ガッツリと・・・(タレカカ)

2014.03.09.Sunday


☆第一話「はじまりの音」☆

 
 『運命の出会い』

 人はこの言葉からどんな想像をするものだろう。
 ほとばしる幸福感、充足感。いや、戦闘民族なら、むしろ武者震いさせてくれる相手だろうか。

 だが、カカロットが出会った運命それは、そんな生易しいものではなかった。
 見つめ続けていれば、自分が自分でいられなくなりそうな深い闇色の瞳。魂を全て飲み込まれそうな存在感。近づくなと警鐘を鳴らす理性を嘲るように、ドクドクとやかましく心臓が鼓動する。
 
 それが、ターレスと出会った日、聞いた唯一の音だった。
 
 ただ、あの日、強いカリスマの類でターレスに引き寄せられたと思っていたのは、間違いだった。
 まだ若いカカロットには理解できていなかったし、理解できるだけの大人だったら、恐れをなして近づかなかっただろう。それほど、ターレスの不遜な態度と色香で隠した孤独は圧倒的だった。

 
 時刻は明け方近かった。
 トレーニングでカカロットに打ち負かされた悪友たちの悪戯で強くもない酒を飲まされ、気づいた時には店に一人残されていた。
 運よく一部始終を見ていた父親の友人の口添えもあって、勘定は後日割り勘でそこにいたメンバー全員に請求されることになったものの、決して気分はよくない。もっとも、こんな悪戯は日常茶飯事で、戦闘力は同じ年代の下級戦士の中では頭一つ出ていたが、それに相反するように性格は良く言えば素直、もっとはっきり言えば単純明快だったから、カカロットをかつぐことは容易かった。
 怒りを持続させない性格も災いしたのかもしれない。
 カカロットは酔いが回ってほとんど働いていない思考のまま、何とかその場を収めてくれた父の友人に礼を言うと、迷惑そうな酒場の主人の視線に追い立てられるように、一人まだ肌寒い初春の夜へ出て行った。

「……っ、覚えとけよ!」
 毒づいた声が鼻先で白く変わる。
 家まで飛んで帰れば大した距離ではないが、とても今の状態では真っ直ぐ飛べそうもない。
 歩いていても、上下動して見える地面を踏む足元はおぼつかず、尻尾を腰に巻いているのも辛くて、だらりと地面に垂れさがったままだ。
「気持ち、わり……っ」
 家にさえ辿りつけば、二日酔い常習犯の父親がよく飲んでいる薬があるはず……
 あとちょっとだ、あとちょっとだと言い聞かせ、一歩一歩進んでいたカカロットは、数メートル先にたむろしている人影にまったく気づいていなかった。
「痛ぇっ」
「――なんだ、おまえ。人を蹴っ飛ばして歩くのが趣味かぁ?」
 まさにテンプレと言いたくなる絡まれ方。
 ゆらりと立ち上がった男たちは、平時のカカロットなら一人でも適当に撒いて逃げるくらいは出来ただろうが、今はどう考えても分が悪い。それどころか、まだ絡まれようとしていることさえ、まだ、カカロットの脳は認識していなかった。
「へ?」
「へ? じゃねぇよ、ガキ。てめぇは俺の横っ腹蹴っ飛ばしといて素通りか?」
「あ、悪ぃ、オラ、酔っぱらっちまってて……」
 ようやく顔を上げ、自分を見下ろしている男達を確認したが、会ったことのない連中だ。容姿や身なりから察するに中級クラスの戦士だろうが、力はともかく、最下級戦士に位置付けられているまだ若いカカロットが知るはずもない。
 ただ、喧嘩を売る気満々の相手は、カカロットよりは全員体格に恵まれている。ようやくかなりまずい状況だと察した時には、太い腕が後ろからカカロットの首に回された。
「グッ、ぅぐ……っ、――っ、げ、ぇ……っ」
 離せと叫びたいが、何かしら虫の居所でも悪かったのか、男の腕は緩む気配がない。
 つま先が地面から浮き上がり、どんどん頭に送られる酸素が少なくなるにつれ、視界が暗くなっていく。
「殺すなよ。よく見りゃなかなか可愛い面してるからな。……いい玩具になってくれそうだぜ?」
「確かに」
 異なる声が下卑た笑いを響かせ、酔った頭でも自分がどう見られているのかハッキリ分かった。
 必死で抵抗しようと足をばたつかせたが、カカロットを締め上げている男以外の二人は、足がぶつかるかぶつからないかの位置に立って、大げさに避けるポーズをとるばかり。
 こんな、奴ら……にっ。
 遠のく意識をかき集めつつ、いよいよ覚悟を決めるしかないだろうかと思い始めた時、不意に圧迫感から解放され、重力のままどさりと倒れ込んでいた。
 
