すいません・・・・

2014.06.12.Thursday


 舗装されていない道をガタガタと跳ねながら進むバスに揺られ続けて2時間。
 狭い椅子から解放され、降り立った停留所の丸い標識は、すっかり錆びて地名の一部が欠けて見えなくなっている。

 カカロットとトーマがいわゆる恋人同士になってまだ1ヶ月。
 このところ多忙だったトーマが、ようやくまとまった休暇をとれることになり、二人で旅行に行くことにした。田舎がいいと言う意外なカカロットの申し出に沿って選んだ行先はトーマの生まれ故郷。嫌がられるかもしれないと不安を感じつつ提案した時のカカロットの顔は忘れられない。
「……いい、の?」
「いや、いいも何も……。最近はバンガローとかいうのか。まぁ、とにかくちょっとくらいは洒落た宿泊施設も出来たみたいだが、とにかく田舎だし、食いもんと酒が上手いくらいであとは何もないけど、田舎に……というのなら、オレが多少案内してやれるところがいいかと思ってな。オレも帰るのは三年ぶりだ。いや、オレのことはどうでもいいんだが、その、もちろん、おまえがよけれ……ば、だが」
 青い目を大きく見開き、食い入るようにトーマを見つめているカカロットから目が逸らせず、どんどん早口になりながら説明する。全部聞き終えるまで黙っていたカカロットは、花のような笑顔を見せた。
「もちろん、行きたいっ!」
「じゃ、じゃあ、決まりだな」
 何故カカロットがここまで熱心に同意してくれたのかさっぱり分からなかったが、嬉しそうなことだけは間違いない。それなら、自分も素直に受けとめていればいいだろう。トーマはせめて現地で退屈させないようにしなければと内心密かに決意を固めていた。


 それから一週間。
 無事に休暇をもぎとったトーマは、カカロットと二人、飛行機に乗っていた。
 着陸近くに窓から見える景色は、ほとんどが田んぼや畑ばかりで、正直不安になってくる。生粋の都会育ちで、まだ若いパートナーにはあまりにも刺激がなさすぎるのではないだろうか。まさかここまでと思われていたら……。
 そんなことばかり考えていたせいで、降車ボタンを押した後、トーマはカカロットにここだとだけ告げて無言でバスを降りてしまった。

「大丈夫?」
 何となくバスを見送っていたトーマを、カカロットが両膝に手をあてて少し身体を屈め、下から覗き込んでいる。
「ん?」
 トーマは慌てて笑顔を作り、問い返した。
「ううん。なんかずっと静かだったから、疲れたのかなと思って」
 カカロットは心配そうにそう言うと、形のいい眉を八の字に下げた。
「いや、大丈夫だ。……その、正直言うと、田舎がいいとは言ってたが、あまりにも田舎過ぎておまえが驚いているんじゃないかと思って」
「いい意味での驚きしかないよ。それに……」
 穏やかな笑顔を浮かべて言葉を切ったカカロットは、両手を大きく広げて気持ちよさそうに伸びをした。
「あーっ、最高! 空気がご馳走ってこういうことを言うのかなぁ」
 言葉どおり肺いっぱいに吸い込んだ空気を存分に味わい、カカロットはクルっとトーマに向き直った。
「あ、ああ。そうだな。確かに気持ちいい」
「トーマが生まれたところって言うの分かる気がする」
「ま、まぁ、面白いものも特にな……」
「そういう意味じゃないよ。まだ、傍にいられるようになってからはたった一ヶ月だけど、トーマといると幸せなんだ。今、深呼吸した時みたいに、全身で喜び感じられるみたいで」
「そ、そりゃっ、その、……オレの方が幸せに決まってるだろ」
 数ヶ月前までは、カカロットがこんな風に笑うところを想像出来なかった。
 心のどこかで惹かれてはいけないと言い聞かせ、距離をとろうとすればするほど耐え難いほどお互いを求めるようになっていた。
 結果、大切にしていた人間を裏切り、周囲の人間も巻き込んでしまったが、罪悪感こそあれ、後悔はない。30年近く生きてきて初めて、何を犠牲にしても傍に起きたいと願った存在がカカロットだった。

