たっぷり
2013.11.01.Friday
講堂を出たときには、もう空はオレンジの夕焼けに染まっていた。
ちょうど吹いてきた風に舞う落ち葉がすっかり黄色くなる季節にしては、少々薄着過ぎたかもしれない。
カカロットはパーカーの襟元を片手で軽く押さえ、一緒に記念講演を聞いていた友人と並んで正門を出た。
キャンパスを行き交う他の学生たちの邪魔にならないように正門脇にある少し引っ込んだスペースに向かい合って立ち、他愛のない話をする。お互い相手の言葉も少しは分かるのだが、完璧ではない。だから会話はこの国の共通語にならざるを得ず、自然と身ぶり手振りが多くなってしまうが、留学生の多いこの大学では珍しいことでもない。
明日の講義の課題について、二人で話し合っていると、カカロットは友人の肩越しに待ち人を見つけ、手を振った。
「先生!」
ターレスからはもういい加減先生は止めろと何度も言われ、はや一ヶ月近く経つが、なんとなく人前では気恥ずかしくて呼べなかった。もっとも、この呼び方の方が逆に他人の好奇心を煽ってしまうのだが……
案の定カカロットと話していた友人も、『先生』という単語は理解し、門柱の影から顔を出して、カカロットが声をかけた相手を確認した。
「先生?」
不思議そうに問われ、カカロットが慌てて大きくそうじゃないというように手を振り、すぐ傍まで来ていたターレスを紹介する。まだ不思議そうにしていながらも、カカロットの友人はそれ以上問いたださず、自分の名前を名乗りながら握手を求めてターレスに手を出した。
「先……っ、ターレス?」
慌てて言い直し、ターレスを見上げて眉をひそめる。機械的に手を出して握手を返しながらもターレスはいつものそつのない笑顔とは程遠い、強ばった顔をしていた。
「ターレス、大丈夫?」
戸惑っているのはターレスだけでなく、カカロットの友人も初対面の相手に食い入るように見つめられ、居心地悪そうにしている。カカロットはもう一度ターレスに声をかけ、やや力を込めてターレスの腕を引いた。
「あ、ああ。行くか?」
取って付けたように答えたターレスの視線は、まだ目の前の青年の青い目を見つめていたが、一つ大きく息を吐いて目を逸らした。
「うん」
ターレスらしくない反応に不安は感じたが、なんとなくここで問い質すことではない気がして、カカロットは友人にまたなと言うと、ターレスと腕を組んだ。
「先生」
「何でもないんだ。悪かった」
話は終わりだと言わんばかりの口調にぐっと詰まったものの、ターレスの横顔がなにか生々しい痛みを圧し殺しているように見え、とにかく家に帰るまでは何も言うまいと決めた。
「ターレス、晩ご飯何にする?」
ことさら明るい声でそうたずねると、穏やかな笑みで近くに美味しい店があると答えた。
分かってくれる方ももしかしたらいるかもしれないシリーズの二人、その後でした(^o^;)も少しまとまったら続き書きたいなーと思いつつ映画だっ(*^O^*)
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