好きだっ(タレカカ妄想付)

2014.09.03.Wednesday


 4時間以上ぶっ続けでディスプレイを見続け、いい加減頭の芯が痺れるような感覚に陥ってくる。
 だが、今手を止めるわけにはいかない。
 溜め息を吐く間も惜しいとばかりにグッと唇を噛み、疲労を滲ませてなお端正な顔で独自に開発されたアプリケーションにひたすらデータを入力していく。青い目を上下に動かし、一通り確認してEnterボタンを押すと、いつの間にか後ろに立っていたターレスがカカロットの肩に手を置いた。
「……疲れただろう?」
「いえ、あの、大丈夫です」
 尋ねたターレスの方が自分の倍以上の速さで破損したデータを入力していたことは分かっている。カカロットは少し充血した目を誤魔化すように二、三度瞬きし、首を左右に振った。
「無理するな。もうおまえの持っていた分は終わっている。それも気づかないくらい集中してくれてたったことだな」
「え? あ、ほんとだ……。すいません」
「謝ることじゃない。手伝ってくれて本当に助かった」
 フッと笑みを浮かべたターレスの表情は見たことがないほど優しく見えた。夏の間、データ入力のアルバイトで雇われた大学生のカカロットに残業をしてまで手伝わせるというのは、完璧主義らしいターレスらしくない。
 それだけ大切なだけでなく、至急性のあるなデータだったということだろう。
 焼失したのはターレスのせいでもカカロットのせいでもなかったが、まだまだ発展途上の小さな会社のこと。週末近くは出張で出払っている社員が多く、トラブルはその場にいて動ける人間が解決するのが暗黙の了解になっていた。
 
 今朝、いつもどおりに出勤したカカロットが、自分の担当作業に入ろうとした直前、他のアルバイトが入力したはずのデータが見つからないことに気づいた。
 夏の間のアルバイトで雇われているカカロットは、当然トラブルに気づいたら社員に相談するしかない。席を立ってぐるりとオフィスを見渡すと、昨日出張から帰ったはずなのに自分よりも早く来ていたターレスという社員以外誰もいない。恐らく他の社員たちが出払う予定で、そうせざるを得なかったのだろう。
 もっとも、それでなくてもターレスは会社に泊まっているんじゃないかと疑いたくなるほど仕事熱心で、朝はほとんど一番乗り、帰りも残業が日常茶飯事だ。
 カカロットたちがアルバイトに雇われた時、初日の研修をしてくれたのもターレスなのだから、本当ならもっと気軽に相談や話が出来ていいはずなのだが、とにかく仕事にしか興味がないと言わんばかりの様子で、まだ大学生のアルバイト組からは少々敬遠されがちだった。

 だが、今は相手を選んでいるような状況ではない。
 カカロットは当然のように既に仕事を始めているターレスに近づき、ゴクっと唾を飲んでから口を開いた。
「あの」
「少し待ってくれ」
 パソコンから目を離さず答えたターレスのぶっきら棒な返答に気圧され、無言で頷く。
 実質十秒も待たされていないのだが、カカロットには果てしなく長い時間に思えていた。
「悪かった。どうかしたのか?」
「あ、あのっ」
 データ入力でもしながら話を聞かれると思っていたら、意外なことにターレスは仕事の手を止めて椅子ごとカカロットの方に身体を向けている。決して優しい顔つきと言うわけではなかったが、きちんと話を聞く体勢で真っ直ぐ自分を見上げているターレスの視線を受け止め、カカロットはしどろもどろになっていた。
「なんだ?」
 何事か起こったことだけは察したのか、ターレスの表情が少し険しくなる。
「あ、勘違い……かもしれないんですけど、昨日までのデータが消えてるみたいで……」
「何?」
 数回呼吸を繰り返し、極力冷静な声で説明すると、ターレスは眉間の皺を深くして立ち上がった。
「見せてもらうぞ?」
「あ、はい」
 断りを入れてカカロットのパソコンを覗き込んでいるターレスの隣から自分も画面を見つめながら、これがただの初歩的な勘違いだったらどうしようかと、カカロットの心臓が五月蠅く跳ねる。ターレスは何度か画面を切り替えたり、管理者画面に移行したりして状況を確認していたが、やがて無言で片手を額にあてた。
「ターレス、さん?」
「……おまえの言うとおりだ。ここ一週間ほどだのデータが全て消えている。ご丁寧にバックアップからもな」
 苦い溜め息を吐いたターレスは、努めて静かな声を出しているように見えた。
「じゃ、じゃあ、すぐ入れ直します!」
「そうするしかない。……カカロット」
「はい?」
「気づいてくれて助かった。最悪、徹夜でもすれば何とかなるから、おまえもとにかく定時までは集中してくれ」
「そんな! オレも最後まで手伝います。今日、皆さん出張とかですよね?」
「ああ。……だが、中途半端な時間じゃないと思うぞ?」
「いいです。ちゃんと残業代でますよね?」
 殊更冗談めかして聞くと、ターレスはフッと笑みを浮かべ、カカロットの髪を大きな手でクシャッと潰した。
「もちろんだ。今夜中に終わらせられたら、今度お礼に飯でもおごる」
「じゃ、頑張ります!!」
 張り切って返事をしたカカロットは、初めて見るターレスの笑顔と手の温もりに鼓動が益々早くなるのを感じて、頬が引きつるのを感じていた。

