Unexpected(タレカカ学パロ@)

2014.12.28.Sunday


 教室の扉が開く音で一斉に入口に目を向けた生徒たちは、担任教師ではなく学年主任のトーマが入って来たのを見て互いに顔を見合わせた。

 担任以外がホームルームに来るということは、何かしらの非日常なことがあるに違いない。高校生くらいのころは、自分たちが説教されるのでさえなければ、退屈な毎日に刺激が加わるのは大歓迎だ。とりあえず叱られる覚えのない生徒たちは、全員大人しく席につきながらも、入口の扉のすりガラス越しに見える人影に好奇の目を向けていた。

「おい、日直」
 呆れ気味に促すトーマの声で扉の方ばかり見ていた日直の生徒が慌てて立ち上がり、朝の挨拶の号令をかける。
 全員気もそぞろな様子に小さく溜め息を吐きながらも、あまり細かいことを五月蠅く注意するタイプではないトーマは、全員が着席したのを確認してから口を開いた。
「悟飯先生だが、昨夜、急性虫垂盲腸炎で入院した。四日ほどで退院できるらしいから、出てくるとおっしゃっていたんだが、まぁ、冬休みまであと一週間だし、無理はよくないだろう。どうせならゆっくり身体を休めてもらうことにした。それで、冬休みまでの短い間だが、臨時の先生に来てもらうことになった。いいか。ちゃんと言うことを聞……」
 誰が始めたのか、トーマの話しの途中にも関わらず、アイドルでも迎え入れるような冗談めかした拍手が教室に広がる。別に担任の病気を喜んでいるわけではないが、そこまで深刻な事態でないと分かったから、何かしらの変化は若い彼らにとって歓迎なのだろう。だが、トーマが軽く睨みつけると、さすがにすぐ拍手は収まった。

「……ターレス先生、お待たせしました」
 しおらしく俯いた生徒達を見て、大げさな呆れ顔を作ってから、入口で待っていた臨時の担任教師に声をかける。
 促されて教室に入って来た男は、唇の端に浮かべた可笑しそうな笑みを隠そうともせず、教師という職業は少々不似合いな雰囲気を漂わせていた。
「すみません。調子に乗ってても、別に悪い子たちじゃないので」
 苦笑しているトーマに大丈夫ですと答え、近くの者同士で声を潜めて楽しげに品定めする女子生徒たちの視線もこともなげに受け止めている。
「じゃあ、一応挨拶を……」
 教室を見渡しているターレスにトーマが自己紹介をしてもらおうと声をかけた途端、ガタン!と大きな音が響き渡る。全員の視線が集まった先では、金髪の端正な顔の青年が自分の机を倒して立ち上がっていた。
「カカロット、どうした?」
驚いて目を見開いたトーマに慌てて首を振って見せ、青年は真っ赤になった顔を隠すように俯き、慌てて机を元通りにする。周囲の席の生徒達も、基本的にいつも高校生らしからぬスマートな行動が板についたカカロットの思いがけない失態に目を丸くしていた。
「何でもないです、すみません。ペンを落として……ひ、拾おうと思ったら、机に体がぶつかって、そのっ」
 しどろもどろに説明するカカロットが決して教壇の脇に立っている臨時教師の顔を見ようとしないことには、当の教師を除いては誰も気づいていなかった。
「大丈夫か? おまえでもそんなそそっかしいことするんだなぁ」
 楽しげに笑ったトーマに引きつった笑顔で答え、カカロットは自分の席に座り直した。
「じゃあ、ターレス先生に一応ご挨拶いただくか。短い期間だが、優秀な先生だ。おまえら、学ぶことはいくらでもあるぞ、いいな?」
「……やる気のある生徒さんは大歓迎ですよ」
 クスっと笑い、教壇の真ん中を譲ったトーマに頭を下げると、ターレスは特に当たり障りのない挨拶をした。

