ライバルはしゅーぞーで(タレカカ妄想付)
2014.06.22.Sunday
【Vacation】
真っ青な空を映した白いプールの底を滑るように泳いでいたカカロットは、真ん中までくると、水面から顔を出し、気持ちよさそうに太陽を見上げた。
裕に三十メートル四方はある広いプールは、それだけでも十分贅沢だが、海とひと繋がりなっているのかと錯覚させるように、目の前にはプライベートビーチの水平線が広がっている。
夏の陽射しを受けて輝く金髪を両手で後頭部へかき上げ、プールの正面に置かれた真っ白なベンチで本を片手に寛いでいる男に目を向ける。子どものように高く上げた手を大きく左右に振って合図をすると、ちょうど脇の小さなテーブルに用意されたマティーニに手を伸ばして本から視線を外していた男は、カカロットに気づいてカクテルグラスを掲げた。
「ターレスも泳がない!?」
壁際まで泳いできたカカロットがプールの縁にかけた両腕に顎を乗せて問いかける。
ターレスは後でなと言って、再び本に目を落とした。カカロットは一瞬つまらなそうに口を尖らせたものの、気を取り直してまた広いプールの中をのびやかに泳ぎ始めた。
カカロットはまだ物心ついたばかりの頃、複雑な事情を経てターレスに引き取られてからずっと、ターレスの庇護の下で暮らしてきた。プライベートではとっくにターレスのパートナーとして扱われているが、来年からは仕事でも、ターレスの手助けをすることになっている。これからは仕事絡みで顔を合わせる時間は今より増えるかもしれないが、二人きりでプライベートを楽しむ時間は減ってしまうかもしれない。
この週末はその前に休暇をとりたいと言ったカカロットにターレスが忙しい時間を調整してくれたものだ。
「目一杯楽しまなきゃ」
笑顔でひとりごちたカカロットは、プールから上がると、ターレスに近づいて行った。
「ターレス、こっち来て」
「なんだ?」
「いいから!」
カカロットはショートパンツタイプの水着の上に真っ白なシャツを羽織っているターレスの腕を引き、強引に立ち上がらせた。
「な、ここからの眺め最高だろ?」
プールの縁に並んで立ち、空と海の青が溶けあう景色を指差す。
「ああ、悪くないな」
「明日は海でも泳ごうかな。あっ、BBQもしたい!」
子どものように目を輝かせているカカロットを見下ろし、ターレスは小さく笑った。
「おまえのしたいことをすればいい。用意させといてやる」
「ありがとう。じゃあさ、もう一つ聞いてくれよ、ターレス」
「何だ?」
「一緒に泳ごう!」
「おい!?」
飛び込みざまのカカロットにいきなり腕を掴んで引っ張られ、さすがのターレスも驚きの声を上げた。そのまま水に落ちてしまったターレスは、片手で額に貼りついた髪をかき上げると、隣で大笑いしているカカロットの頭を抱え込むようにして金髪を片手で掻き回した。
「まったく、びしょ濡れじゃないか」
上半身に貼りついてくるシャツを水の中で少々苦労して脱ぎ終えたターレスが、もう一度カカロットの頭をコツンと叩く。だが、水に濡れたカカロットの白い肌と空の色にも負けない鮮やかなブルーの瞳を間近で見るのも、悪いものではなかった。
「一緒に泳ぐんだからいいだろ。あっちまで競争! 今夜は勝った方が負けた方の言うこと聞く!」
「おい、カカロッ……」
「スタート!」
驚くターレスを振り返ってウィンクして見せ、カカロットが大きく水を掻いて泳ぎ出す。ターレスは一寸面食らったものの、ニヤっと笑うと、大きく息を吸い込んでプールの底を蹴った。
「ハァッ、ハァッ、ッ。有りっ、得……ないっ、あそこから追い付く……とかっ」
数分後。
プールの壁に背中をつけ、天を仰いだカカロットは苦しげに息を切らせながら言った。
「――まだ、そう体力は落ちてないぞ。夜も満足させてるだろう」
からかうように答えたターレスが軽く腕を引くと、逆らわずにターレスの浅黒い胸に身体を預けてくる。
「そりゃそうだけど……あーぁ、今回は出しぬいたと思ったのになぁ」
心底悔しがっているカカロットの額にキスをし、ターレスは昼間明るい太陽の下では独特の光を帯びる目でカカロットの青い目を見つめた。
「分かってる! 賭けはオレの負け。何でもターレスの言うこと聞くよ」
「そうか。なら、夕食の時間を楽しみにしてろ」
「うん……」
何かしら無茶な要求をされるとばかり思っていたカカロットは、不思議そうに頷いた。
「オレは先に家に入っているからな。シャワーを使いたい」
「あ、うん。もう少しだけ泳いだら、オレも」
「そうしろ。あまり日に当たり過ぎると、また赤くなって痛くなるぞ」
「日焼けできたら、ターレスみたいになれそうなのになぁ」
「――オレのは地黒だ。それに、おまえはそのままがいい」
ターレスは苦笑いしてカカロットの目元に軽くキスをし、銀色のバーを掴んでプールを出た。
カカロットは背の高い後姿を見送ってから、満足そうな笑顔を浮かべ、今度は青の世界に入り込むようにゆったりと泳ぎ始めた。
特に絡みらしい絡みもない件。
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