好きだー( 」´0`)」!

2014.06.08.Sunday



「ここでいい」
 運転手に短く指示を出し、小さな通りに入る手前で車を止める。
 黒塗りのセダンは学生の多いこの街にはアンバランス過ぎる。通りを行き交う学生たちは、暫し自分たちの話しを止め、皆降りてくる人間に注目していた。
 
「ちょっと、見た?」
「うん! すごいかっこいい!! 絶対お金持ちだよね」
「そりゃそうでしょ。あの車だもん!」
 恐らく一番近いカレッジの生徒だろう。
 本屋の前に立っていた女三人は車から降りた背の高い男を隠すことなく目で追い、ひそひそ話というには大きすぎる声で噂した。
 だが、声に出して騒ぎ立てなくても、周囲の視線を気にすることなく歩く男に注目していたのは彼女たちだけではない。経済関係の雑誌や新聞に精通している学生がいれば、男が誰かは一目で分かっただろうが、素性を知らなくても独特のオーラには人を引きつける何かがあった。

「……あそこか」
 呆れたような呟きは男の他、誰も聞こえていない。
 カフェや古本屋が立ち並ぶ狭い通りをスーツ姿で歩く男は、ここでも注目の的だったが、意に介することなく、一軒のオープンカフェに向かっていく。男はベージュと緑と白がバランスよく並んだストライプのオーニングの下にある席で、アフタヌーンティーのスタンドに並んだスイーツやサンドイッチとガラスのカップに入った紅茶をのんびり楽しんでいる青年の向かいの椅子を引くと、ふぅっと小さく息を吐いた。
「ターレス、早かったな」
 文庫本から顔を上げた青年の名はカカロット。
 絵に描いたような綺麗な顔立ちは返って話しかけづらい雰囲気を漂わせていたが、目の前の男を見た途端、青い目を嬉しそうに細め、意外なほど人懐っこい笑顔になった。
「……今からランチに行くんじゃないのか?」
「そうだよ?」
 カカロットは不思議そうに首を傾げ、ターレスと呼んだ男の問いに応えた。
「……食事の前によくそんな甘いものが食べられるな」
 注文を取りに来た店員にエスプレッソを頼み、ターレスはポケットから煙草を取り出した。
「ターレスと違って若いから」
 悪戯に笑うとカカロットの青い瞳は益々魅力を増すようで、さっきからほとんど表情を変えなかったターレスの目に少し柔らかな笑みが浮かんだ。
「口だけはどんどん達者になるな。まぁ、それでおまえが機嫌よくいられるのならいくらでも食えばいい。だが、少し急げ、カカロット。次の仕事までそう時間がない。まぁ、のんびりしたいのならここで時間を使ってもいいけどな」
「ううん。すぐ食べるよ」
 カカロットはテーブルの上に置いていた文庫本を鞄にしまい、ホイップクリームのたっぷりかかったスコーンを口に押し込んだ。
「そこまで慌てなくてもいい。……おまえのためなら、取引相手の方を待たせてやる」
「ふ、ふひ、ほんないひはは……」
「食べてから離せ」
 呆れ顔で短く笑ったターレスは人差し指を軽く曲げてカカロットに近づけると、口の端についていた生クリームを関節でふき取った。
「……こんな甘いものよく食べられるな」
「こっちも美味しいよ?」
 ターレスの反応を明らかに面白がっているカカロットは、フォークで小さなケーキの欠片をすくい、ターレスの目の前に差し出した。
「勘弁しろ」
 苦笑いしてエスプレッソを口にしたターレスを可笑しそうに見つめ、カカロットはぱくりとケーキを食べた。
「……ターレスって普通の煙草も似合うんだな」
「そんなもんか? まぁ、別に見た目で選んでいるわけじゃない」
「分かってるよ。でも、何しても様になる」
 素直な賛辞に照れる様子もなく、ターレスはいたってクールに受け流す。だが、カカロットもそんなことには慣れっこだった。
「ターレス、時間あとどのくらいあるの?」
 三段に重なったアフタヌーンティースタンドを空にしたカカロットが、ミルクティーの残りを飲み干し、カフェの時計に目を向ける。ターレスはチラっと自分の時計を確認すると、1時間ちょっとだなと答えた。
「お腹空いてるよね?」
 カカロットは伝票を手に立ち上がったターレスを、青い目にほんの少しある意味を持たせて椅子に座ったまま見上げた。
「……何だ?」
「久しぶりに顔見たら、食事よりしたいことが出来た」
 視線を合わせたまま立ち上がったカカロットの手がターレスの腕に触れ、今度はさっきよりもハッキリと意志を伝える笑みを浮かべた。
「紳士的に振る舞ってやろうと思ったんだが、まぁ、おまえのために空けた時間だ。望みどおりのエスコートをしてやる」
 ターレスは笑みとも言えない程度に唇を引き上げ、カカロットの金髪を片手でかき上げると、周囲の注目にも構わず額にキスをした。
「少し待ってろ」
「うん」
 店の奥に向かうターレスの後姿を見送り、カカロットは額に残った唇の感触を確かめるようにゆっくりと髪をかき上げた。




……どちらも脳内ではめっちゃかっこいいはずだったのにぃぃぃ><;;;
タレ金さんはハードル高いよ。゚(PД`q。)゚。

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