「今日はちょうど五時間目からロングホームルームで、うちのクラスと合同になっていますから、ターレス先生はその間、生徒に校内を案内させます」
「ありがとうございます。……お構いなければ、さっき目立っていた彼にお願いできますか?」
 一時間目の始まりを告げるチャイムが鳴ったのを聞いて、慌てて簡単な予定を説明するトーマの言葉に頷いてから、ターレスは視線をカカロットに向けた。
「ああ、もちろん。カカロットなら、無駄なく説明してくれると思いま……」
「トーマ先生!」
「どうした?」
 アッサリ承諾したトーマの言葉が終わるか終らないかのうちに、カカロットが机に両手をついて勢いよく立ち上がる。
 目を丸くして尋ねるトーマを見て、グッと言葉に詰まってしまう。カカロットが何も言いだせずにいると、ターレスは誰にも気づかれない程度に小さく笑みを零し、片眉を上げてカカロットを見た。
「……分かり、ました。よろしくお願いします」
 僅かに血の気が引いた顔を隔すべく頭を下げ、カカロットは浅い呼吸を繰り返して誰にも説明できない動揺した心を何とか抑え込むと、それ以上は何も言わずに静かに着席した。

 午後三時。
 五時間目の開始を告げるチャイムを聞いて、溜め息交じりに立ち上がる。
「いいなぁ、カカロット」
「……行ってくるよ」
 高校生なら授業を抜けられれば何でもいいと考える方が自然化もしれないし、いつもならカカロットも同じように考えただろう。クラスメイトから呑気に声をかけられ、仕方なく引きつった笑みを返したが、心は重くふさがっていた。
 教室を出て、重い足で廊下を進み、角を曲がる。職員室に続く階段を上がろうとしたカカロットは、踊り場に立っているターレスに気づいて息を飲んだ。

「出迎えを待つべきか迷ったが……ご苦労さん」
 ニヤっと笑って近づいてきたターレスと目を合わせないように軽く頭を下げ、踵を返す。隣に並んだターレスから微かに香る煙草の匂いに心臓がドキリと跳ねた。
「とりあえず一階から案内します」
「ああ」
 一呼吸ついてから歩き出し、並んで階段を下りていく。朝の教室での自分の失態の後、ターレスが案内役に自分を指名したのだから、まさか気づいてないはずはない。一体どんな表情で自分の説明を聞いているのかと思いながらも、顔を見てしまうととても平静を保てないと思い、ただひたすら機械的な案内をする。
 科学準備室の案内を終え、下駄箱が並んだ玄関前まで来たところで、次はどこへ行こうかと足を止めたカカロットは、いきなりターレスに強く腕を引かれたかと思うと、すぐ傍の来客用トイレに引っ張り込まれていた。

「なっ、うっ、ぐ……!」
 目を見開いて大声を上げそうになったが、浅黒い手がカカロットの口を塞ぎ、壁に押し付けられてしまう。
「叫びたいなら好きにしていいが、困るのはどっちかというとおまえの方だろう?」
 唇の端を引き上げ、短く笑ったターレスの黒い瞳を見返すと、顔から血の気が引いていくのが分かった。

 思い過ごし、他人の空似……
 言い聞かせようとしたところで、こんな印象的な男を見紛うはずもない。
 もっとも、あの夜は互いに名前さえも知らず、ただ行きずりの関係で終わるはずだった。

