今週は・・・

2013.10.22.Tuesday


 あてもなく飛んできた小高い丘の上に降り立つと、足元の土が前夜の雨を含んでいるのが分かった。
 少し肌寒く感じる風の中にも濡れた土独特の匂いが混ざっている。
 これでは腰を下ろせばアンダースーツが湿ってしまうだろう。
 思惑が外れたターレスは黙って夜空を見上げ、数分ごとに流れる光の筋を目で追った。雲に覆われた夜に幾筋も細い光の糸を引いているのは流れ星ではない。何十キロも離れた場所にある軍用機地からポッドが飛び立つ光だ。
 サイヤ人に生まれ、この星で育った者には見慣れた光景で、あの光が誰のポッドかなど考えもしない。いや、考えもしなかった。

 ――バカ野郎。
 ブーツの先が触れた小さな石を力任せに踏み潰し、頭の中で毒づく。
 左目を覆った赤いスカウターはターレスの気も知らず、沈黙したままだ。

「ほんとに、……出て行くなんて思わないだろ」
 誰もいない空間に向かってポツリと呟くと、自分の手で人生から押しやった男の人のよさそうな笑顔が脳裏に蘇った。
「くだらない」
 らしくもない感傷を自嘲し、勢いよく地面を蹴る。
 そのまま光の筋が見えない方に飛んで行こうと回れ右をしたターレスは、1メートルも離れていないところに浮かんでいる男を見て息を飲んだ。

「……ほんとに下らなかったな」
「トーマ……」
 決まり悪そうに頬をかいている男の名を呟いたきり、次の言葉が出てこない。
 トーマ以外の相手になら、こんな時いくらでも相手の自尊心や欲を擽る言葉を並べ、自然と主導権を握ってきたのに、何故この男の前では黙り込むことしか出来ないのか。
 自問しても答えは出ない。
 いつになく感情的になる理由も、取り繕えない訳も、もうとっくにわかっていたからだ。
「――っ、な、に……」
 何も言えないまま、目を逸らすことも出来ずトーマを睨みつけていると、前触れなく抱き寄せられてしまった。
 驚いて息を飲んだ直後、ターレスを抱きしめたトーマの腕には息苦しいほど力が籠り、早くなった鼓動がどちらのものかも分からなくなる。
「おまえに嫌われたのなら、当分、帰って来れない遠征にでも行って、存分に暴れて来ようと思ったけど、な……」
「行けばいいじゃないか!」
 抱きしめられて身動きできないまま、強い口調でそう言うと、トーマの乾いた笑いが耳元で響いた。

「行けなかった。場所だけ離れても解決にならないんだ。穏やかな時間も、遠征で暴れまくる時も、隣におまえがいないと生きてる実感がない」
「トーマ……」
「おまえも同じだろう?」
「そう、みたいな」
 ポツリと答えたターレスの肩をトーマが掴み、身体を離される。
 何ごとかと訝っていると、トーマはハハ、っと笑って、目の前のターレスが本物なのかと言わんばかりの顔になった。
「なんだよ?」
「うぬぼれるなと言われると思っていたからな。――おまえからそんな素直な言葉聞かされたら、明日惑星ベジータに隕石が落ちると言われても信じるぞ」
「ふん」
 顔を背け短く鼻を鳴らしたターレスが高く舞い上がると、トーマも遅れて飛び立った。
「――遠征、どうするんだ?」
「あー、登録抹消してもらいに行くか。多少の罰はあるだろうが、おまえを残して……」
「オレも行く」
「え?」
「あんた、意外に抜けてるから、ついててやるよ、トーマ」
「ぜひお願いします」
 クっと喉を鳴らして笑い、胸に片手をあててことさら慇懃に礼をしたトーマを見つめ、ターレスはトーマの腕を軽く掴むと、耳元で
「ベッドと同じだ。……あんたとなら、どこでも肌が合う」と囁いた。




なんだこりゃー(;´▽`A``
なんかこうサイヤンらしい男前な二人を書きたかったけど、どっちも温いなー(;´Д`A ```



23:31|comment(2)

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