「トーマ?」
「あ、すまん」
 不思議そうに首を傾げているカカロットに呼ばれて我に返り、少し引きつった笑顔を返す。
「……まだ、痛む?」
 さっきとは打って変わって少し辛そうに眉を寄せたカカロットは、トーマの胸に手をあてた。
「ん? 何だ?」
 別にどこも怪我をしていなければ、もちろん心臓が悪いわけでもない。
 訳が分からずきょとんとしていると、カカロットはトーマの広い胸に身体をあずけ、両手をふわりと背中に回した。
「心が、だよ。トーマは優しいから。オレが出会ったりしなけりゃ、何年か先には誰かのいいお父さんしてたかも」
「馬鹿だな」
「ほんとだね。今さら言っても仕方ないのに」
「カカロット?」
 トーマから身体を離し、珍しく自嘲気味に笑ったカカロットの金髪に手を伸ばそうとしたが、カカロットはトーマの手をすり抜け、いきなり走り出した。
「おいっ、転ぶなよ」
 足元に置いてあった荷物を一瞬気にしたものの、周囲には人も車も全く見当たらない。
 トーマはフッと眉を下げて笑い、カカロットが走り出した丘に向かってゆっくり歩き出した。まだ丘のてっぺんまでは辿り着かないうちにおもむろに振り返ったカカロットは、トーマに向かって大きく手を振って見せた。
「――よ〜っ!! トーマ!」
「ん? 何だ――!?」
 ちょうど吹いてきた強い風がカカロットの声をさらい、聞き取ることができない。
 軽く丸めた両手を口の前にあて、大声で問い返したが、カカロットは何も言わずに一気に丘を下ってトーマの方に駆けてきた。

「うおっ!?」
 当然目の前まで来たら止まるだろうと思っていたトーマの予想は外れ、両手を広げたカカロットが軽々とジャンプし、幼い子どものようにトーマに飛びついてくる。
 驚きのあまり素っ頓狂な声を出しながらも、トーマは何とかカカロットを受け止め、椅子代わりに腰の下を手で支えてやってからバランスをとり直した。
「受け止めてって言っただろ?」
「聞こえなかったんだ。――まったく、人に見られたらどうするんだ」
「誰もいないよ」
 カカロットは両足をトーマの腰の後ろでしっかり組み合わせ、悪戯な笑みで答えると、トーマの肩に顔をうずめるようにして抱きついた。
「おまえでも、こんなにはしゃぐんだな」
「……幸せ噛みしめてるから」
「そうか」
 照れくささが先に立ち、上手く答えてやれない。
 もどかしく思いつつ、顔を少しずらして真横にあるカカロットの耳にキスをした。
「トーマ……」
 その時、不意に真剣な声がトーマの耳元で響いたかと思うと、カカロットがトーマに支えられた体勢のまま顔を上げる。
「どうした?」
 鼻先にあるカカロットの青い目が少しだけ悲しげに見え、トーマは静かに問い質した。
「……こんなところまで、来させてごめん」
 両手をトーマの首に添え、ごく短いキスをしたカカロットが唇を離す寸前、ポツリと呟く。
「何を言ってるんだ?」
「オレが出会って、……トーマの人生を変えちゃったから」
「変化は悪いことばかりじゃない。そうだろう?」
「うん」
 短く答え、ホッと息を吐いたカカロットの深い青色の瞳の奥に涙が滲んでいるように見え、トーマは小さな声で馬鹿だなというと、カカロットを地面に下ろし、しっかり抱き締めた。
「――確かに、おまえとオレがここにいるために、色んな人間を巻き込んで、傷つけもした」
「うん」
「それでも、オレはおまえを選んだし、おまえも……そうだと思っていいんだろう?」
「当たり前だよ」
「なら、罪悪感ばかりに押しつぶされて、謝り合ってばかりなんておかしいと思わないか?」
「うん。トーマ……」
「愛してる。もう離さないぞ、カカロット」
「――ずるいよ、オレが言おうと思ったのに」
「そりゃ仕方ないだろ。オレの方が惚れてるんだからな」
 ムッと口を尖らせたカカロットにキスをし、トーマは気恥ずかしそうに笑ってそう言った。
「オレだって負けてないよ、トーマ。……今夜、ベッドで教えるから」
「そ、そうかっ」
「プッ」
「まったくっ、からかうなっ」
「先言われたお返し」
 カカロットは軽くウィンクしてそう言うと、トーマの手を握った。

「とりあえず行くか? 泊まるのはもう少し先のバンガローを借りているから、オレの実家に寄って車を借りて行こう」
「へ? トーマの?」
「ああ。うちは親は若い時に死んでしまっていないんだが、家自体はオレが就職して村を出てからも従兄弟が住んでいるから、ちゃんと残っているんだ」
「でも……」
「おまえはオレのパートナーだろ? 堂々としてろ。ま、そいつも変わり者だ。細かいことを気にするような奴じゃない」
「うん。……嬉しいよ」
「オレの方が、な」
 トーマはカカロットを安心させるように繋いだ手に力を込めると、荷物を残してきたバス停に向かって歩き出した。





・・・・なんじゃこりゃ<●><●>
すいませんでした、なんかほんとにもう!!!
>>誰に言うてるww

23:03|comment(0)

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