寝る・・・・はずなんだ(タレカカ妄想)

2014.06.28.Saturday


「痛っ!!」
 突然甲高い子どもの悲鳴が響き、路上に座り込んでいた男たちの何人かが一寸顔を上げ、またすぐに無気力な目を自身の足元に落とす。
「離せっ、離せ――っ!!」
 スラム街には不似合いなスーツ姿の男に襟首を掴まれ、それでも、逃げようとして暴れている少年は、この辺りでは珍しくない身寄りのない子どもたちの一人だろう。あと数ヶ月もすれば身体に合わなくなるであろうチェックのショートパンツに、これもサイズの合っていない薄汚れたシャツ。少年は彼の世話をする者がいないことを如実に物語る格好をしていた。
 名前はカカロット。
 外見から判断して、6、7歳だろうが、正確なことは誰も分からない。歳に似あわぬ空虚な目をすると、妙に大人びて見えることもある。
 物心ついた時には既に路上が彼の住み処だった。うっかり紛れ込んだ観光客から金品を奪ったり、表通りの店から食べ物を奪ってその日暮らしをしてきた。だが、このところ国の取り締まりが厳しくなり、仲間の少年たちが一人、また一人と、児童保護施設に連れ去れ、もう顔見知りはほとんどいなくなってしまった。
 ひったくりも常習だったカカロットは、いつもターゲット選びに失敗したことはない。ただ、仲間がいなくなったせいでろくなものを食べておらず、ここ数日は誰でもいいから金を奪うということしか考えられなくなっていた。
 そんな時、明らかに場違いな男が通りに入ってきたのを見て、子ネズミのような素早さで駆け寄ったのだが……
 気づいた時には既に遅く、首根っこを掴まれ、叫び声を上げている間に後ろから太い腕を首にかけられ身体を持ち上げられた。
 地面に届かない足をばたつかせ、必死に抵抗するも、大人の男の力に勝てるはずもない。叫んだところで誰も無関心なのはカカロットにも嫌というほど分かっていた。

「――勝算のある相手か見極めずに行動すると、命を落とすぞ?」
 驚くほど冷静な男の声には、勝ち誇った調子もなければ、怒りも感じられない。
 ただ、まだ幼いカカロットは、男の言ったことを全て理解できなかったにも関わらず、完全に自分が相手を見誤ったと思い知らされた。
 ――殺される
 飢え以外で、初めて本気で死を意識した直後、男はカカロットを地面に下ろし、顔を隠すため目深にかぶっていたハンチングハットを奪った。
「名前は?」
 表面が毛羽立っているハンチングを適当な場所に放り投げながら、男が抑揚のない声で問いかける。
「え?」
 驚きのあまり答えられず、呆然としているカカロットを見下ろし、男は帽子の下から表れた金色の髪を片手で掴んで、早く答えろと冷やかに言った。
「カ、カカロット……」
 何度か声を出そうとして失敗した後、ようやく震える声で名乗る。
 拘束は解かれているにも関わらず、他を圧する独特の雰囲気を持つ男と対峙していると、逃げる気力も湧いてこない。
 左手の親指と人差し指を顎にあて、思案するというよりも値踏みするような目で見つめられ、益々落ち着かない気持ちになる。額をつたい落ちる冷や汗が顎まで流れた時、男はカカロットを軽々と持ち上げ、身体をくの字に折って肩に担ぎ上げた。
「何するんだ!! 警察なんてっ、行かないからな!! 離せっ」
 絶叫しながらバタつかせた足や手が男の背中を胸を打ったが、一向に気にした様子はない。5分ほど歩いて大通りの手前までくると、男は濃いグリーンのオープンカーに近づいた。
「カカロット」
「な、何だよ!?」
 半ば縛り付けるようにして助手席に座らされ、この先どうなるか分からない不安にさいなまれていたカカロットは、反動で怒鳴るように答えた。
「今日からおまえはオレの家で暮らすんだ」
「え?」
「――不自由はさせない。まあ、オレを見ればそれは分かるだろう?」
「い、嫌だっ。それくらいならここで殺……」
「安心しろ。幼児趣味はない。おまえに楽しませてもらわなきゃならんほど相手には困ってないからな」
 真っ青になったカカロットを見て男がシニカルに笑う。
「じゃあ、どうして……だよ」
「――醜いアヒルか、磨けば光る宝石か。いずれにしても成長が楽しみだ」
「聞いてるのか!?」
 はぐらかすような答えを聞いたカカロットが助手席から身を乗り出そうとしたところを、男は片手で制した。
「滅多な動きはするな。オレに危害を加えようとしたら、ガキでもただじゃすまんからな」
「何だよ、誰もいないだろ?」
「丸見えではボディガードにならない。――こんな派手な車をこの通りに停めておいて盗難どころか傷一つない。……ガキの世界には知れ渡っていなくても、オレがどういう人間か、想像つかないか?」
「……何も教えられなきゃ、分かる訳ないだろ」
「ターレスだ」
「え?」
「オレを知りたいなら、まずそこからだろう。――カカロット、これは質問じゃない。おまえはオレの家で暮らすんだ」
「……ターレス」
「何だ?」
「どうせ、飽きたら追い出すんだろ?」
 俯いて拳を握り、尋ねるカカロットの声は震えていた。
 ターレスと名乗った男は眉一つ動かさずその様子を見ていたが、カカロットの顎に手を添えて顔を上げさせた。
「……おまえに必要とされることの意味を教えてやる」
 
 ――恐らくおまえもオレに教えてくれるだろうからな。

 口にしない真意を幼いカカロットが図れるはずもなく、ただ、ターレスの答えにコクリと頷いた。
 ターレスがそれ以上何も言わずに車のエンジンをかけると、二人は家に着くまでどちらも口をきくことなく、埃っぽい街を吹き抜ける風を感じながら、突然の出会いをそれぞれの思い出受け止めていた。





・・・・・意味不。
いや、こんな出会いから、どんどんタレに惹かれていく少年金さんと、最初から運命感じてたタレさんがいいな、いいな、とかそんなこんな。

01:06|comment(2)

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