Joyeux anniversaire de Saïya <3 (タレカカ)

2014.03.18.Tuesday

【Good morning with you】


 ようやく訪れた春に歓喜しているように、青い空に向かってツンと顔を上げ、小鳥たちが一斉に賑やかな声を響かせる。
 戦闘民族の惑星には不釣り合いな明るいさえずりで起こされたカカロットは、一つ大きく欠伸をしてから何気なく視線を落とし、息を飲んだ。
 心臓が止まるかと思うほど驚いた拍子に、ベッドから落ちてしまう。ブラインドの隙間から射し込んでいる柔らかな春の陽射しの中、気持ちよさそうに寝息を立てているターレスの存在をすっかり忘れていたから無理もない。

 忘れていたというよりは、夢だと思っていた……というべきか。

 何度も何度も窓を叩いていた音も、仕方なく眠い目をこすってベッドを出たことも、深夜の訪問を詫びるでもなくターレスが部屋に入ってきたのも、全て現実だったようだ。
 一連の出来事を呆気にとられて見ていたカカロットが弁解を求めても反応はなく、ターレスは、当たり前のようにベッドに一人分のスペースを空けて眠ってしまった。結局、カカロットも、張り切り過ぎたトレーニングのせいで酷く疲れていたから、唐突過ぎる訪問を夢だと解釈し、それ以上は何も考えずベッドに戻ったのだが……

 ここに来た時には間違いなく着ていたアンダースーツはいつの間にか脱いだらしく、改めて見直したターレスは、淡いブルーのブランケットから褐色の肩を覗かせている。
 一瞬、あのままターレスとことに及んだのだろうかと危ぶんだが、どう考えても自分の身体に行為の名残はない。ターレスはいつも眠る時、全裸に近い格好になるから、カカロットが寝入ってから一度起きて脱いでしまっただけだろう。
 カカロットは、暫く昨夜と同じようにターレスの背中を見つめていたが、小さく溜め息を吐いて肩に手をかけ、身を乗り出してターレスの顔を覗き込んだ。

「……っ」
「起きたんか?」
「ああ」
 意外にアッサリと肯定したターレスが起き上がるのを邪魔しないように身体を離したが、寝返りをうってカカロットの方に向き直っただけ。訝しげに眉を寄せたカカロットが口を開くよりも早く肘を掴まれて引き寄せられた。
「わっ!?」
「ああ、すまないな」
「ううん。ちょっとバランス崩しただけだ。どうかしたんか?」
「別に」
 折り重なるような格好でベッドに倒れ込んだカカロットが苦笑いすると、ターレスはこれまで見たことがないほど穏やかな笑みで、短く答えた。
「ターレス?」
 四六時中斜に構えているような男の思いがけない表情が、ふと、不吉なもののように思え、カカロットの声がさっきよりも低くなった。
 不安がらせていることを察したのか、ターレスは中途半端な体勢で横たわっているカカロットを抱き寄せ、自分と同じように八方に跳ねた黒髪にキスをした。
「なぁ、何かあったんか?」
「いや……」
「何もねぇって態度じゃねぇだろ。昨日だって急に来たのに、さっさと寝ちまうし」
 不満げに口を尖らせて追及しながらも、カカロットは内心、何を言われるか不安で仕方がなかった。
「くだらないことだ」
 気を逸らすような軽い口調に誤魔化されまいとターレスの瞳を真っ直ぐ見つめ、その奥に隠れた真意を探るべく、キュッと唇を噛む。あまりに真剣なカカロットの表情に毒気を抜かれたのか、ターレスは眉を下げて小さく笑った。
「何だよ」
「……本当にくだらないことだぞ?」
「いいから言えって!」
 焦れったそうに促すと、ターレスが怒るなと笑ってカカロットの頬を両手で挟んだ。
 互いの呼吸がぶつかるほどの至近距離で見つめ合っていると、知らず知らずのうちに鼓動が早くなっていく。頬に触れたターレスの指も少しひんやりしているから、緊張しているのはカカロットだけではないのかもしれない。

