気がつけば(*´∇`*)(カカ空妄想付)
2014.06.13.Friday
【Rely on Me,Rely on You】
「お待たせいたしました。どうぞ」
軽く頭を下げ、左右に開いた扉を片手で指し示した案内係の指示に従い、16階まで直通のエレベーターに乗り込む。
まだ出来て半年も経っていないファッションビルは、有名デパートが入っているだけでなく、美術館やカフェも併設されている。中でも一番の目玉は最上階の展望台だ。
週末の夜や休日には多くの人が訪れ、展望台の当日券は販売されないこともあるようだが、今日はまだ月曜日。列に並んでいたのもカカロットと悟空の他は若いカップルが一組と、一人旅らしい男、仲の良さそうな老夫婦だけだった。
「うわぁ、すごい!カカ、こっちは全部ガラスだぞ」
「あ、ああ」
真正面の壁が全面ガラスで出来たエレベーターを見て悟空が目を輝かせる。
上昇し始める前にいい場所をとろうとばかりにガラスに駆けよった悟空についてエレベーターに乗り込んだカカロットは、足元からゾワゾワと何かが這い上がってくる感覚にゴクリと唾を飲んだ。
「カカ、ここ!」
「あ、いいよ、オレはこっちで。他の人もいるし」
手招きする悟空に何とか笑顔を返したものの、これから一気に十六階までエレベーターが上昇することを想像し、血の気が引いていく。ギュッと握った片手を悟空に見られないように背中に回し、ガラス面ではない壁に背をつけて立つ。一緒に景色を楽しもうと思っていた悟空は少し口を尖らせた。
だが、幸いにして悟空がもう一度カカロットを誘う前に、最後にエレベータに乗ってきた老夫婦が、カカロットの言葉を素直に気遣いと解釈して会釈してくれた。悟空はまだ諦めきれない様子でカカロットを見ていたが、エレベーターが昇り始めると、ガラスに両手をつけて視線を窓の外に向けた。
エレベータ―は予想外の速さで上昇し、ガラス越しにどんどん遠くなっていく地面を見る悟空は、高くなるにつれて目を輝かせている。カカロットは正直ガラスの壁から一番遠い場所まで後ずさりしたくなるのを何とか堪え、十六階に到着した時にはほぉっと安堵の息を吐いた。
「うわっ、すごい! カカ、こっち!!」
エレベーターを降りてみると、左手には一つ上の階のバールとカフェに続くエスカレーターがあり、右手は最上階の展望台へ向かうエレベーターがある。だが、悟空が歓声を上げている理由はそのどちらでもなく、真正面に広がるビルの中とは思えない緑に溢れたスペースだった。
「なっ、行ってみよう?」
「いいよ」
いつどうなるかも分からないくせに高速で動く閉ざされた箱と違って、開放感のあるスペースならカカロットもさほど抵抗はない。もっとも、周囲を壁に囲まれているならという条件付きだが……。
悟空は見るからにウキウキした様子で、庭園に続くガラスの扉を押し、カカロットを手招きした。
「カカ、あっちのベンチに行こう」
四方がぐるりとガラス張りになっている庭園スペースは、目の前に広がる景色を眺められるように壁に沿って白い大理石のベンチがいくつも並べられてる。
正直壁際に近づくのは気が進まなかったが、ここで拒否すれば、さっきのエレベーターでの出来事も怪しまれるかもしれない。座っているのなら真下さえ見なければ大丈夫だろう。カカロットは引きつりそうになる笑顔を片手で金髪をかきあげながら誤魔化し、悟空と並んで歩き出した。
「すごい眺めだよな、カカ!」
「うん」
「だって、オラ達、三十分くれぇ前まであんな低いとこにいたんだぞ」
「ああ、ほんとすごいな」
カカロットは無愛想に聞こえないよう気を遣いながら極力短く答え、無言で真横にある悟空の手を握った。
「カ、カカ?」
前触れのない行為に目を丸くし、調子はずれな声を上げた悟空の顔がみるみるうちに赤くなっていく。カカロットは、口の中でもごもごと何か言っている悟空に顔を近づけ、
「誰も見てないよ」と囁いた。
「うん」
それでもまだ恥ずかしそうではあったが、悟空はカカロットの手を握り直すと、赤い顔を上げた。
「カカ、そろそろ最上階行こっか?」
「あ、う、うん。あ、でも、せっかくカフェもあるし、寄って行かないか? オレ、お腹空いたし、そのっ、展望台はもう少し暗くなってからの方が……」
「あ、そっか。夜景が観れるもんな!」
「うん」
ホッと胸を撫で下ろす代わりに悟空の手握った手に力を籠め、極力前を見ないようにして立ち上がる。
「吹き抜けだから気持ちいいよなぁ」
手を繋いだまま歩き出してすぐ、悟空の何気ない言葉で自分も顔を上げたカカロットは、解放された天井から見えるビルの高さにぎょっとした。
……無理だ。
六十階、地上三百メートル。
どちらも言葉にしてしまえば現実味がないせいで大したことだと思っていなかったが、今、自分のいる場所と比べた途端、生々しい恐怖を感じてしまう。
