朝ごはん

2012.12.21.Friday




「おっかしいなぁ〜」

辺りを見回し、首を傾げる。
閻魔の以来で地獄で暴れている輩を懲らしめに来たのだが、降り立った場所には戦う相手はおろか、人っこ一人いそうになかった。

聞き間違えたんかなと呟き、とりあえず適当に周囲を歩いてみる。大きな岩を回り込んだとき、なにかを蹴飛ばしてしまい、悟空はうわっと間抜けた声を上げた。

「……カカロット?」
「お、おめぇ、ターレスか!?」

寝転がるというよりは行き倒れかと思う場所で横たわっていた男は、かつて地球で瀕死の戦いをしたサイヤ人だ。一瞬暴れていたというのはターレスのことかとも思ったが、どう見ても今起きたばかりのようだし、何より何かに不満を持って暴れるような覇気が感じられなかった。

「ここで何をしてる?」

不意に問われ、初めて自分がターレスを凝視していたことに気づき、慌てて目を逸らした悟空は、起き上がったターレスに合わせて自分はその場に腰を下ろした。

「閻魔のおっちゃんに頼まれて地獄で暴れてる奴を懲らしめにきたんだ。でも、場所間違っちまったみてぇで……」
「ふぅん。……働いた証拠に悪党の首がいるのなら、オレのをくれてやるぞ」
「何言ってんだ、おめぇ。何にもしてねぇ奴にそんなことできっかよ」
「オレに恨みはあるだろう?」

平淡な声でそう言ったターレスを眉をひそめて見つめ、何か言おうとしたが、ひどく違和感を覚えてうまいことばが見つからなかった。暫くお互い何も言わずに見つめあっていたが、悟空は迷いながら口を開いた。

「おめぇ、消えてぇんか」
「……意外に洞察力があるな」
「どう……?」
「察しがいいな、と言ってるんだ」
「だっておめぇの気、抑えてるんじゃなくて、なんちゅうかすげぇヤル気ねぇ感じだから」
「オレはサイヤ人以外に生まれ変わるくらいなら、ここで一人でいる方がいい」

そう答えて皮肉に笑ったターレスの、口にしない思いがダイレクトに突き刺さってくるようで、悟空はかける言葉を見つけられないまま、目の前の男に両手を回した。

「なんだ?」
「わかんねぇ、けど」
「……おまえは温かいんだな。知っていたら、地球でもこうしていることを望んだかもしれない」
「ターレス、転生が嫌なら……オラ、閻魔のおっちゃんに頼んでやるよ」

自分でも何故そんなことを言っているのか分からなかった。ただ、抱き締められたまま、逆らうこともなければ抱き返してくるわけでもないターレスの、圧倒的な孤独を感じて、叶えてやることもできない約束を口にせずにはいられなかった。

いつの間にか、自分の方がすがり付くような力でターレスを抱き締めていると、ふと笑うような気が悟空の胸に流れ込んできた。

「ターレス?」
「おまえのいる星になら生まれ変わるのも悪くないな」

穏やかな声に目を丸くしていると、体を離したターレスの褐色の手が頬に触れ、唇が柔らかく塞がれた。

「ん……っ、ターレス?」
「時々顔を出してくれ。オレがここにいられるうちは……な」

真っ直ぐ自分を見つめるターレスの黒い瞳から視線を外せないまま、悟空は無言で頷いた。




ちょっとせつない〜( ;∀;)

08:58|comment(0)

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