食べ過ぎて死にそう(TKTK妄想)

2014.11.08.Saturday


 都会の喧騒からは離れた小高い丘の上にある石造りの建物を目指し、白い石畳の小道を歩いていく。古い修道院を改修して作られたそこは、訳あって親元で暮らせない少年たちが暮らす児童養護施設だ。

 18歳になると、親元に引き取られなくても独立して生活を始める子供たちが、無知ゆえに不利益な事態に陥らないよう、年長の子らを相手に生活に必要な法的知識や諸手続きの基礎を教えるため、ターレスがこの施設に通い始めてもう三年になる。二ヶ月に一度、二日間だけの講座とはいえ、基本的に独立心が強い、いや、独りで生きていかねばならないことを本能的に悟っている子どもたちは、ターレスの話しに熱心に耳を傾け、夜も遅くまで復習に付き合うこともあった。

 日頃はエゴイズム丸出しの大人を相手にすることが多いせいか、ここでの仕事はターレスにとっても、仕事を始めた頃の情熱を思い起こさせてくれる。実際、ここで知り合った少年たちが社会に出てから頼りにされることもよくあった。

「帰ってきたのね!!」
 すっかり古ぼけてはいても、格調高いデザインでしつらえられた正面玄関の木の扉を押した途端、ここが修道院だった頃から勤めている修道女が血相を変えて振り返った。面食らって返事が出来ないでいると、修道女もすぐ自分の思う人間とは違うと分かり、その場に崩れ落ちそうなほど深い溜め息を吐いた。
「何かあったんですか?」
 いや、何もないはずはない。
 ターレスの手を借りて、何とか椅子に腰を下ろしたシスターの視線を追うと、修道院をこの施設に作り替えた司祭が電話に向かっていつになく動揺した様子で話しをしていた。
「子どもが……二人、出て行ったのです」
 口にするだけでも最悪の事態を想定してしまうのだろう。
 年配の修道女は、一気に老いたような疲れた表情で額に手を当て、掠れた声で答えた。
「出て行った? ここから?」
 訝るターレスを見上げ、修道女が力なく頷く。
 ここを担当し始めて三年。ターレスが見る限り、この児童養護施設に不満を抱いているように見える者は一人もいなかった。
「理由は分かっているんですか?」
 重ねて尋ねると、修道女の目が何か邪悪なものに怯えたように揺れた。

「失礼」
司祭ファーザー
 別にターレスは特別信心深い訳ではなかったが、この司祭にはどことなく威厳があった。軽く頷いて促されるまま、修道女を残して隣の部屋に移動する。小さな部屋は元々懺悔室だった場所で、今は物置のようになっていた。
「こんな場所にお連れして……」
「構いません。何かあったんですか?」
「……何と言っていいものか」
 珍しく躊躇いがちに口を開き、年老いた司祭は纏っているローブが重さを増したかのように深い息を吐いた。
「私自身は、今ではああいう愛の形もあるとは理解しているが、ここの職員は元々修道士や修道女だったものがほとんどだからね。――時代の流れにそって、様々な愛の形を神が受け入れる可能性があると言っても難しい」
「あなたの前でこういう言葉を使っていいものか分かりませんが、その逃げ出した少年は……ゲイということですか?」
 さすがに躊躇してから尋ねると、司祭は無言で頷いた。
「それがばれて、飛び出した、と」
「そうだ。――無事に戻って欲しいが、戻れば片方は別の施設に送らざるを得ない。我々がその相談をしているのを聞いて、年長の子の方がもう一人を連れて出ていったのだよ」
「誰ですか? もちろん、差支えなければですが」
 問いかけながらもターレスの胸の中には一つの答えがあった。
「一人はカカロットだ。やっと15になったとこ……」
「ならもう一人は悟空ですね?」
 前髪をかき上げながら呆れたように付け加えると、司祭は大きく目を見開いた。
「何故知ってたか、なんて言わないでくださいよ。――彼らはまだ私の講義を受ける歳じゃありませんが、空き時間に何度か話をしたことはあるし、……誰の目にも明らかなくらいお互いがお互いに惹かれあっていた」
「そうだったのか……」
「失礼。聖職者であるあなたには分かりませんよね」
 ターレスは小さく笑うと、真顔になって司祭を見た。
「私が見つけてきます。――その先のことも私に任せていただけませんか?」
「君……が?」
「はい」
「しかし、この村がいくら小さいと言っても、一人で探し切れるような……」
「同じ穴のムジナと答えておきます。いずれにしても見つけたらひとまずここに戻ってきますから、安心してください」
 今度は少しシニカルに笑ってそう言うと、ターレスは左手の薬指に光るシンプルなプラチナリングを見せつけるように片手を上げ、踵を返して部屋を出て行った。