「今回の遠征は最悪だった」
「え?」
 サイヤ人下級戦士の中でも、カカロットや父親のバーダックに劣らず好戦的なターレスがこんなことを言うのを初めて聞いた。
 思いがけない言葉に目を丸くしていると、ターレスの顔にバツの悪そうな笑みが浮かんだ。
「ありとあらゆる通信手段を切られた中で、ひたすら持久戦を強いられたからな。ついて早々に特殊な電磁波でスカウターが使い物にならなくなってからは……、何がどうなっているのかもわからないが、とにかく星全体が完全な闇だった。星も太陽も、もちろん月も見えない。誰かの気配がしても、それが敵か味方かも分からない……。たまに遠くから断末魔の声が聞こえて、次はオレの番かと何度も覚悟を決めた」
「そんな、酷いところに……下級戦士だけで派遣されたんか?」
「ああ。別に嫌がらせじゃないと思うぜ。――単に情報が少なかったんだろう。泥しか食うものがない塹壕の中でどれだけいたのか……。さすがに狂うかと思ったな」
「そ、っか……」
 淡々とした口調がかえって生々しい恐怖を伝え、カカロットの顔から僅かに血の気が引く。
 ターレスは自分よりも一回り華奢な身体を逞しい腕の中にすっぽりと閉じ込め、温もりを確かめるように何度も背中を撫でた。
「まぁ、運よく生きて、任務も終えられた。オレの帰りたい気持ちの方が勝ったんだろうな。……いい土産話も手に入ったし」
「土産話?」
「それはまた今度だ。――とにかく、昨日はたとえベッドの中でも一人で眠る気になれなかった。説明もしなくて悪かったな。話しをする気にもなれなかったんだ。口を聞いたら目の前にいるおまえが消えて、またあの地獄に戻りそうで。随分と情けない話がな」
「ううん。……そんな日に、会いたい思ってくれたんが、オラだったなら嬉しいよ」
 カカロットは照れくさそうに答え、赤い顔をグッとターレスに近づけると、自ら唇を重ねた。
「珍しく積極的だな」
「タ、ターレスが、早く酷ぇ星のこと忘れられるんなら、その、オラ……、今日は、シテ欲しいこと、全部っ、し、してもいいっ」
「へぇ?」
 可笑しそうに唇を歪め、目を光らせたターレスを見つめ返し、カカロットはボソっと何かを言った。
「何だ?」
「何でも、ねぇっ」
 慌てて首を振るカカロットに問い質すことはせず、ターレスは耳元に唇を近づけ、低く、鼓膜を震わせるような甘い声で囁いた。
「そうか。……それじゃ、お言葉に甘えるか。手加減はしないからな」
「うん。あ、あのさ……」
 首筋をうなじに向けてゆっくり撫でるターレスの褐色の手の動きに早くも息を上げながら、カカロットはキュッと目を閉じ、行為が進むのを遮るように言った。
「どうした?」
「あり、がとな、ターレス」
「おかしな奴だな。礼を言うのはオレだろう」
「そうかもしんねぇけど、オラ、ここに来てくれたんが嬉しいんだ」
「……オレみたいなタイプはあまり甘やかさない方がいいぞ?」
 クッと喉の奥を鳴らして笑い、ターレスは言葉とは裏腹に愛しむような力を込めて、カカロットをもう一度抱きしめた。




end

甘い?かな?
どうも自分で書いた話しってやつは、自分で糖度を測れませんねぇ(;´・ω・)
「甘やかしてもらいます」と言いましたが、いつものようにカカさんを甘やかすんじゃなくて、今回はちょっと弱気な面を覗かせたタレを甘やかして欲しかったんです☆
ちょっと不安定なタレもまたよろし、ってことで。
……自作じゃないとこで見たいとか言うても始まらないから、これからも書きたくなったらタレさんを書くぞ!(笑)

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