照れる(笑)(タレカカ妄想付)

2014.06.17.Tuesday


「おい!? 大丈夫か?? おい!!」
 耳元で響く大きな声に反応して何とか瞼を持ち上げた。
 目の前に薄い膜が張られているような視界に映る男に見覚えはない。分かるのは、自分が連日の寝不足のせいで、白昼往来の真ん中で倒れたということだけだ。
「こ、れ……」
「え? オイ、何だよ、これ? あ、くそっ!!」
 金髪の青年を抱き起して声をかけていた男は、気を失ってしまったと分かると、思わず毒づいた。
「ターレス、あまり揺するな。頭を打ってたら危ない。今、救急車を呼んだから」
「ああ……。悪い」
 土工仲間の声掛けで落ち着きを取り戻したターレスのすぐ傍に食べ始めたばかりのコンビニ弁当が投げ出されている。朝から暑い日に黙々とこなした床付け工事がようやく一段落し、街に待った昼休みを堪能するところだったと言うのに……。
 片膝をついた格好で青年を支えたまま、他にどうすることもできず、往来を行き交う人の好奇の目にいい加減うんざりして視線を落とす。ターレスの腕の中、苦しげな呼吸を繰り返し、眉根を寄せている青年は、見るからにブルーカラーとは最も縁遠い、眉目秀麗と言う言葉がピッタリだった。
「お、来たな」
 さっき声をかけてきた同じ現場の土工が救急車に気づき、誘導のために歩道の端まで出ていく。ほどなくしてサイレンを鳴らしながら近づいてきた救急車は、まだ意識を取り戻さない青年を手際よく担架に乗せ、ターレスに倒れた時の状況を二、三質問してから救急病院に向かった。

「しまった!!」
「どうしたんだ?」
 何となく救急車を見送り、残りわずかになった昼休みを使ってもう一度コンビニで何か買ってこようかと考えていた時、ターレスは不意に自分が持っているものに気づいて大声を上げた。
「これ、さっきの奴のだ。何か書類みたいな……どうすりゃいいんだ」
 先に朝食を終えていたさっきの作業仲間が、ターレスの声に驚いて目を丸くする。ターレスは隣の男の目の前に茶封筒を突き出し、心底うんざりした様子で溜め息を吐いた。
「ああ。警察に届ければ……」
「そこの派出所ならこのまえ親方が怒鳴り込んだばかりだ」
「そうだったな。ちょっと見せてみろ」
 変わり者だと評判のターレスと一番仲良く付き合っているその男は、放っておくことができずに大判の茶封筒を覗き込んだ。
「株式会社S.I.Y?何だすぐそこのビルじゃないか」
「そうみたいだな。でも、そこの社員とは限らないだろう?」
「それもそうか。違ってたら勝手に渡すとまずいだろうな」
「ああ」
 二人して途方にくれていると、いきなり後ろで聞き慣れた着信音が鳴り始める。
 慌てて近づき適当に放り出してあった自分のスマートフォンを手にしたターレスは、見慣れない番号を訝りつつ画面のロックを解除した。

「もしもし? ああ、ええ。はい。ええ!?」
「ど、どうした?」
 素っ頓狂なターレスの声に隣でまだ茶封筒を観察していた同僚が飛び上がる。ターレスも答える余裕がないのか、でも、とか、いや、それはと必死で訴えていたが、やがて諦めたように分かりましたと答えた。
「……大丈夫か?」
 ただならぬ様子を心配してターレスの顔を覗き込んでいた男の問いに首を振り、大きく溜め息を吐く。ターレスはそのまま何も言わずにまだ休憩の輪の中にいる親方の方へ歩いていった。


「――ったく、図々しいよな、ほんとに」
 数十分後。
 ターレスは作業現場から車で30分ほどかかる救急病院の病室にいた。
 受付で名前を名乗っても、すぐには用件を理解してもらえず、救急隊員に呼び出されたのだと根気強く説明した。自分をここに読んだ救急隊員がロビーまで降りてきて、何とか納得してもらうまでにさらに20分も要したのだ。
 用がないならオレは帰るだけだと怒鳴りたいのを必死で堪え、とにかく倒れた男に今、手に持っている書類を渡す唯一の手段だと自分に言い聞かせ、ひたすら同じことを説明し続けた。
 その後、やっと病院側に状況が理解され、倒れた男の病室だという場所まで案内されたのだが、そこでようやく自分が呼ばれた訳も説明された。
 要するに身元が判明するようなものを何も持ち合わせてなかったから、小さな手がかりでもいいから見つけたかったらしい。手元の茶封筒のことを考えると、あながち救急隊員の推測は外れていない。ターレスは茶封筒の入手経緯を説明した上で、青年とは全くの初対面だと強調した。
「とりあえずこの封筒の会社に連絡をとってもらいましょうか」
 のんびり話す医師の提案にそうしてくださいと適当な相槌を打つと、医師は急ぐでもなく病室を出て行った。ターレスはしばらく迷っていたが、特に待っている理由もないだろうと、ベッド脇の丸椅子から立ち上がった。
 すると、その時、まるで図ったようなタイミングで目の前のベッドで寝ていた青年が目を開けた。
「……っ」
「お、おい。大丈夫か? 医者もすぐ戻るから」
「あの、……あな、たは」
「オレの目の前で倒れたおまえのせいで日給が半分になりそうな男だ」
「ご、ごめん!!」
 ターレスの皮肉なものいいに、青年は決まり悪そうに胸のあたりまで被せられていた掛布団を両手で引き上げた。
「冗談だ。――今日は暑かったからな。オレと違って繊細な身体だろうし、無茶するなよ?」
「はい」
 短く答えた青年の目は、印象的な青を殺すような鈍い光りが映っている。
 ターレスは一寸迷ったものの、やはりここで余計なことはいう必要はないだろうと思い、じゃあオレはこれでと言った。
「あのっ、ありがとうございました。オレ、カカロットです!」
「はあ」
「……お名前、あの工事現場にまたいますか? 退院したらお礼とお詫びに……」
 立ち去ろうとするターレスの背中に、青年が思いの外、はっきりした口調で声をかけてくる。ターレスはあからさまに不思議そうな顔で青年を見つめ返し、少し迷ってから口を開いた。
「日雇いだから、仕事場はいつも違う」
 名前は答えずに、自分の格好からすぐに推測されるであろう情報だけ与える。
「あのっ、じゃ、いる現場探しに行って……」
「そこまでしなくてもいいだろう。おかしな奴だな」
 眉をひそめたターレスを見て、カカロットと名乗った青年はさっと頬を染めた。
「すいません。ほんとに……。でも、あなたが拾ってくれた封筒、ほんとに大切なものだったので」
「ん〜、じゃあ、元気になったら一度焼肉おごれ」
「え?」
「お礼したいんだろ? お詫びはいらない」
「あ、わかりましたっ」
「――敬語も勘弁してくれ。さっきカルテが見えたけど、同い年だ」
 苦笑いしたターレスの言葉にカカロットは気恥ずかしそうに頷き、ベッドの脇にある可動式のテーブルを引き寄せ、何かを書いた。
「オレのアドレス……」
「ああ。後で送っておく」
「あのっ、名前はっ」
「……ターレスだ」
 不自然なまでに必死なカカロットを束の間黙って見ていたが、ターレスは結局好奇心に負けて名乗った。
「ターレス、ありがとう」
「ああ、またな」
 自分の返事に驚きつつ、ターレスはカカロットに背を向けたまま片手を上げて答えると、そのまま病室を出て行った。



・・・・・タレカカとか言えるほど絡んでない(゚∀゚ ;)タラー


 


 

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