ひとりでトマさん愛で祭!E(トマカカ妄想付)

2014.10.07.Tuesday



「――オレに飽きたら遠慮はいらないぞ」
 トーマの広い肩に頭をあずけ、いい具合に弱くなってきた陽光に誘われるように眠りに落ちかけていたカカロットは、独り言ともつかぬ言葉にムッと口を尖らせた。
「あのさ、トーマ」
 カカロットがもう寝ていると思っていたのだろう。トーマの肩がビクッと揺れる。
 恋人と過ごす穏やかな時間に浸りかけていたところに水を差された思いのカカロットは、身体を真っ直ぐ起こし、片方の眉を少し下げてトーマを見据えた。
「何だ?」
 ただならぬ雰囲気は察したのか、トーマが心配そうに問い返す。
 付き合い始めてから半年。
 街ですれ違う人間一人一人にこれが自分の恋人だと自慢して歩きたいほど幸せを感じているカカロットは、自分の気持ちを何度伝えても、トーマがどこか本気にとらえてくれていないのを感じていて、それが唯一の不満だった。
 今日の言葉もこれまで何度か聞かされた。そのたびに飽きたりしないと憤りを込めて答えているのに、どうして分かってくれないのか。
「飽きたら、飽きたらって、ほんとはトーマの方がもうオレに飽きてるんじゃない? オレみたいなガキといても退屈で、でも、言いだせないからオレに言わせようとしてるんだろ!?」
 積もり積もった不満をぶつけた途端、不安と怒りが押し寄せ、感情を抑えることが難しくなる。
「何言ってるんだ、そんな訳……」
「いいよ! いつも休みのたびにくっつかれてたんじゃ、そりゃ飽きるかもな。オレ、出掛けて来るから!」
「カカロット!!」
 すぐにでも表に出られる程度の格好をしていたのを幸いに、カカロットは引き止めようとして肘を掴んだトーマの手を強く振り解き、そのままマンションを飛び出した。


 ……馬鹿なことしちゃったな。
 若い自分をパートナーにすることで、トーマにはトーマなりの不安があるのだろう。互いの愛情を感じ、伝えているつもりでも、想いは目に見える訳ではない。トーマが例のごとく同じ言葉を繰り返すなら、その数だけ、いや、それを上回るだけ、飽きたりしない、大好きだと伝えれば良かった。

 追い付かれないようにと無我夢中で最寄の駅まで走ってきたが、行く先など決めずに改札をくぐった直後、疲労と後悔が一度に押し寄せてきた。
 休日の午後、郊外の駅はさほど利用者が多い訳ではないが、両手で膝を抑え、屈みこんで肩で息をしているカカロットは行き交う人々の好奇の目を集めていた。見られているのは分かっていたが、体勢を立て直す気になれず、暫し浅い呼吸を繰り返す。
 今さら引き返して何と言って謝ればいいのか。
 ようやく呼吸が落ち着いて真っ直ぐ身体を起こすことはできたものの、答えが出ず、足は一歩も動かせない。
 引き返すことも前に進むことも出来ず、途方にくれていると、誰かがカカロットの肩を叩いた。

