出て、ターレスの顔を覗き込んでいた悟空だけでなく、ターレス自身も驚いた。
「……何時だ?」
「もうお昼だぞ?」
「そう、か……」
 深く息を吐いて起き上がり、ベッドから両足を下ろす。
 ベッドの脇に膝をついていた悟空は黙って立ち上がると、ホッとしているようにも困っているようにも見える笑顔を見せた。ターレスは顎で自分の隣を指し、ポンポンとベッドを叩くと、少し遠慮がちにベッドに腰を下ろした悟空の頬にキスをした。
「おはよう」
「昼だってば」
「起きたんだからおはようだろ」
「ま、そっか。……具合悪ぃとかじゃねぇんだよな?」
「ああ。――それより急にどうしたんだ?」
 合い鍵は渡してあるから、悟空がここにいること自体不思議なわけではなかったが、事前に連絡をすることもなく訪ねてきて、家にまで上がり込むのは覚えている限り過去に一度だけだ。もっともあの時は、ヤケ酒で酔いつぶれる寸前、ターレスが悟空に電話をかけたからだった。
「やっぱ忘れてたんだな」
 苦笑いして、明らかにシュンとしている悟空の横顔を訝しげに見つめていたが、跳ねた黒髪越しに見えた壁掛けカレンダーの日付を見て、アッと声を上げた。
「悪かった。待ち合わせしていたんだったな」
「うん」
「忘れてたわけじゃないんだ。一週間前に急に論文の締切が早まってしまったんだが、おまえとの約束までには済ませられるつもりで……少し計算違いをした」
「あんま寝てねぇんだろ? 酷ぇ顔してるもん」
「いや、おまえの方が酷い顔だぞ?」
 ターレスはフッと笑みを浮かべ、悟空の頬に手をあてると、唇を薄く開いて優しくキスをした。
「……前みてぇにぶっ倒れてたらどうしようかと思って。メールも電話も返事がねぇから、心配したんだ」
 悟空はキスの余韻を噛みしめるような間を空けてからターレスの肩に頭をもたせかけ、浅黒い手をギュッと握った。
「悪かったな。日にちの感覚がなくなっていて、あと一日あると思ってたみたいだ」
「いいよ。論文っちゅーんはもう終わったんか?」
「ああ。これで週末はおまえのものだ」
「――っ、オ、オラのって!」
 思いがけない言葉だったのか、悟空はガバッと頭を起こし、耳まで真っ赤になった。
「今さら照れることもないだろう? オレはおまえのものだ。知らなかったのか?」
「オ、オラっ、だってっ」
 しどろもどろに答える悟空の肩を抱き寄せ、ターレスは目の前で熟れた苺のように赤くなっている悟空の耳を軽く噛んだ。
「くっ、くすぐってぇからっ」
「すぐにくすぐったいだけじゃなくなる。――もう、この味は覚えただろう?」
「ま、待ってくれよ、ちょっと!」
 わざと耳に吐息をかけながら囁いたターレスの胸を強く押し、悟空は相変わらず赤い顔で訴えた。
「何だ?」
 ここまできて拒絶されると思っていなかったターレスは、少し憮然として答えた。
「あ、あの、このまま、その……、シ、シタら、おめぇ、疲れてっから絶対寝ちまうと思うからっ、その、こ、これだけ先受け取ってくれよ」
 いわゆる恋人同士という関係になるまで、悟空にとってターレスは何を考えているのか分からない、不思議な存在だった。お世辞にも愛想がいいとは言えないにも関わらず、人を惹きつけずにいられない、それでいて近寄りがたい大人の男。友人から単純すぎるとからかわれるほど真っ直ぐな性質の悟空とは水と油と言ってもいいだろう。
 ただ、一緒にいるようになってから、ターレスは悟空といる時と、それ以外の人間といる時では、全く別人のような表情を見せることもあった。
 偶然の出会いから今の関係に至るまで、そう長く時間がかからなかったことが未だに信じられない。それどころか、恋人だと思っているのは自分だけではないのかという危惧さえあった。だが、時折、感情を丸出しにするターレスを見ていると、自分に心を許してくれているのかとも思う。
 悟空は不機嫌そうに自分を見ているターレスから離れ、部屋の隅から少し光沢のある白いしっかりした厚みのある紙で出来た袋をとってくると、黙ってターレスに差し出した。

「――ケーキか?」
 紙袋の中を覗き込み、白い長方形の箱に金字でつづられた店の名前を見たターレスは、片眉を上げ、意外そうに尋ねた。
「う、うん。甘ぇの駄目って分かってんだけど……」
「ああ、そうか。すっかり日付の感覚が抜けていた」
「そ、そうなんだ。ごめん、子どもっぽいかもしんねぇけ、――ターレス?」
 合点がいった様子で頷いたターレスの言葉に浮かれているのは自分だけだったのかと思うと急に恥ずかしくなってきた。悟空はまともに顔を上げられず、視線を床に落としたまま早口に答えかけたが、ターレスにシッと制された。
「ありがたくいただく。ここのチョコレートケーキはあまり甘すぎないし、酒にも合うと聞いたことがある」
「そうなんだっ、良かった。オラ、あんまよくわかんなくて」
「いや、バレンタインのプレゼントというのは嬉しいモノなんだな」
 ターレスはクスっと笑うと、悟空にもう一度キスをして立ち上がった。
「そんな、初めてみてぇに言うなよ。ターレスならいくらでも貰ってっだろ」
 悟空は恥ずかしさの反動もあって、自分もターレスと並んでキッチンに向かいながら拗ねたように顔を背けた。
「初めてだ」
「嘘つ……っ、な、何だよっ」
 勢いよくターレスの方を見た悟空は、思いがけない至近距離に顔があるのを見て、ぎょっと息を飲んだ。
「本当さ。――今までいくらもらっていようと、好きな奴から貰うのがこんなに嬉しいモノだと思わなかった。意識していたわけじゃなかったが、今日デートの約束をしたオレ自身を褒めてやりたいくらいだ」
「ほ、ほんと、に?」
「ああ。少なくとも恋人とこの日を過ごすのは初めてだ。オレはあまり記念日的なものに縁がない」
「じゃ、じゃぁっ、これからいくらでも楽しめるよっ。えっと、次だと、ひな祭りとか!」
「……男同士でか?」
「あ、そ、そっか。ごめん、オラもこんなこと言ってもらえるって思わなくて、舞い上がっちまってっ」
「とりあえずひな祭りは置いておいて、来月のお返しも楽しみにしてろ」
「うん!」
 悟空は目を輝かせて頷き、ターレスの腕に腕を絡めた。
「チョコレートよりこっちの方が飽きそうにないな」
「え?んっ……っ」
 三度落ちてきたターレスのキスを受け止めた悟空は、唇が離れると、爪先だって今度は自分からキスをした。
「Happy Valentine's Day」
 悟空の唇が離れるのを待って、ターレスはキッチンのテーブルにわざと気取った仕草でケーキの箱を置くと、悟空を抱き締めて囁いた。
「かっこよすぎだよ、ターレス」
「おまえは素直過ぎだ」
 声を上げて笑ったターレスの広い背中にしっかりと腕を回し、悟空は幸せを噛みしめるようにスウェットに染みついた煙草の匂いを吸い込んだ。




ちょっとだけいつもよりタレさんも素直系で^^
別にスーパーマンなタレさんでなく、研究者的な仕事してるスペシャリストっていうか、その分少しだけ世間からずれててもいいなぁ♪黒ちゃんはそんなタレさんの癒し。(そして私の癒し!←聞いてねぇww)

23:50|comment(0)

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