 数時間後、ターレスは再び児童養護施設へ続く丘の小道を上っていた。
 だが、来た時と違い、今度は小さなタクシーの後部座席で、両脇に二人の少年を乗せている。施設の玄関先まで車を付けてもらい、チップを含めた料金を支払う。運転手は笑顔で礼を言い、帽子をとると、ターレスの左に座っている金髪の少年がいる方のドアを開けてくれた。
「この期に及んでも暴れるのか!」
 ドアが開いた途端、ターレスの手を振りきろうとした少年の首根っこを掴んで引き寄せ、怒鳴りつける。ビクッと肩を震わせたものの、紅潮した顔も美しい青い瞳も怒りに満ちていた。
「カカっ、もうダメだよ」
 ターレスの右隣りの黒髪の少年が、金髪の少年の名を呼び、震える声で言った。
「嫌だっ、諦めない! 悟空といられないくらいならっ、オレはどんなことしても生き抜いて、金も力もつけてっ、誰にも文句言わせないくらいになって迎えに行くんだ!!」
 ヒステリックに叫ぶ少年を見て、気の良さそうな運転手がおろおろしている。
 ターレスはカカロットの襟首を掴んだまま外に押し出し、悟空の手はしっかり握ったまま車の外に引きずり出した。

「その決心があるなら結構なことだ。――おまえらは今日からオレの家で暮らすんだからな。どっちも出世してせいぜい恩返ししてくれ」
 講義に来ている時とはまるで違う皮肉な口調でそう言うと、カカロットは青い目を見開き、息をのんだ。
「おめぇの……家?」
 ターレスはカカロットを押さえつけていた手を離すと、同様に目を丸くして繰り返す悟空の視線に合わせて膝をついた。
「そうだ」
「なんで、オラ達を……」
「ここに戻ればおまえらは別々の施設で暮らすことになる」
「オレは絶対悟空と離れない!!」
 爆発するような激しい口調で割り込んできたカカロットを睨みつけ、ターレスは、
「いきがってるだけで、ガキ同士、まともに生きられると思うのか!?」と怒鳴りつけた。
「――っ、だ、って……」
「少し落着け。別におまえらに何か危害を加えようってわけじゃない。司祭ファーザーにはおまえらを探しに行くときに了解を得ている」

 ……というと語弊があるがな。

 シニカルな呟きは胸の中にとどめ、ターレスはカカロットと正面から向き合った。
「コイツを守りたいんだろう?」
 落ち着いた声で問うと、カカロットが唇を噛んで頷いた。
「同性だろうとなんだろうと、魂が引かれ合う相手はいる。おまえの若さで出会えたなら、本当にラッキーだ。……独り立ちできる歳まではオレに保護させろ。その後のことに口出しする気はない」
「分かった」
 現実的な自分の無力さを噛みしめ、悔しそうに頷いたカカロットの金髪を軽く撫で、ターレスは黒い瞳に意外なほど強い意志を秘めた悟空を見つめた。
「おまえは大丈夫だな?」
「カカと一緒にいさせてくれるっていうなら、おめぇを信用しねぇ理由ないから」
「それじゃ、あまりにお人好しが過ぎるが、そこはこっちの疑い深い坊やがバランスをとってくれるだろう」
 ターレスは笑い混じりにそう言うと、運転手に謝罪をして、もう少しこのまま待っていてくれと言った。

「交渉成立だ。正式な手続きは明日以降になるが、今からオレの家に行くぞ」
 一時間ほど経ったろうか。
 一人施設に入っていったターレスは、戻ってきた時、両手にカカロットと悟空の身の回りの品を持っていた。
「あのっ、ありがとう!」
「いや、礼を言われるほどいい暮らしはさせられないかもしれないがな」
 勢い込んで礼を言った悟空の頭を撫で、俯いているカカロットの肩をそっと叩いた。
「行くぞ」
「……ありがとう」
 聞こえるか聞こえないかの声で呟かれた礼に片眉を上げて答え、ターレスは二人の話し相手をしながら待ってくれていた運転手に行先を告げ、今度は自分は助手席に乗った。

