かんわぃぃーー
2012.11.18.Sunday
スタンドの灯りを便りに一人本を読んでいると、いつものように緩く眠気を感じ始める。心地いい眠りにつくためにも、就寝前の読書は短時間できりのいいところまで読み進められるエッセイや短編に決めていた。
今夜もそろそろ寝るかと、枕元のスイッチに手を伸ばしかけたとき、廊下がごく小さな音で軋むのが聞こえた。気のせいだろうかとも思ったが、何となく人の気配を感じ、トーマはベッドを降りてドアに近づいた。
「ターレス、どうした?」
ドアの前にとっくに寝たはずのターレスが立っているのをみて、驚いてしゃがみこむ。サイズがよく分からずに買ってしまったパジャマは、まだターレスには少し大きいせいで、普通の格好の時よりも幼く見えた。
「おしっこ……」
目をこすり、俯いたまま蚊の鳴くような声でいったターレスの言葉に目を丸くし、トーマは下からターレスの顔を覗き込んだ。
「どうした、泣いてるのか?」
まだ5歳なら一人でトイレに行きたくないというのは珍しくもないが、トーマの家に引き取られるまでは、自立せざるを得ない状況にいたターレスがこんな風に部屋を訪れたのは初めてだ。トーマに気づかれて堪えられなくなったのか、隠しようもなく涙が流れたターレスは、唇を噛んで拳で目を拭った。
「とにかくトイレだな」
ブランケットまで引きずってきているターレスを軽々と抱き上げ、なんでもないことだとばかりに笑顔を見せる。褐色の頬に幾つか涙の痕があるのを見ると、どうやらここに来るまでなんとか一人で耐えようとしていたらしい。
「トーマ……」
「なんだ?」
「ひ、一人で……寝たくないっ、ヒクッ、ぅ……くっ、っ」
トイレの前で下ろされたターレスは、ブランケットをキュッと握りしめて、肩を震わせた。
「オレの部屋で一緒に寝ればいい。な?」
「うん……」
ホッと息をついたターレスの前に膝をつき、髪をクシャクシャと撫でてやる。ブランケットを預かって、ここで待っているからと言うと、トイレに行きかけたターレスは、トーマの首に手を回してぎゅうっと抱きついた。
「黒いの来たら、トーマがやっつけてくれるよな?」
「黒いの?」
「夢の中でおっかけられたんだ」
「ああ、そうか。もちろんだ、おまえはオレが守ってやる。だから、この家に来させたんだからな」
「うん」
不安そうだった顔に漸く笑顔が浮かび、ターレスはクルっと踵を返し、トイレにはいった。
「ほら、ちゃんと手を洗えよ」
「うん」
ターレスはいつになく素直に答えて隣の洗面所で踏み台に乗って手を洗った。
「抱っこか?」
後ろで待っていたトーマのところまで歩いてきたターレスに問いかけると、コクっと頷いた。
ブランケットを小さな背中にかけて、もう一度ターレスを抱き上げれば、洗ったばかりの冷たい手が首筋に触れた。
「トーマ」
「ん?」
「大きくなったら、オレがトーマを守るから。ずっとトーマといていいよな?」
「ああ。おまえがいたいだけいていいぞ。安心しろ」
肩に顔を押し付けて話すターレスの髪を片手で軽くすき、トーマは腕の中の心地いい重みと温もりに自然と笑みを浮かべていた。
ほのぼのーな感じもやっぱりいいね(*´∇`*)
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