「トーマ!?」
 期待と不安が入り混じったまま、勢いよく振り返る。
 カカロットの後ろに立っていた背の高い男は、その反応に一寸眉をひそめたが、すぐに揶揄するような笑みを浮かべた。
「期待させて悪かったな」
「――あ、ター、レス……」
 そんなことないと誤魔化す余裕もなく、消沈する。
 ターレスと呼ばれた男は自称トーマの親友、だが、トーマに言わせれば腐れ縁の悪友らしく、いつ会っても何となく本音が覗けない印象だ。
 これまで会った時はいつもスーツ姿だったから、ネイビーのシンプルなカーデガンの中に白いTシャツ、ヴィンテージのデニムという格好のターレスは、歳よりもかなり若々しく見えた。
「なんて面だ。せっかくの美人が台無しじゃないか」
 ニヤリと唇を歪めて問うターレスに
「別に」とぶっきら棒に答える。
 正直得意とは言い難い相手とトーマ抜きで、しかも、こんな気分の時に会話をする気にはなれない。これ以上詮索されたくないという雰囲気を出して答えたつもりだったが、目の前の男がそんなことに頓着するはずもなかった。
「トーマと喧嘩か」
「関係ないだろ?」
「確かに。だが、帰るところも行くところもなくて突っ立ってる坊やを見たら、大人は保護しなきゃいけないだろうから、放っておくって訳にもいかないんだ」
「誰が坊や ――っ、つっ!? ふぁな、へ……ッ」
 ムッとして食って掛かろうとした瞬間、ターレスの大きな褐色の手で顎を掴まれ、顔を斜めに上げさせられる。離せと怒鳴ろうにもどこにそんな力があるのかと思う握力で顎を掴まれ、実際痛くて言葉になどならなかった。
「トーマが追いかけてくることに期待している時点でガキだ」
「――っ、ぅ、……っ」
 通行人の視線などいっこうに気にする様子もなく、ターレスは冷やかに言い放つと、カカロットにグッと顔を近づけてきた。
「それとも、ヤキモチでも妬かせたいのなら手伝ってやろうか?」
 今にも唇が触れ合いそうな距離までターレスに迫られ、鼻から入り込んだ官能的な香水の香りに頭が痺れそうになる。一瞬、抵抗を諦めかけたカカロットの脳裏にトーマの顔が浮かんだ。
「――っ、止め、ろ!!」
 渾身の力でターレスの腕を掴み、自身の顎が折れようが構うもんかとばかりに顔を横に逸らす。だが、そのタイミングを待っていたかのようにターレスの手の力が緩み、赤い顔のカカロットとは正反対の冷静な目がカカロットを見下ろしていた。
「こんなところで一人でグダグダ悩んでいたら、おまえくらい目立つ奴だと、いくらでも弱った気持ちに付け入られるぞ」
「オレはっ!」
「……トーマしかいない、だろ? だったら、少々面倒なことがあっても付き合ってやれ。あいつは、なんというか……器用な方じゃないから、おまえみたいな引く手あまたの奴がどうして自分を選んだか、ってずっと考えてるんだ」
「でも、オレは……トーマがいいのに」
 シュンとうなだれたカカロットの肩を軽く叩き、ターレスはフッと笑みを零した。
「こんな気持ちが消えるはずないって信じてきた恋って奴が指の間をすり抜けていく経験を、オレ達の方がおまえより多くしてるのさ。歳食ってる分な」
「じゃあ、またオレとも駄目になるかもしれないって思ってるってこと?」
「そうだとしても、あいつはおまえと……、いや、それはオレが答えることじゃないな。迎えだ。直接聞け」
 ターレスは言葉を切って顎を軽く上げ、改札の向こうに立っているトーマを指した。
「カカロット!! オレが悪かった」
「トーマっ、そ、そんな大声でっ。すぐそっち戻るからっ」
 周囲の人間が目に入っていないのかと思う、怒鳴らんばかりの声に目を見張り、カカロットは赤い顔でトーマを制した。

「……ラブラブって奴じゃないか」
 振り向いたカカロットを楽しげに見下ろし、ターレスはあまり似つかわしくないことを言った。
「ありがとう、って言った方がいいよな、いろいろ」
「おまえの唇を試せなくて残念だ」
 うそぶくターレスにハハっと引きつった笑顔を返し、カカロットはトーマのいる方へ歩きかけたが、すぐに足を止めた。
「なぁ、ターレス」
「何だ?」
「ターレスでも、……恋が逃げていったこと、あるのか?」
「さぁな。捕まえる努力を諦めた相手ならいるが」
「そう、なんだ」
「これ以上聞いても仕方のない話だ、早く言ってやれ。じゃないと、そのうちあいつはオレがおまえを口説いてると思い込む」
「うん。じゃあ、また」
「ああ」
 カカロットはペコリと頭を下げると、気が気ではない様子で立っているトーマの元へと駈け出した。




日付変わっちゃうから、ここまで><
・・・・・ってか、タレさんメインみたいになったもうた;;;すいません。






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