 地面に顔を打ちつけた痛みを感じると同時に、背後で息を飲む気配が聞こえる。
 振り向いて確かめる間もなく、細い矢のような蒼白い閃光がカカロットの頭上を続けざまに二本走った。
「てめ……っ」
 断末魔の声を上げる間さえなかったのだろう。
 息苦しさのあまり流れた涙に霞んだカカロットの目に、心臓を貫かれ、口から血の塊を吐いた男たちが重なり合う。
 信じがたい光景に恐怖もわかず、呆然としていると、カカロットの身体の方が先に悲鳴を上げ、混乱ごと吐きだすように嘔吐してしまった。
「見栄張って飲むもんじゃないぞ」
「――っ、離っ」
 離せと言いい終える前に腕を掴んで引き上げられ、まだ誰とも分からない男に向き直らされる。どろりと溶け出しそうな赤い半月を背にして経つ男の顔を見て、カカロットの目が大きく見開かれた。
「父ちゃ……」
「はぁ?」
 まさかと思いながら口にしかけた名前に、男が訝しげに反応する。
 文字通り短い反応だったが、それだけでも人違いだと分かった。
「――おまえ、名前は?」
「カ、カカロット……」
 恐怖ではない。
 だが、不躾な視線で見つめる男に答えたカカロットの声は震えていた。
「……ああ、なるほど」
 カカロットを立たせているのとは反対の手でスカウターを取り出し、装着して何かを確認していた男は、合点がいったとばかりに薄く笑って呟いた。
「バーダックの息子か」
「う、ん……」
「随分身の程知らずだな。こんな時間にこの辺りを泥酔してうろつくなんて自殺行為だぞ」
「そ、そうなんか?」
「ああ。――さっきの連中は、確かに中級クラスの戦士じゃあるが、放蕩の限りで、金だけ持ってるろくでなしだ。あのまま連れていかれてりゃ、好きなだけ楽しまれて、夕方にはここでおまえが死体になってただろうな」
「――っ、そん、な」
 まるで明日の天気でも話しているような退屈そうな男の口調は、かえって恐怖を煽った。絶句していると、男は黙って月明かりが射し込んでいる辺りまで引きずるようにしてカカロットを移動させた。
「父親にそっくりだな」
「……おめぇ、も」
「暗いところとはいえ、実の息子が間違うくらいだから似てるんだろうよ」
 興味なさそうに答えた男から視線を外せずにいると、無感動に言葉を発していた唇が不意に歪んだ。
「何……」
「見つめてくるから答えてやらなきゃいけないかと思ってな」
 そう言って真っ直ぐ顔を近づけてきた男がキスしようとしているのだと分かり、カカロットは自分でも火を噴きそうに顔が赤くなったのが分かった。
「そんなわけねぇだろ、止めろ、ターレス!!」
「へぇ? オレを知ってたのか?」
 どうやらカカロットに名前を叫ばれたのが予想外だったらしく、ただの退屈しのぎでしかなかったであろう男の声が初めて好奇心を帯びた。
「し、知らねぇっ、知らねぇけどっ」
「……名前は正解なのに、か?」
 クスっと笑う声は、さっきまでと違い、もう離れた位置から聞こえているはずなのに鼓膜が震えているのまで分かるような錯覚をさせた。
 
 どうしたって言うんだ、オラっ。

 かき乱される感情を何とか整理しようと視線を落とす。
 すると、カカロットの動揺をからかうようにターレスの手が腕を離し、代わりに少し低い位置にあるカカロットの腰を抱き寄せた。
「何だよ!?」
「何故オレを知っているのか聞きたいだけだ。だが、いつまでもこんな寒くて、死体がゴロゴロしてるところじゃ無粋だろう? オレの家に来い。この上だ。……さっきは、表があんまり五月蠅いから静かにさせに来たのさ」
「お、おめぇの家って……っ」
「怖いのか?」
「こ、怖くねぇ!!」
 自分のこの答えまで予測済だろうと分かっていても言わずにいられなかった。
 抱き寄せられたウェストの辺りを意味ありげに撫でる手の平の温もりも、わざと耳に吐息をかけるように囁く声も、全てが見えない糸でカカロットをじわじわと縛っていく。
 これで本当に生きていられるのかと思うほど、やかましく跳ねる心臓の音がやけに生々しい。
 だが、たとえ、路地に転がされた男たちと同じ運命をたどるとしても、覗きこまずにいられない何かがターレスの黒い瞳の奥にあった。

「ならご招待だ」
 三日月型に歪んだ唇から零れた冷やかな笑みを見つめ、カカロットはゴクリと音を立てて唾を飲んだ。




to be continued

ほんとに続くんだろな!?w
なんか意味深なだけの厨二男になっちまったよ、ターレスさん(;´▽`A``

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