カカロットはピタリと足を止めると、不思議そうに振り返った悟空をジッと見つめた。
「カカ、どうかしたんか?」
「あ、あの、な、悟空っ」
「ん?」
「オレ、実は小さい時から、高いところが全然っダメなんだ」
ギュッと目を閉じ、一気にまくしたてるように言い終えたカカロットは、悟空の反応がないことに気づいて恐る恐る目を開けた。
「悟空?」
「あ、ああ。ごめん。意外だったから驚いちまって。そういや、オラ達、あんまり高いとこ行ったことってなかっけ?」
「ああ……何だかんだ理由つけて避けるようにしてたから」
苦笑いしてそう答えると、悟空はぷっと噴き出した。
「先に行ってくれればいいのに」
「ごめん。見栄張ったんだ。かっこ悪いとこ見せたくなくて」
眉を下げて詫びると、悟空は左右それぞれの手でカカロットの手を握り、二人の間でギュッと合わせた。
「オラがいるっても役に立たねぇかな?」
「え?」
「もし、カカがエレベーター怖ければ、ずっと手ぇ握っとくし。どっちかちゅうと上がる時が怖ぇんだろ?」
「うーん、まぁ、そうかな。着けば真下さえ見なきゃ平気だと思う」
「じゃ、行こう! オラといれば大丈夫だって! な?」
「……分かったよ」
熱心に訴える悟空の黒髪をクシャッと撫で、カカロットは人差し指で目の下をポリポリかいた。
「じゃ、お茶飲んだら上がろうな!」
「あんまり上がるって意識させないでくれると有難いな」
「そんなにダメなんかぁ。へへっ。でも、これで一つはオラがカカの力になれること出来たかな」
嬉しそうに笑った悟空を無言で抱き寄せ、カカロットは驚いて反射的に引きかけた身体を両腕に閉じ込めた。
「前言撤回しないとこのまま」
「カ、カカ?」
「他に悟空がオレを助けてることないと思ってるの?」
「え、だって、オラ別に……カカみてぇに」
「あーあ、駄目だな、オレ」
カカロットは悟空を抱き締めたまま、わざと大きく溜め息お吐いた。
「え? 何が? カカは駄目なんてことねぇよ」
「だって、恋人にそんな言い方させるってことは、オレが引け目を感じさせてるってことだろ?」
「ち、違うってば!! オラっ、その……まだ、ちょっと信じらんねぇから、カカが……オラの、ここここ……」
「恋人」
クスッと笑って言葉を引き取ったカカロットの腕の中で、悟空はコクリと頷いた。
「信じられないっていうならオレの方だよ、悟空。――いつも、悟空といる時間は空でも飛んでる気分なんだから」
「高いところ苦手なのにか?」
珍しく少し悪戯な言葉を返した悟空の髪を撫で、カカロットは顔を傾けて耳にキスをした。
「意地悪言うと、ここでキスするよ、悟空」
「わ、分かった。ごめん!」
カカロットは火を噴きそうなほど赤くなった悟空を見て明るい声で笑い、素早く触れるだけのキスをした。
「行こうか?」
「うん」
一瞬、黙って見つめ合った二人は、寄り添って歩き出した。
「……聞いてたか?」
悟空とカカロットが庭園スペースを出ようとしている時、さっきまで二人がいた場所のすぐ近くに座っていた男の一人がからかうように言った。
「分かった! 行けばいいんだろ!!」
片眉を上げ、どうするんだとばかりにニヤニヤしている男の隣で、少し長めの髪を後ろでひとまとめにしている男が勢いよく答えて立ち上がる。ああ、もうっとどこに向けているのかも分からない言葉を口にし、短い前髪をガシガシかいている男を見上げ、明らかに面白がっている男は長い足を組み直した。
「安心しろよ、トーマ。……オレもおまえが怖がらなくて済むようにずっと手を握っててやるからなぁ」
「五月蠅いぞ、ターレス!」
「はいはい。さ、行くぞ。さっきの可愛いカップルと一緒のエレベーターになったら、お互い気まずいだろうからな」
ターレスと呼ばれた男は自分もベンチから立ち上がると、トーマに向けて手を差し出した。
「繋ぐわけないだろ?」
トーマはハァっと溜め息を吐き、呆れ顔でターレスを睨みつけた。
「……ま、確かに。オレ達は大人らしく、スキンシップはベッドまでとっておくか」
「そういうことはもう少し小さい声で言えっ」
こともなげに言ったターレスの肘を掴んで人の少ない方まで引っ張っていきながら、トーマはごくごく小さな声でたしなめた。
「ったく、注文が多いな」
ターレスは楽しげにそう言うと、既に出口に向かっているトーマの後についてゆっくり歩き出した。
吹き抜けの天井から吹き込んできた風は、二組の恋人たちを見送った木々の葉をからかうように揺らしていった。
end
・・・・・ここに上げるのは基本見直しも何にもしない、勢いのみ(*´∇`*)
最後は蛇足気味ですが、やはりうちのサイトの記念ってことで、萌オールスターズですw
ここまで付き合って下さった海のように心の広い皆様、これからもよろしくお願いします!!
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