姿勢が悪いのです(タレカカ妄想付)

2014.09.26.Friday


 通学路から一本外れた細い通りの一角にある小さな古本屋は、カカロットが生まれる前から外装も一切変えずに営業している。巷にある大型チェーン店とは違い、たった5つの本棚しかない。中にはとうに絶版になった稀少価値のある本も混ざっているらしいが、本は読み手が価値を決めるものだという店主の方針で、選びやすいジャンル別に並べられていた。

 今時の高校生にしては読書家のカカロットは、ここには何度も来ていた。ただ、今日はいつもの立ち読みが目あてではなく、待ち合わせ場所に選んで来ていたから、純粋に本を楽しむのではないことに少し罪悪感を覚えていた。背表紙が少し日焼けした文庫本を適当に選び、中身があまり頭に入ってこないまま活字を追う。
 煙草のヤニで薄く黄ばんだ壁に駆けられた鳩時計を何度も見ていると、カカロットの後ろでカラカラと音を立て店の引き戸が開いた。

「お待たせ」
 本を手にしたまま振り向いたカカロットに少し大人びた笑顔を見せたのは、同じ学校の二年先輩のターレス。
「あ、今来たとこだから」
 カカロットは慌てて棚に本を戻すと、店の奥のパイプ椅子で買い取った本の状態をチェックしている店主を気にしながら答えた。
「ふーん?」
「な、何?」
「……別に。行くぞ」
 からかうように片眉を上げたターレスに、自分の些細な嘘が見抜かれたのかと思うと、カカロットの顔に熱が集まってくる。だが、自分達以外誰もいない小さな本屋でこれ以上会話を続けるわけにはいかない。カカロットは気を効かせてこちらを見ようとはしない店主に軽く頭を下げ、既に店の外に出ているターレスを追った。

「今日はどこに行くんですか?」
「別にあてはないなぁ。何かしたいことがあるのか?」
 ターレスに問い返されてしまい、言葉に詰まる。
「オレも、別に……先輩と……」
「カカロット」
 言葉の途中でいなされ、あ、と短く声を上げる。
「ターレスといられるなら、どこでもいいから」
 学校では先輩後輩の間柄だから敬語は当たり前だが、外で会う時は必要ないと言われていたのを思いだし、小さく息を吐いて言い直す。途中から恥ずかしくなってどんどん声が小さくなったが、ターレスはそれさえも楽しんでいるようだ。
 照れた時の癖で金髪をかき上げたカカロットの頬にターレスの浅黒い手が触れ、緊張を解すように二度ペチペチと叩かれた。
 要するに二人は恋人同士なのだが、同性に恋心を抱いたのがまるっきり初めてのカカロットとは対照的に、ターレスは既に同性しか恋愛対象にならない自身の性癖を自覚していた。
 しかも、まだ十代なら普通は同性愛をオープンにしようなどと思わないものだろうが、ターレスは以前かなり年上の男と付き合っていたせいもあるのか、二人でいる時もカカロットが戸惑うほど堂々としていた。
 もっとも、おおっぴらにしたくないというカカロットの気持ちは尊重してくれていたから、公共の場で必要以上のスキンシップを求めるようなこともなかったのだが、その余裕がかえってターレスの昔の男の影響を感じさせ、時々口に出来ない嫉妬を感じてしまうのも事実だ。

「どうした? ぼーっとして」
「あ、何でもない」
 考えても仕方のない思考にはまりかけていたカカロットは、無理矢理笑顔を作って答えた。
「家に来るか?」
「ターレスの家?」
「ああ。オレは独り暮らしだから、好きなことが出来るぞ」
「え?」
「何に期待したんだ?」
 ククっと笑ったターレスの悪戯な笑みを見て、カカロットの顔が取り繕えず真っ赤になってしまう。
「べっ、別に、オレっ」
 羞恥の反動で怒りを滲ませた青い目でターレスを見返すと、いさめるように軽く肩を叩かれた。
「……冗談だ。ただ、おまえがこの前から言いたくても言えないことを今日こそ聞きたいから、やっぱり家に来い」
「何の、話しだよ」
 全てを見透かすような黒い瞳を直視できず、引きつりながら言葉だけ返す。だが、本当に同じ高校生なのかと思いたくなるほど余裕のある笑みを浮かべ、ターレスは周囲に誰もいないのを確認し、カカロットの肩を抱いた。
「オレが誰のもので、おまえが誰のものか教えてやるよ。……不安なんか感じる余裕なくなるくらいな」
「――っ、ターレス」
 耳元で響く、まだあどけなさも残した少し低い声が背筋を這い降りるような錯覚を覚え、思わず身体を硬くする。ターレスはカカロットの反応を見て楽しげに笑い、左手でカカロットの右手を握った。
「こっちだ」
「え!?」
「オレん家に行くって言っただろ」
「オ、オレっ、行くって言ってないじゃないか」
 カカロットは手を握って強引に歩き出したターレスの背中に抗議したが、ターレスはちらっと振り返っただけだった。
「言わなくても連れていく」
 つないだ手を離そうとしないターレスの答えを聞き、カカロットは羞恥だけではなく、胸の奥がこそばゆいような感触を味わっていた。




・・・・・てめぇの日記はSS冒頭集か!とそろそろ自分でもつっこみたいっ。ナンデヤ(o´Д`)っ)'Д`o)ネン

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