怖かった(;´▽`A``

2014.08.03.Sunday



「止みそうもないな」
 コーヒーカップを差し出しながらターレスが後ろから声をかけると、カカロットはゆっくり振り返った。
「そうだね。ちょっと雨宿りさせてもらうつもりだったのに、まさかこんなことになってるなんて。ごめん。疲れてるだろうし、オレのことは気にしないで寝てくれていいよ、ターレス」
 金色の眉を下げて困り顔を見せたカカロットに肩をすくめてみせ、ターレスはソファに腰を下ろした。
「疲れてるのはおまえも同じだろ?」
「そうだけど。オレが上がり込まなければ、今頃ターレスは夢の中だと思って」
 目で促したターレスに素直に従い、カカロットはターレスの隣に座って濃い目に淹れられたコーヒーを一口飲んだ。

 昨夜、スタートから二人で携わってきた研究が実験の最終段階を迎えていた。
 どうしても気になるから会社で夜を明かすというカカロットにターレスも付き合うことにし、お互いに眠気覚ましに他愛のない話を夜通ししていた。
 残念ながら実験の結果は二人が望んだものではなかったが、方向性は間違っていないと確かめられただけ良かったと納得し合い、会社の近くにあるファーストフード店で一緒に朝食を済ませたのだが……
 お互い何度も欠伸をしつつ、食事を終えて店を出て数歩も歩かないうちに叩きつけるような雨が降り出した。
 慌てて傍のビルの駐車スペースに駆けこんだが、空を覆う墨色の雲は益々広がっているように見える。二人に気づいた駐車場の管理人が一本だけならあるからと貸してくれたビニール傘を手にターレスとカカロットは顔を見合わせた。
「オレの家で雨宿りするか?」
「え?」
「――ここから近いんだ」
「ああ、歩ける距離だって言ってたね。でも……」
 あまり自分のプライベートに他人を踏み込ませない印象のターレスが意外な提案をしたことに驚き、カカロットは返事を躊躇った。
「別に予定があるわけでもないなら、止むまでいればいい」
 ここ半年、同じプロジェクトで始終顔をつきあわせていたし、昨夜はお互いに普段しないような話までしていたから、少し距離が縮まったのだろうか。まだ迷っているカカロットを一瞥し、ターレスはもう決定事項だと言わんばかりにビニール傘を開くと、カカロットの方に半分差し出した。
「ありがとう。……じゃ、お言葉に甘えるよ」
「ああ」
 大股に一歩踏み出したターレスについて行きながら、否応なく肩が触れ合うたび、少し気恥ずかしくなった。だが、至ってクールなターレスの横顔を盗み見る限り、ソワソワしているのは自分だけらしい。カカロットは訳もなく込み上げてきた溜め息を噛み殺し、ターレスのマンションに着くまで、黙ってまだほとんど人通りのない道を歩いていった。
「大したことないと思っていたが、酷そうだな」
「そうみたいだね。オレの住んである辺り、水がくるかも。ま、マンションだからあまり関係ないけど」
 テレビをつけたターレスの言葉に頷き、局地的な集中豪雨を伝えるアナウンサーの声をぼんやりと聞く。
「……疲れてるだろう?」
「へ?」
 不意に問われ、思わず間抜けた声で答えたカカロットを見ようとはせず、ターレスはテレビに視線を向けたまま口を開いた。
「明日、別に予定がなら泊まっていけ。このソファはベッドになるからな」
「でも、急に迷惑じゃない?」
 意外な申し出に驚きを隠せないままカカロット問い返すと、ターレスはカカロットにチラりと目を向けた。
「別に。互い寝不足なのは間違いないだろうから、遠慮するな。――酷い顔してるぞ」
「――っ」
「何だ?」
 浅黒い手をカカロットの頬にあて、顔を覗き込んだターレスは、カカロットが息を飲むのに気づいて眉をひそめた
「なっ、何でもない! オレ、そんな酷い顔してる?」
 間近で見た黒い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えたなどと言えるはずもない。カカロットは慌ててターレスから目を逸らし、自身の顔をそっと撫でた。
「ああ。会社にいるおまえのファンが見たらがっかりするだろうな、そんな濃いクマ作ってたら」
 楽しげにそう言ったターレスをチラッと見返すと、疲れを覗かせていながらも見たことがないほど穏やかな顔をしていた。
「ファンなんていないよ」
「まぁ、おまえのレベルだと易々と声はかけづらいかもしれないな」
「ターレスだって、人気あるだろ」
「さぁな。オレは女に興味がないから」
 クスッと笑って答えたターレスの表情を見ていると、妙にはぐらかされた気がしてして、ムッとしてしまった。カカロットの表情の変化に気づいたのか、ターレスは気を逸らすように自身のコーヒーを飲み干した。
「――女に興味ないって、相手に困ってないだけだろ?」「聞いてどうするんだ?」
 質問に質問で返され、益々苛立ってしまった。カカロットは自分でも何をムキになっているんだと思いつつ、オレが質問したんだけどと言った。
「確かに。……言葉通りの意味だ。オレは女には興味がない」
 今度は少し冷やかに答えたターレスの念押しするような口調に違和感を覚え、カカロットは青い目を訝るように細めた。
「それって……」
「あんまり無防備に色んな表情を見せると、口説くぞ?」
「タ、ターレス!?」
「別に今日は下心があって呼んだ訳じゃない。安心して休んでいけ。シャワーも使いたいなら使っていいぞ。下着ならちょうど使ってないのがある」
 ようやく言葉の意味を理解したカカロットは、真っ赤になって素っ頓狂な声でターレスの名前を叫んだ。ターレスは少し苦い笑みを浮かべると、カカロットの頬をペチペチ叩いて距離を取った。
「安心しろ。いきなりノンケを襲うほどがっついちゃいない」
「オ、オレっ、そんなことはっ」
 しどろもどろになっているカカロットを黙って見ていたターレスは、カカロットの分のコーヒーカップも持ってソファから立ち上がる寸前、逆立った金髪に軽く唇を落とした。
「ターレス!?」
「タオルケットをとってきてやる。ゆっくり休め。オレは自分の部屋で寝させてもらうぞ」
 カカロットの驚きを意に介した様子もなく、ターレスは至って静かな口調でそう言うと、キッチンへ歩いていった。




あああ、もっと書きたかったんですが、カーソルが勝手に上に動くという悪条件なので、ここまでに。・゚・(ノД`)・゚・。
勝手に治ってくれることを祈るしかない・・・・な

21:19|comment(0)

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