 二時間ほど走ったところで、この辺りの特徴でもある赤い屋根の街並みが見えてきた。
「ここだ」
 綺麗に刈り取られた芝生の片隅には、夏から散り遅れたのか温暖な気候のせいか、薄いピンクをおびた白バラが花をつけている。
 恐る恐ると言った様子でターレスの後ろを付いて歩く二人の少年は、内心ポーチに並んだ大きな揺り椅子も、玄関のクリスマスリースもターレスらしくないと思っていた。
「何だ、随分早いな?」
 白く塗られた木製のドアを開けてすぐ、家の中から声がかけられる。
 明るい男の声に驚いたカカロットと悟空は、ターレスの後ろで顔を見合わせた。
「ああ。……拾いものをしたからな」
「拾いもの?」
 不思議そうに問い返しながら、玄関先に出てきたのはターレスよりもガッチリした体格の男だった。
「ああ。こっちのやたら綺麗なのがカカロット、こっちのガキっぽい方が悟空。こいつら今日から、……いつまでかは分からないけど、ここで暮らすから」
 同棲しているパートナーに相談なしに引き取ってきたことは、さすがにきまり悪いと思っているのだろう。
 ターレスは皮肉な口調を作れず、ぶっきら棒に言った。
「はぁ……」
「あ、あのっ、と、突然ごめ、いや、あの、すいません!! オラたちっ、迷惑かけねぇようにすっから、そのっ、引き離さねぇでくれっ」
 悟空はターレスの後ろで赤い顔で一気に言ってしまうと、勢いよく頭を下げた。
「……お願いします」
 悟空の必死の訴えに感じるものがあったのか、カカロットは堅い表情ながら大人しく頭を下げた。
「……オレも頭下げた方がいいのか?」
 二人を見て、溜め息交じりに問うターレスの頭を小突き、おまえが一番にだろうと言った。
「まぁ、何が何だか分からんが、家族が増えるのはいいことだ。――ターレスがあの施設に仕事で行くようになってから、オレ達も養子を育ててもいいな、なんて話していたんだ」
「それって赤ん坊じゃないの?」
「カカ!」
 シッとたしなめる悟空を見て楽しげに声を上げて笑い、トーマは大きな手でカカロットの金髪をクシャクシャに撫でた。
「まだ一人では生きていけない奴らなら、いくつでも同じことだ。それに、おまえらの年齢なら、オレ達の関係もきちんと説明して、理解した上でここにいられる。そうだろう?」
 穏やかに問うトーマを見上げ、カカロットと悟空は顔を見合わせてから同時に頷いた。
「決まりだ。面倒な手続きは急にことを決めたターレスがぜーんぶやってくれるからな。おまえらとにかく風呂に入って、それから飯だ、飯」
「おい、トーマ」
「まさか文句ないだろうな?」
「――分かったよ」
 肩をすくめたターレスにニヤっと笑って見せ、トーマは浅黒い頬に手を伸ばしてターレスに軽く口づけた。
「おいっ、子どもが見てるだろ!」
「どうぞご自由に」
 生意気な表情でそう言ったカカロットの隣で悟空は嬉しそうに顔を輝かせている。
「仲いいんだな、おめぇら」
 ターレスはストレートな言葉への答えを短い舌打ちで誤魔化し、トーマの後頭部に手を回すと、今度は自分からキスをした。
「ただいま」
「……おかえり。いい土産付きで、お疲れさん」
 ゆっくり唇を離したターレスの頬を軽く叩き、トーマは二人の少年の荷物を軽々抱え上げると、先に立ってリビングへ歩き出した。




おわり^^
本当にとことん自己満設定ですいません<(_ _)>
しかも一発書き、お見苦しい。でも、楽しいのですよね、これがとっても(;´▽`A``
これからカカ空さんもトマタレさんも色々悩んだりするんでしょーが、4人なら大丈夫だ(*´∇`*)

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