 結局、作業が終わったのは日付が変わるまで15分と言う時刻になっていた。
 労ってくれたターレスと言葉を交わしていると、いつの間に用意したのか、不意に目の前に缶ビールが差し出された。
 マジックでも見せられたようにポカンとしていると、ターレスは目でカカロットを促し、ビールを受け取らせる。
「特別だ」
「あ、ありがとうございます」
「隣いいか?」
「はい!」
 椅子を引きながら問うターレスに大きく頷いて答え、カカロットは渡された缶ビールのプルタブを持ち上げた。
「お疲れさん」
「あ、はい。ありがとうございます」
 先にビールを空け、缶を傾けて待っていたターレスに答えて缶を軽くぶつけ合う。
 よく冷えたビールが喉を通る心地よさもさることながら、カカロットは目の前で浅黒い喉を上下させてビールを飲み下す男を意識せずにいられなかった。
「明日は週末なのに、デートのキャンセルさせたんじゃないか?」
 一気に半分ほどは煽ったのではないかと思う勢いでビールを飲んでいたターレスに、思いがけないことを問われ、むせ返りそうになる。カカロットは片手をブンブン振って、彼女なんていないと答えた。
「そうなのか? 女の見る目がないのか、いや、どっちかというと高嶺の華なんだろうな、おまえは」
「へ?」
「モテるだろうが、声はかけにくそうだ」
「そんなことない、です。……っていうか、オレ、ターレスさんが恋愛話しするなんて思ってもいませんでした。案外デートでは、女の子のご機嫌とってあげたりする……とか?」
 色恋の話題とはいえ、大人らしくサラリと話すターレスに倣って自分もと思ったが、聞きたくもないことを聞いているように胸がチクチク痛む。話すたび募る不快感の意味が分からず、益々混乱するばかりだ。
「そんな風に見えるのか?」
「あ、ううん、……ターレスさんも、仕事ばかりじゃなかったら絶対モテ、ますよね」
「さぁな。この会社を大きくすること以外興味があまりなかったし、……どちらかというと」
「――んっ、っ、っ!?」
 デスクに缶ビールを置く音がしたかと思うと、ターレスの顔がグッと近づいてきて大きな手で後頭部を支えられた。何ごとか分からず目を見開いたカカロットの唇が言葉もなくターレスの唇で塞がれ、驚いている間に舌が滑り込んでくる。
 突然の出来事でパニックしていながらも、跳ね退けたいと言う気は全く起こらず、なすがままにキスを受け入れていたカカロットは、唇が離れた時、座っていた回転椅子からずり落ちてしまった。

「……悪かった」
「あ、あの……っ」
「ご機嫌をとるくらいなら強引にものにする方だと言いたかったんだ」
「そ、それって、っ」
 子供だと思ってからかわれているだけだ。
 問い質そうとしてすぐカカロットの頭に当然の答えが浮かび、グッと言葉を飲み込む。
 ターレスはほとんど表情を変えることなくカカロットを見下ろし、無言で手を伸ばした。
「……仕事の妨げになるならパートナーはいらないと思っている」
「そう、ですよね」
「だが、誰かに惹かれる時は理屈じゃないのかもしれないということを久しぶりに思い出したな」
「そんな相手がいたんだ?」
 敬語を忘れ、思わずターレスの話の意図とは少しずれた答えを返してしまい、カカロットはハッと息を飲んだ。
「……すいません。詮索したかったわけじゃない、です」
「いや、不快だったのなら謝るのはオレの方だ」
「――嫌、じゃなかったから、困って……る」
「ふぅん?」
 俯いて答えたカカロットはからかうような相槌を聞いても顔を上げられずにいた。
「まぁ、今すぐ答えは……出せないだろうな」
「……オレが? それとも……んっ、っ」
 戸惑いながら顔を上げたカカロットが訊き終えないうちに、ターレスはもう一度カカロットにキスをした。



ちゅーとはんぱー。
ある意味実況的に書いたのでご容赦を(;´▽`A``
誤字とか色々酷いかもですが、今日はもう寝ます><

00:13|comment(0)

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