「せ、生徒にこんなことしてるのにっ、なんで困るのがオレなんだよ!」
 ターレスが手を離すのを待って、精一杯虚勢を張って言い返したが、声が震えてしまう。ターレスはカカロットの反応を楽しむような余裕の表情で小さく笑った。
「そりゃあ、こんな品のいい学校の生徒が、深夜徘徊の上、ゲイバーで男の誘いに乗ってホテルまでついて行ったとばれたらまずいからさ。言っておくが、オレは別に自分がゲイだとバレようと痛くもかゆくもない。無理して隠している訳でもないし、この学校にはいるのは一週間だけだからな」
 片眉を上げ、楽しげに言葉を紡ぐターレスを睨みつけてはみたものの、何も言い返すことが出来ない。唇を噛んで、視線を下げようとしたが、顎を掴まれ無理矢理顔を上げさせられた。
「若いだろうとは思ってたが、まさか高校生だったとはなぁ。……何故あんなところにいたんだ」
「か、関係ないだろ!!」
「少し声を落とせ。関係なくはない。オレはおまえの初めての男だからな」
「っ、――聞いてっ、どうするんだよ」
 含み笑いを浮かべたターレスの言葉で、嫌でもあの夜身体に刻まれた熱を思い出してしまい、カカロットの顔に一気に熱が集まる。
「そりゃぁ、これだけ劇的な再会をすれば興味も湧くだろう。それとも、おまえはこの先一週間も何事もなかったフリでいられるのか?」
「そう、するしかないじゃないか」
 震える唇から絞り出した答えを聞いた直後、ターレスの黒い瞳の奥が獲物に狙いを付けたように光った気がした。
「んっ、ぅ、――っ、止、めっ……っ!」
 次の瞬間、あっと思う間もなく両手を壁に押し付けられ、唇をキスで塞がれてしまう。目を見開き、もがいた合間に唇が一瞬離れたすきをついて叫ぼうとしたが、再び唇は塞がれ、かえってターレスの舌を受け入れることになった。
「っ、っ、ぅ……んっ、ぐっ」
 喉の奥から苦しげな声を漏らしてもお構いなしに口内を蹂躙されるうち、酸素不足のせいか、理性が徐々に薄れていくような感覚に襲われ、背筋が震える。両手でカカロットの手を掴んでいたターレスは、カカロットが抵抗できる余裕を失くしていることを見透かすかのように左手を離すと、制服のシャツのボタンを外し始めた。
「何っ、してるんだよ!」
「……欲しいだろ? 忘れちゃいないはずだ」
「ひっ」
 キスから解放され、肩で息をしているカカロットの驚きにも平然と答え、ターレスの舌が首筋を舐める。ゾクリと粟立つ感覚が嫌悪感ではなく、忘れようと忘れようとしているあの夜の快感にダイレクトにリンクしてしまった。
「一つだけ疑問でなぁ。おまえなら別にあんなところに来て、ナンパ待ちしなくてもいいだろう?」
「あっ、ぁ、駄目だっ! 止めっ、……ひっ」
 いつの間にかボタンを全て外されたシャツを大きく開かれ、タンクトップの中に滑り込んできたターレスの浅黒い手が胸の先端を押し潰す。うなじから鎖骨まで降りてきた舌の感触も、容赦なく乳首を摘まんだ手の力もあの夜より少し強く、カカロットの記憶を性急に引き出そうとしているように見えた。
「高校生で自分の性癖がクラスメイトと違うことに気づくのは楽なことじゃないだろうなぁ。大方やけになって、あんなところに来たんだとは思うが、違うか?」
「そう、だよっ。――ほ、ほんとに男相手にしたらっ、もしかしたら気持ち悪いって思えるかもって。なのにっ」
「……悦くて困ったか? まぁ、満足させた自信はある。諦めろ、これがおまえ自身だ」
「ぃぁっ、ぁ、駄目、だ。こんなとこで……っ、ひっ!」
「これじゃ止められても困るだろう。もう起ちかけてるぞ?」
 足の間に割り込んできたターレスの膝がカカロットの中心をする。揶揄する言葉に耳まで赤くなりながら、何とか目の前の男に飲まれまいと必死で抵抗しようとしたが、熱を帯びてきた乳首に吸いつかれ、堪らず短い悲鳴を上げてしまった。
「シッ。……少し静かにしろ」
「無理、に決まってる、だろ……っ」
 荒い呼吸を何とか抑えながら答えると、ターレスは楽しげに目を光らせ、カカロットの手を強く握った。
「来い。個室なら少しはましだろうし、……無理ならこれで口を塞いでやる」
 片手でネクタイを外しながらそう言ったターレスを奮える目で見上げ、カカロットはゴクリと唾を飲んだ。
「オレを……どうする気なんだよ」
「さぁな。結論は……おまえの味を思い出してからだ」
 耳元で囁いたターレスの深い声に引き込まれるように、カカロットは手を引かれるまま奥の個室へ向かった。



to be continued

はい!すいません、こんなところで切って。
一応続きます、さすがに続き書きます、スイマセン(笑)

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