ネムムムム(トマ空妄想付)

2014.06.15.Sunday


 クラクションの音を聞いたトーマは、慌てて吸い始めたばかりの煙草を灰皿に押し付けた。溜まった吸い殻を捨てる時に軽く水で流していたせいで、赤い先端を潰した瞬間、煙草がジュっと音を立てる。
 戸締まりをして玄関先に停められた車に近づいてみると、運転席で悟空が満面の笑みで手を振っていた。若葉マークにはぴったりな中古の軽自動車でも、初めて自分で車を持つ喜びはよくわかる。トーマも自然に笑顔になり、片手を上げて悟空に応え、助手席に回り込んだ。
「どこに連れていってくれるんだ?」
「近ぇけど、海水浴場。まだ、オラ、初心者だからあんま遠くまで行ってなんかあったらトーマに迷惑かけるし」
 へへっと照れ臭そうに笑った悟空がギアをドライブに入れようとした手に手を重ね、トーマは目を丸くしている相手を軽く眉を下げて見つめた。
「どっちかというと運転に慣れるまでは遠出に付き合わせてくれ。それこそ一人で行ってるかと思うと気が気じゃない」
「う、うんっ。あ、あのさっ、BBQの用意もしてきたんだ。スーパー寄って肉いっぱい買っていこ!」
 恥ずかしさを隠しきれず赤くなり、悟空は早口に言った。
「野菜も食えよ」
「分かってるってば。さっきから子供扱いすんなよ」
 あからさまに不機嫌そうに口を尖らせた悟空を見て、トーマは苦笑いを噛み殺し、悟空の黒髪をクシャクシャと撫でた。
「オレが悪かった。機嫌直せ。……それに、いくら免許とったと言っても、おまえはほんの三ヶ月前まで高校生だったんだぞ。オレから見たらまだ色々心配なんだ」
「分かってる」
 まだ納得しきってはいない様子ながら渋々頷き、悟空は隠すことなく溜め息を吐いてからギアを動かした。


 何事もなく無事に海に着いた時には、ちょうどお昼時になっていた。
 BBQセットや買ってきた食材を下ろし、悟空がビーチサンダルに履き替えるのを待って、一緒に海岸へ降りていく。青と緑が混ざりあったように見える透明度の高い海は人気の海水浴スポットで、既に家族連れや大学生とおぼしきグループで賑わっていた。
「トーマ、こっちこっち」
「お、いいところを見つけたな」
 先に場所を確認してくると言って走り出した悟空が、運よく開いていた木陰から大声でトーマを手招きする。出発の時の不機嫌さを少しも感じさせない無邪気な笑顔に笑顔で手を振り返し、トーマは両手に荷物を全て抱えて歩き出した。

「二人だからこのくれぇの広さでいいよな?」
「ああ、十分だろ」
 既にレジャーシートを広げて待っていた悟空の問いに頷き、BBQコンロをセットする。トーマは炭を袋から取り出している間に悟空は野菜や肉の準備を始めようと、クーラーボックスの上に小さなまな板を置いた。
「なぁ、トーマ」
「ん?」
 炭をおこすのに集中していたトーマは、悟空の方を見ずに答えた。
「……明日も休みって言ってたよな」
「ああ」
「あ、あのさっ、どっかっ、泊まってかねぇか? オ、オラも明日大学休みだしっ、家にもいってあっからっ」
「は?」
 あまりに唐突な提案にトーマは思わず間抜けな声で答えてしまった。
 悟空は耳まで赤くなってトーマに近づき、視線を上げずにトーマの太い腕に手をかけた。
「オラじゃ、相手になんねぇかな……」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
「じゃあどういう問題?」
 項垂れて問う悟空を見ているとむげにすぐのが躊躇われてしまう。だからといって……
「それなりの場所で二人きりになって理性的でいられる自信はない」
 トーマはため息交じりにそう答えると、悟空の頭をポンと叩いた。
「……大事にすると言いたいが、怖しそうでなぁ。もう少しゆっくり進まないか? オレはおまえを物足りないなんて思ったことはないから、信じろ、な?」
「うん。ごめん」
「ホテルに誘ってるくせにそんなに震えてる奴を据え膳だって連れ込めるか」
 トーマは明るい声でそういうと、悟空の肩にそっと手を乗せ、身体を屈めてキスをした。
「へへ」
 夏の海をバックに嬉しそうに笑った悟空の笑顔に一瞬ドキっとし、やせ我慢をしなければよかったかと後悔しかけた。
「ほら、肉だ、肉!」
 トーマは殊更明るい声でそういうと、ゆっくり燃え始めた炭火を確認して焼き網をセットした。


大して変わんないですが、まぁ、、この二人はスローペースに。それこそ、step by stepでトーマさんが色々教えてあげるといいなぁ(*´∇`*) 

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