愛情一本!(黒ちゃん妄想)

2014.07.17.Thursday



 午後6時を過ぎ、風が少し涼しくなり始めた。
 夕焼け空に夜が染み出すこの時間、悟空はクーラーの世話になるよりもむしろ網戸で過ごすのが好きだった。
 もっとも、そんな余裕があるのは今日が休日のせいだろう。
 昼間かいた汗をシャワーでざっと流し、タンクトップとショートパンツ姿でソファに座る。プロセスチーズをつまみに晩酌には少し早い時間から開けたビールを一口飲むこの瞬間、乾いた喉を通る刺激が堪らない。あまりお酒に強い方ではないから、週末だけこの一缶を時間をかけて飲む。
 10分もすれば微かに頬が染まり、吹き抜ける風が心地いい。
 借りてきた映画でも見ようかと思い、立ち上がりかけた時、静かな夜には全く似つかわしくない音が響き渡った。
 驚いたはずみにテーブルに置きかけていたビールをひっくり返してしまう。
 慌てて布巾を取りに行こうとしたが、隣の部屋と思われるところから聞こえてくる、明らかに何かを壊している音と怒鳴り声が一向に止まず、そっちに気を取られてしまった。聞こえるはずはないと分かっていても、何となく足音をひそめ、ベランダに続く窓へ近づく。
 耳をそばだててみたが、隣は窓を閉めているのか、何を言っているのかまでは分からなかった。

 声かけた方がいいんかな……

 何度もベランダの窓を開けかけては思いとどまり、迷った末に玄関へ向かう。
 音を立てないようにドアを開け、サンダル履きで隣の部屋のドアの前まで来たものの、インターフォンを押す決心はつかない。かといって、益々激しくなる言い争いの声と何かが砕けるような音を聞いていると、そのまま立ち去ることも出来ず、悟空は他にも誰か出て来ないかと無意味に辺りを窺っていたが、残念ながらこのフロアの住人はこの時間留守にしていることが多い。どっちにしても、まだ引っ越してきて二ヶ月足らずの悟空に相談できるような隣人もいないし、むしろ、今言い争っているらしい隣の住人とは交流がある方だ。
 とは言っても、偶然共有スペースや通路で会った時に挨拶した程度で、男二人暮らし、なおかつ恋人同士であろう関係こと以外何も知らない。それもつっこんで聞いたからではなく、別に隠す気もないのか、二人が手を繋いだり腕を組んでいるのを見たというだけのことだ。一週間前には、自分のフロアに着いたエレベーターを降りた直後、目の前で外国映画でしか見たことないような濃厚なキスを交わしていて、思わずおかしな声を上げ、何故か悟空の方が笑われる羽目になってしまった。
 どちらも悟空には穏やかでそつのない態度をとってくれるのだが、どうやらそこそこ激しい性格らしく、言い争い自体は何度か聞こえてきたことがあった。特に青い瞳と金髪が印象的な男は――パートナーからカカロットと呼ばれていた、絵に描いたような綺麗な顔立ちとは裏腹に、なかなか気性が激しいらしく、一度などは夜中に部屋を飛び出し、廊下で捕まえられて大声で叫んでいたほどだ。

 ……それにしても普通じゃねぇよなぁ。
 争う声だけなら、大人同士のこと。悟空もそこまで干渉するつもりはないが、隣の家だけ嵐でもきたのかと思うほど激しい物音がしているとなると、どうしても気になってしまう。
 よし!
 大きなお世話だと笑われることになってもいい。
 結論を出した悟空は、大きく息を吸い込むとインターフォンに指を伸ばした。

「うわぁ!?」
 今まさにボタンを押そうとした瞬間、ドアが中から開き、悟空の鼻先にぶつかりそうになる。驚いて後ろに仰け反った拍子に尻もちをついてしまった。
「――ごめんっ」
 飛び出してきたのはカカロットだった。
 西洋人形を連想させる白い肌を紅潮させ、青い目を怒らせていたが、悟空に気づいて慌てて詫びた。だが、倒れている悟空に手を貸すことはなく、自分の部屋を一睨みすると、そのまま勢いよく非常階段へ駈け出していってしまった。
「痛ってぇ……」
 コンクリートの床にしたたかに打ちつけたお尻をさすりながら立ち上がり、痛みに顔を歪める。あのタイミングならドアの顔面直撃を免れただけよしとしなければいけないだろう。
 気を取り直して開けっ放しのドアからそっと中の様子を窺って見る。
 廊下の突き当たりにはリビングに続くドアがあるはずだが、それも開けっ放しで、はっきりは見えないものの家具や物が散乱しているようだ。 
 大丈夫かな……
 明らかに激昂していたカカロットの様子と荒れた家の中がオーバーラップし、悟空の胸に不安が広がる。いや、ただの痴話喧嘩に決まっている。ドラマのような出来事が簡単に起こる訳じゃない、馬鹿馬鹿しいと打ち消す一方で、生来お人好しで、困っている人間を放っておけない悟空の良心は、今見捨てて中で大ごとになっていたらどうするんだと攻め立てた。

「ご、ごめんください……」
 恐る恐る声をかけるが、部屋はシンと静まり返っている。
 中で怪我でもして倒れているのだろうか。
 単なる勘違いで笑われるとしても、やはり様子を見た方がいいに決まっている。
「上がらせてもらいます」
 悟空はもう一度大声で呼びかけてから、来客用と思われるスリッパを履いて、床に飛び散ったガラスや陶器と思しき欠片を踏まないように奥へ歩き出した。




はい、とりあえず今日のところの公開はここまでで(;´▽`A``
支部等にサンプル上げるとしたら、その時はもう少し先まで……

これじゃ全然分からないっすね、すいません(笑)
金さんのお相手は誰なのか??(ここは丸わかりな気もする/笑)黒ちゃんに何が起こるのか……続きはたぶん夏に(笑)結構ドロドロしたシーンもあるかもです。

 

22:40|comment(0)

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